惚気のろけ)” の例文
旧字:惚氣
勝「こりゃ驚きやした、手放しの惚気のろけてえのア、じゃアなんですね、お嬢さんは野郎を引ずり込んだッていと仰しゃるんでげすね」
「恥——。馬鹿をいえ。ここへ稽古に来ていた小普請組こぶしんぐみの息子とかに、熱くなって、さんざ、吾々に惚気のろけていたこともあるぞ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おやおや、もう、お惚気のろけですかい親分、ははははは——そりゃあそうと、さっきね変てこな武士が一人、宿を取りやしたよ、女を伴れてね。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしは一世一代の惚気のろけ演説をやった。流石社交界のつわもの共も、一言を発する者もなく、あっけにとられて八方からわしの顔を見つめていた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二時間ばかり、まるで小説の筋でも話して聴かすように、ところどころ惚気のろけまで交えて、立てつづけに話してきかせた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
まことに宣伝上手な奥さんだと思った。御主人の惚気のろけまで言っている。官邸だの次官だの局長だのと気障きざの限りである。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どうもコンナに御馳走になったり、勝手なお惚気のろけを聞かしたりしちゃ申訳もうしわけ御座んせんが、ここんところが一番恐ろしい話の本筋なんで致方いたしかたが御座んせん。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「もうわざとらしい云い訳なんかしないでいいよ。君は正面きってあの長髪の御主人の惚気のろけを云っていいんだよ」
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
弱虫の意気地なしが、徳とやらをもって人をなずける。雪の中を草鞋わらじ穿いて、みの着て揖譲おじぎするなんざ、惚気のろけて鍋焼をおごるより、資本もとでのかからぬ演劇しばいだもの。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いはゞそれはこの小説がひとつの惚気のろけであり目下のところ、惚気られてもちよつと文句が言へないほど外面的には仰せの通りだ、といふやうな意味である。
長篇小説時評 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
生若い連中が惚気のろけると、惚気というもの穢く見える。私のような爺さんが惚気ると、惚気がピカリと光って来る
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまらないところで惚気のろけられて、相手の小西という中老人は少しタジタジとなりましたが、陣を立て直して
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いよいよという時にゃあ、俺だって馴染み甲斐に魚っ子の一尾いっぴきも持ってお祝いに行こうと思っているんだ。惚気のろけがまじっても構わねえ、万事正直に云って貰おうじゃねえか。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「此のじんは猥談と惚気のろけ話がすこぶる得意なんですが、一席こゝでやって貰おうじゃないですか」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あれは道場へ来ると、こなたさまのことばかり饒舌しゃべります、誰彼なしにつかまえては、こなたさまの自慢ばなしです、わたくしにまでですよ、——あれは惚気のろけというものです」
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうなると、自棄になってるのか、惚気のろけてるのか、諦めをつけてるのか、それとも内々予防線を張ってるのか、訳が分らないやね。その頃僕達はよくあの家へ行ってたものなんだ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ああ気味きみわるかった。ついゆうべの惚気のろけかせてやろうとおもって、ったばっかりに、ひでえっちゃった。かわものッてこたァってたが、まさか、あれほどたァおもわなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
松づくしなぞはあいつにめられたほどで、と罪のないことを云えばお吉も笑いを含んで、そろそろ惚気のろけは恐ろしい、などと調戯からかい居るところへ帰って来たりし源太、おおちょうどよい清吉いたか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あれ、厭な人だよ、手放しで惚気のろけなんぞを言って。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
乃至は単なる惚気のろけ愚痴ぐちくだ、に過ぎないであらう。
「私」小説と「心境」小説 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「おや、御馳走様! どこかのお惚気のろけなんだね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
船へ帰ってから惚気のろけ話などするのが聞える。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「悪口もいけず、惚気のろけもいけない——」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あわてちゃいけねえ、この家と掛り合いの人間で、最初に逢った男だ。訊いたら何とか言うだろう、懐の十手を引っ込めて、惚気のろけでもいわせてみるがいい」
