巴里パリ)” の例文
巴里パリの北の停車場でおまえとわかれてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだか判らない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうしたら倫敦ロンドンは二十四時間のうちに無人の廃墟となるであろう。一方にヴェルダンが陥落してカイゼルの宮廷列車が巴里パリに到着する。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だしてくれるのよ。巴里パリの街には忍術使いらしい人ずいぶん見かけたけど、日本はダメだわねえ。安吾さんぐらいのもんじゃないの
女忍術使い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
画だっても、巴里パリの町で見る afficheアフィッシュ のように気の利いたのはない。しかしかく広告柱があるだけはえらい。これが一つ。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
英吉利イギリス船にて海峡を渡り午後一時半頃仏蘭西フランスのカレー駅より乗車、五時頃巴里パリ著。上野に迎へられ直ちにマゼスチツク・ホテルに入る。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
しかし、巴里パリなぞにはこの新らしき雅味が至る処に存在する。それが巴里の羨やましい処で仏像を洗い落したような尖端は発祥しない。
彼は何とも自身の位置を説明ときあかしようが無くて、以前に仙台や小諸こもろへ行ったと同じ心持で巴里パリの方へ出掛けて行くというにとどめて置いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巴里パリの凱旋門の下では、夜も昼も無名戦士の墓辺の焔がもやしつづけられていて、そこには劇的に兵士が立って火を守っていた。
時代と人々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
弟は大分苦しんでいたらしいが、研究がまとまらないうちに巴里パリへ行くことになり、向うで病気をして、帰って間もなく死んでしまった。
重要会議で伯爵が巴里パリに滞在中の出来事なんですが、どこの土地でも、どこそこつうと名のつく道楽者が一人や二人はいますわね。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
意外な事をらしたのは、———巴里パリ時代に百貨店の売り児をしていた或る仏蘭西フランスの婦人と云い交したことがあったと云うこと。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが鉄道のことは君の方が詳しいわけなんだね、君は病気になる前までP・L・M(巴里パリ・リオン・地中海鉄道会社)にていたそうだから
吹奏楽は一瞬間に消え、アムステルダム発巴里パリ行の急行列車の汽笛が長く尾をひいて横切つて行つた。彼はふと旅愁を感じた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
エリゼェの大統領官邸で贈与された(彼は巴里パリで生物学を研究するかたわら党費を稼ぐために豆腐を製造販売していたので。)
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
巴里パリオペラ座の合唱団が『ファウスト』の「兵士の合唱」(J七四八八)を入れたのがある。良いものであったが古くなった。
うるう八月十三日(文久二年)朝八時ロシフ※ルトにちゃく。ロシフ※ルトは巴里パリより仏里にて九十里の処にある仏蘭西フランスの海軍港なり。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは当時清朝の重臣曾紀沢そうきたく巴里パリに於ける演説に、自国を擬するに眠れる獅子を以てし、ひとたび覚醒せんか、支那はまた今日の支那に非ず
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「ええ、すつかり煙草はやめにしました。巴里パリに二人美人がゐましてね、その人たちは私が煙草臭いと、接吻させないと云ふものですから。」
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
翌年の春、阪井の一家は二カ月ばかりの予定で巴里パリへ遊びに行きましたが、なぜかあわててアメリカ経由で匆々そうそうに日本へ帰ってしまいました。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
のベルネル・アルペンの第二高峯、アレッチホルン Aletschhorn 4182m. は、巴里パリの旅でも夢に見たくらいであった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
モスコーの一敗辛くも巴里パリに遁れ帰りたる大奈翁だいなをうに対し、普帝が自由と光栄の義戦を起すべく、三月十七日、大詔一下して軍を国内に徴するや
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
サイゴンは小巴里パリだと云はれる程、巴里的な街だと聞いて、ゆき子は篠井春子がねたましかつた。自分もそんな美しい街へポストを持ちたかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
(その時私は、いかに自分の手際てぎわが鮮やかで、巴里パリ伊達者だてしゃがやる以上に、スマートで上品な挙動にかなつたかを、自分で意識して得意でゐた。)
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その時、レビュー劇場の舞台では「巴里パリの花売娘」の一場面、夾竹桃きょうちくとうの花咲き乱れる花園に、花売娘の一隊が登場して、歌いつ舞いつしていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ココア湯。菓子パン小十数個。塩センベイ一、二枚。夕。焼いわし四尾。粥三ワン。フヂ豆。佃煮。ナラ漬。飴二切。巴里パリ浅井氏ヨリ上ノ如キ手紙来ル。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして彼の巴里パリでの三年間の生活は、殆んどその一個の指環のために費されたと言ってよかった。彼は貯蓄に努めた。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その息子さんも、一千八百四十一年になさった旅の途次、オペラ座の歌姫にだまされたあげく、巴里パリの客舎で、同じような死に方をして果てました。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
