恥辱ちじょく)” の例文
こんどこそ、みごとに二十面相をとらえて恥辱ちじょくをそそがなければなりません。名探偵のまゆには深い決意の色がただよっていました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
町の見物人たちのひとりが、春吉君のことを、まあ、じょうぶそうな色をしてと、つぶやいたとしても、春吉君は恥辱ちじょくに思うのである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
その、「学校はよくできる」という調子に全く平たい説明だけの意味しかひびくものがないのを聞いて復一は恥辱ちじょくで顔を充血じゅうけつさした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
元来が引力に逆らっての無理な事業だから出来なくても別段の恥辱ちじょくとは思わんけれども、蝉取り運動上には少なからざる不便を与える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕も君のような痴な奴とは、絶交だ、六十の婆あと、むすめの区別がつかないような奴なんかと、朋友ともだちになってるのは恥辱ちじょくだ」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
然し、私があの人の影におびえて立ちすくむとき、私自身の恐怖の中には、あの人に苦痛と恥辱ちじょくを与えたくない思いやりが常にこめられていたのだ。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかもきっと不幸と恥辱ちじょくとの中に。有王よ、わしは妻子の安否あんぴを気づかった時、いつもお前のことを頼みにしていた。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その外幾人となく取てかかる者この有様なれば、ついには大関なにがし自ら大勢の恥辱ちじょくそそがんとのさりのさりと歩み出づ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「わたしが、殺されかけたあの男、あなたが、いかに油断とは言え、あんな恥辱ちじょくを取ったあの男を、いつまで、あのまま放って置くのですよう、先生」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
金と詭計きけいとで納得させ、とうとう琢堂にとっては一代の恥辱ちじょくとも言うべき極彩色の普賢菩薩ふげんぼさつを作らせたのでした。
「ぼくらは独立の第一歩において、かれのやっかいになった、そしていままたかれの力をたのむために、頭をさげなければならないとなると、大なる恥辱ちじょくだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
なるほど弱輩なものが突拍子もないまずい質問をしたりしては失礼にもなるしまた日本の学界の恥辱ちじょくになるという心配もあることであろうと思われたことであった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「やがて、信長が来て、検分のとき、みぐるしくも、取り乱したるものかな——などといわれては恥辱ちじょくぞ」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「アレだ! 何かってえとヤレ手前、やれ恥辱ちじょく——ふん! お武士さむらいさんは違ったもんですよウ、だ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其事それをセラ大寺の壮士坊主が聞いて居てすぐパルポ商人に向い、どうも無礼だ、嫌だと言う女を無理に裸体にして恥辱ちじょくを与えるというのは実に不届き千万な訳である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それゆえ人に笑われても恥辱ちじょくとは思わぬ。けれども、ああ、信じて成功したいものだ。この歓喜!
かすかな声 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかしかかる行いのために苦しむ民がここにあるなら、それは一国の恥辱ちじょくであり、また人類への侮辱であろう。正しい日本はかかる行いを改めるのにはばかる事があってはならぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
華冑かちゅうの公子、三男ではあるが、伯爵の萩原が、ただ、一人の美しさのために、一代鐘を守るではないか——既に、この人を手籠てごめにして、牛の背に縄目の恥辱ちじょくを与えた諸君に
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯の一度もやっていなかったということは、何という遺憾、何という恥辱ちじょくだったでしょう
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一家の不名誉ふめいよと、恥辱ちじょくは、このうえもないし、飼い主にとっても、大きな損害さ
ほかに対しては卑屈これ事とし、国家の恥辱ちじょくして、ひとえに一時の栄華をてらい、百年のうれいをのこして、ただ一身の苟安こうあんこいねがうに汲々きゅうきゅうたる有様を見ては、いとど感情にのみはしるのくせある妾は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
内証ないしょで教えることも聞くことも書生間の恥辱ちじょくとして、万々一もこれを犯す者はない。ただ自分一人ひとりもってそれを読砕よみくだかなければならぬ。読砕くには文典を土台にして辞書に便たよほかに道はない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かれらはただいま追跡ついせき中であると検事けんじが言った。そうすると、わたしはその男とならんで、囚人席しゅうじんせきに入れられて、巡回裁判官じゅんかいさいばんかんの前に出る恥辱ちじょく苦痛くつうをしのばなければならないのであろう。