またいじらしくも思われたところから、ついつい声をかけたところ、惚気のろけを聞かされてしまったのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
でも、先にそれを云ってしまっちゃ御慰おなぐさみが薄い。まあ当り前の、エー、お惚気のろけのつもりで聞いて下さいよ。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そう事がきまればいが…なんだって女子おんなッこと色事をして子供を出かし、子を堕胎おろそうとして女が死んだって…人殺しをしながら惚気のろけを云うなえ、もうちっよこしてもいんだが
小次郎は、彼の、惚気のろけとも言い訳ともつかない長文句を、炎天に聞かされて苦笑いも作れず
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時にこの忠臣のお守りをして、玄宗皇帝や楊貴妃の冥福を祈りつつ一生を終ろうという清冽せいれつ晶玉しょうぎょくの如き決心を固めた……と告白しているが、実は大馬力をかけたお惚気のろけだね
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
受け賃に何かおごって、小柳の惚気のろけでも聞かせねえか。おい、おい、なんとか返事をしろ。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「見す/\お得意を召し上げられた上に、お惚気のろけを聞かされるんですから遣り切れません」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「とんだ惚気のろけだ。」苦笑が、藤吉の口を曲げた、「ここらあたりと狙って、ちょっと一本ちこんでみたんだが、おこよさんの口ぶりじゃあ、どうやら金の字だったようだのう。」
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今更その条道すじみちを話して聞かせる……惚気のろけなら受賃を出してからにしてもらおうし、愚痴ぐちなら男らしくもない、したまえ——だが、私たちが誤解をしているんなら、おおいに弁じて聞かせてくれ
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しまいには惚気のろけ交りにそんなことを云う始末であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「金儲けの話はいけないが、その外の事なら、大概我慢をして聴いてやるよ、惚気のろけなんざいちばんいいね——誰がいったいお前の女房になりたいって言い出したんだ」
……おおそうそう、そうだったっけ、太郎丸様より伊集院さんの方が、お仙さんには用があった筈だ。これまでも時々伊集院さんから、お前さんの惚気のろけを聞かされたものさ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さアもう、かんにんならぬ。ぬけぬけと、そのお惚気のろけ、帰すことではございませぬぞえ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝よくちょうになり伴藏は志丈を連れて我家わがやへ帰り、種々いろ/\昨夜ゆうべ惚気のろけなど云っている店前みせさき
つい酒の上じゃ惚気のろけを云った事もあるそうですが、根が悪人ではないのですから、をなくすというおそろしい相談に震い上って、その位なら、御身分をお棄てなすって、一所にげておくんなさい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちが悪いよ。惚気のろけを言う為めに、見もしない夢を話す」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
聞こうじゃあねえか。惚気のろけでもなんでもいいや
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
惚気のろけ豪華版
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
といったような事を、惚気のろけ交りに、番硯ばんすずり禿筆ちびふでで根気よく鼻紙三枚半にのたくらせたものです。
まだ是は美代吉には話をせずに自分の心のうち惚気のろけに、美代吉の紋と吾が紋を比翼に附けてあつらえた鉈豆の煙管、去年の九月四日の、妻恋坂の下で、これは慌てゝ取り落したものだが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
外でも、詩の会、書の会にことよせて逢い曳きをしているじゃないか。甚しい時には、人前もなく、細香女史の下手な墨竹などへ、山陽ともある者が、麗々とお惚気のろけ画讃がさんを書くことすらある。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうであろうそうであろう、ひとつ惚気のろけでも聞かしてくれぬかの」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「妙なところで惚気のろけを聞かされた」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ば、馬鹿なッ。親父をつかまえて、惚気のろけを聞かせる奴もねえものだ、へッ、へッ」
『——今の、これにおる近松勘六めが、がらにものう、惚気のろけをいうた』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚「いやな畜生だ惚気のろけを聞くんじゃアねえ、女を殺した訳を云えよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)