巴里パリの夜景 巴里の市街は夜の景色も清らかに、かげの深いところにも電灯が明るくともっている。市中の人々の動きにも春があらわれ、月に酒を
西航日録 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あの複雑な巴里パリが、適確な観察の光線の中で、首尾よく踊らされているのである。盛大があり、零落があり、恋愛があり、欺瞞があり、嬌笑がある。
しかるに巴里パリ一流ホテルのパンも、料理屋のパンも第一色が黒く、味も悪く、粗悪だったので、「有名な巴里のパンも中村屋のパンに劣ること数等だ」
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
巴里パリしくは日本高円寺の恐るべき生活の中に往々見出し得るこの種の『半偉人』の中でも、サミュエルは特に『失敗せる傑作』を書く男であった。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いくさおもむけば必ず大勝利をというたものだが、肝心緊要の場合に間に合わさず、売ってしまったはさっぱり分らぬとジュロールの『巴里パリ記奇』にづ。
また藤沢利喜太郎博士が巴里パリで開かれた万国数学会議に出席して、日本の数学のことを略述されたものがあって、この藤沢博士の論文は短篇ではあるが
数学史の研究に就きて (新字新仮名) / 三上義夫(著)
巴里パリには、楽劇を何時でもやつてゐる劇場が沢山あり、そのうちでも、オペラ座と、オペラ・コミツク座とは国家が利益を度外視して経営してゐるのです。
ふらんすの芝居 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
不折ハ今巴里パリニ居テコーランノ処ヘ通ッテ居ルソウジャナイカ。君ニウタラ鰹節一本贈ルナドトイウテ居タガ、モーソンナ者ハ食ウテシマッテアルマイ。
これはこの名探偵を巴里パリの外へ追出しておいて、その留守にうまうまと錦の壁布事件の大事件をしたのである。
お雪は思いがけないほど、明澄めいちょうな天地に包まれて、昨日きのうまで、暗い、小雨がちな巴里パリにいた自分と、違った自分を見出みいだして、きつねにつままれたような気がした。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すなは巴里パリ叫喊きようかん地獄の詩人として胸奥の悲を述べ、人にそむき世に抗する数奇の放浪児が為に、大声を仮したり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
当時は仔細あつて私の心は彼に在つてこゝに無しといふ有様で、好加減いゝかげんに聞流して置いたが、其後北京へ行つて暫らく逗留してゐると、或日巴里パリから手紙が来た
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
また、巴里パリのルヴューに見る裸体が「いき」に対して何らの関心をももっていないことはいうまでもない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それに付けて思い出されるのは、わたしが巴里パリに滞在していた頃、夏のあかつきの深いもやが一面にとざしている大きい並木の町に、馬の鈴の音がシャンシャン聞える。
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぬれ紙につつんで灰の中で焼く焼栗を電灯の下でぼつぼつ食べていると、むかし巴里パリの街角で、「マロンショウ、マロンショウ」と呼売していた焼栗の味をおもい出す。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ジイド等の大家を完膚かんぷなきまでに否定している一方、ジャン・ポール・サルトルがエグジスタンシアリスム(実存主義)を提唱し、最近巴里パリで機関誌「現代」を発行し
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
巴里パリのセイヌ河のほとりに、古本屋が並んでいて、皺くちゃな婆さん達が編物をしながら店番をしているのは誰もが知っていることだが、アナトオル・フランスも少年の頃
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
画家は、製作のために夜中の汽車で巴里パリへ立ったのだが、その前に是非とも彼に話さなければならないことがあるのだと云った。そこでドリアンは止なく画家を伴って帰った。
じつはこれはこの間やりました世界風俗展で、巴里パリの人形が着ていたのですが、と言った。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
巴里パリで金牌を得るまでは一向知られなかった大橋翠石氏、猛虎一声たちまち大家になって帰朝したので、さっそく麹町六番町の仮寓へ訪ねると六曲一双の屏風へ五頭の虎を描いていた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
仏蘭西フランスは淫奔奢侈の国のように思う人もあるがそれは巴里パリの一面を覗いただけの旅行者の言う事で、純粋なる仏蘭西人の家庭または地方の生活を見ればそうでない事はすぐに分る話です。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この辺の家は「巴里パリの屋根の下」のように立て込んでいるので、窓を少しでもひらくと、周囲の五六軒の家の人たちやその二階などを間借りしている人たちに顔を見られる危険性があった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
巴里パリの屋根の下」という映画が封切られた頃で、それは私に深い感銘を与えた。そのため、そのなかに鉄道線路の傍で喧嘩けんかをする場面があるが、夢はそのシーンを借りて、展開された。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)