敵に捕えられて恥辱ちじょくの死につく運命をまぬがれしめ給え、とのことである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
勝手に歩くということはおれの恥辱ちじょくだ。いいからひっくくってしまえ。
一度ならずも二度までも、汝のために恥辱ちじょくを受け、おめおめ引き退っておられようや! 法術破れし上からは刀の目釘つづくまで、切って切って切り合おうぞ! 吾、刀を抜くからはいざ汝も刀を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また一方に種族の階級が隔たるほど、女が劣等な男子を聟にすることは恥辱ちじょくである。自然男子を選択する風が行われて、前代の如く男子の我儘に従って雑婚することが少くなって行ったに違いない。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そうした恥辱ちじょくをあとにもさきにもうけたことがなかったのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
恥辱ちじょくのごとく考えしは盲人の思い過しとや云わん
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ここに起立しているのは恥辱ちじょくであります。」
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのことがどんな人殺しよりも窃盗せっとうよりも恥辱ちじょくだという気持、しかしついにそれをうちあける場面の描写、あれには実に深い心理的恐怖が含まれている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒門町のお初というものが、下り役者にうしろを見せるのは、一生の恥辱ちじょくとも思っているのであろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その競争は、必然、寸時でも秀吉の側を離れては恥辱ちじょくとする小姓組のあいだに、最も猛烈であった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしかかる行いのために苦しむ民がここにあるなら、それは一国の恥辱ちじょくであり、また人類への侮辱であろう。正しい日本はかかる行いを改めるのにはばかる事があってはならぬ。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大里貫之助の素直な調子には、恥辱ちじょくを打ち開ける努力で痛々しいものさえありました。
現今の教育の結果は自分の特点をも露骨に正直に人の前に現わす事を非常なる恥辱ちじょくとはしないのであります。これは事実という第一の物が一元的でないという事をあらかじめ許すからである。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祇園精舎ぎおんしょうじゃに在す釈迦牟尼しゃかむに仏よ。あなたのあわれな弟子は、今危難の淵におぼれかかって居ます。恥辱ちじょくの縄に亡びかかって居ります。どうぞあわれなこの声をお聴き取り下さい。お救い下さい。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
康頼 いつもは私の車の先払さきばらいの声にもふるえあがった青侍あおざむらいが、急に征服者のように傲慢ごうまんな態度をもってのぞみだした。彼らと車を同じくすることだけでもえられない恥辱ちじょくと思っていたのに!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あるいは磯山自ら卑怯ひきょうにも逃奔とうほんせし恥辱ちじょく糊塗ことせんために、かくは姑息こそくはかりごとめぐらして我らの行をさまたげ、あわよくばばくに就かしめんとはかりしにはあらざると種々評議をこらせしかど、ついに要領を得ず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「そうだ、ぼくらは野蛮人やばんじんの命令に服することは恥辱ちじょくだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「主人に恥辱ちじょくこうむらせた罪は!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとで小林君に笑われたりしては、少年探偵団の恥辱ちじょくです。信雄君は死にものぐるいの勇気をふるいおこして、おずおずとふたりのあとにしたがいました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何ら、御無念とも、恥辱ちじょくとも、またかくて自滅のふちへ追いやらるるとも、お感じになりませぬか
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よし主人が小供をつらまえて愚図愚図ぐずぐず理窟りくつね廻したって、落雲館の名誉には関係しない、こんなものを大人気おとなげもなく相手にする主人の恥辱ちじょくになるばかりだ。敵の考はこうであった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああ、かれは帰朝そうそう、はやくもこの大盗賊のとりことなり、探偵にとって最大の恥辱ちじょくを受けなければならない運命なのでしょうか。ああ、ほんとうにそうなのでしょうか。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おん大将に死におくれたと聞えては、弓矢の恥辱ちじょく、天下の笑われもの」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを知ると青年は恥辱ちじょくの為に一層青くなった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)