小楯こだて)” の例文
でも、私は目的の土蔵の窓の下にたどりつくと、丁度その土塀のきわにあった一つの岩を小楯こだてに身を隠して、じっと、あたりの様子を窺った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕は——僕ももちろん危険を避けるためにトックを小楯こだてにとっていたものです。が、やはり好奇心に駆られ、熱心にマッグと話しつづけました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、何とも申しようのない処を、木戸口をまわりに、半身で、向うからお悦が、松を小楯こだてにおいでおいでを合図した。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駕籠屋を伴って戻ると、あやはそこから家へ帰らせ、庄兵衛は小楯こだて山の上まで、伊原の乗った駕籠を送っていった。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相手が英夫の小楯こだてにとっていた鉄柱にでも突きあたったのであろう、したたかな風につかったような気がした。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あっぱれ恩威ならび行われて候と陛下を小楯こだてに五千万の見物に向って気どった見得みえは、何という醜態であるか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
飛退くと、どうして肩から解いたか、重い荷物は草の上に落ちて、お六は柳を小楯こだてきっとなります。
どこという確かなあてもないが、怪しい馬は水から出て来るらしいというのを頼りに、二人は多々良川に近いところに陣取って、一本の大きいはじの木を小楯こだてに忍んでいると
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
素破すわ! 雁金検事も大江山課長も、卓子を小楯こだてにとって、無気味な哄笑のする方を注視した。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云いながら柵矢来に寄附いて小楯こだてに取り、腰に差して居た木剣作りの小脇差を引抜き
坂本は堺筋さかひすぢ西側の紙屋の戸口に紙荷かみにの積んであるのを小楯こだてに取つて、十文目筒もんめづゝ大筒方おほづゝかたらしい、かの黒羽織をねらふ。さうするとまた東側の用水桶の蔭から、大塩方の猟師金助が猟筒れふづゝで坂本を狙ふ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
弁信の小楯こだてに取った卒塔婆の一面に、この時、真向まともに月がさすと、それに
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが、これもお尋ね者のお藤ッ! と気がついて捕吏の面々はあらたにいろめき渡ったのだが、お藤は、ゆっくりと歩を運んで、幹を小楯こだてに、ずらりと並ぶ捕役とりやくの列に砲口を向けまわして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
副院長は明かにきもつぶしたらしかった。不意を打たれて度を失った恰好で、クルリとこっちに向き直ると、まだ締まったままのドア小楯こだてに取るかのように、ピッタリと身体からだを寄せかけて突っ立った。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
色あるきぬ唐松からまつみどり下蔭したかげあやを成して、秋高き清遠の空はその後にき、四脚よつあしの雪見燈籠を小楯こだてに裾のあたり寒咲躑躅かんざきつつじしげみに隠れて、近きに二羽のみぎは𩛰あさるなど、むしろ画にこそ写さまほしきを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
音吉の小楯こだてにとっている大木の幹が邪魔になって、その上闇夜の暗さに、そう遠くまで見通しが利かぬので、ただもどかしい思いをするばかりだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唐突だしぬけに云った。土方てい半纏着はんてんぎが一人、床几は奥にも空いたのに、婆さんの居る腰掛を小楯こだてしゃがんで、梨の皮をいていたのが、ぺろりと、白い横銜よこぐわえに声を掛ける。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛退くと何うして肩から解いたか、重い荷物は草の上に落ちて、お六は柳を小楯こだてに屹となります。
沙金しゃきんも、今は弓にたかうすびょうの矢をつがえて、まだ微笑を絶たない顔に、一脈の殺気を浮かべながら、すばやく道ばたの築土ついじのこわれを小楯こだてにとって、身がまえた。——
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松の木を小楯こだてに取りまして、不埓至極な奴だ、旦那をなんと心得る、羽生村の名主様であるぞ、粗相をすると許さんぞというと、大勢で得物えもの/\を持って切って掛るから、手前も大勢を相手に切り結び
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人は扉を小楯こだてに、部屋の中を覗き込んだ。と同時に、外からも、中からも、驚きと喜びの叫び声。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
濡れくさつたあはせをかなぐり捨てると、たくましい赤裸ぱだか、東作は行燈を小楯こだてきつと身構へます。
金色夜叉こんじきやしや中編ちうへんのおみやは、この姿すがたで、雪見燈籠ゆきみどうろう小楯こだてに、かんざきつゝじのしげみにすそかくしてつのだから——にはに、築山つきやまがかりの景色けしきはあるが、燈籠とうろうがないからと、ことさらにゑさせて
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かく近づいた跫音あしおとは、くだんの紫の傘を小楯こだてに、土手へかけて悠然ゆうぜんおぼろげに投げた、えんにしてすごはかまに、小波さざなみ寄するかすかな響きさえ与えなかったにもかかわらず、こなたは一ツ胴震どうぶるいをして、立直たちなおって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東作は銀煙管ぎんぎせる逆手さかて構えに、火鉢を小楯こだてに取ってきっとなりました。
大きな木の幹を小楯こだてに、暗中の人影に目をこらし、耳をすました。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東作は銀煙管を逆手構さかてがまへに、火鉢を小楯こだてに取つてきつとなりました。
永左衞門は建物の袖を小楯こだてに、必死の聲を絞りました。
二つ三つ、かはして柳を小楯こだてに取りました。