対向さしむか)” の例文
旧字:對向
「怪我ぐらいはするだろうよ。……知己ちかづきでもない君のような別嬪べっぴんと、こんな処で対向さしむかいで話をするようなまわり合せじゃあ。……」
味方らしい年上の方が、対向さしむかいになると、すごいようで、おのずから五体がしまる、が、ここが、ものの甘さと苦さで、甘い方が毒は順当。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……その酒さえ、弱身のある人が来て対向さしむかいになると、臆面の無いほてった顔を、一皮かれるようにめるんだからの。お察しものです。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少くとも青年の佳士かし、衣冠正しい文学士が、たとえば二人対向さしむかいの時、人知れずであろうともひとり省みて恥辱でないことはない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……と寝台の横手、窓際に卓子テエブルがあるのに、その洋燈ランプせながら話したが、中頃に腰を掛けた、その椅子は、患者が医師せんせい対向さしむかいになる一脚で
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中にも大島をはるかに望んで、真鶴の浜に対向さしむかう、熱海の海の岸一帯、火山が砕けた巌を飛び飛び、魚見岬にく間、小石さざれいしにも白波や、貝殻にも潮の花。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うそおもふなら、退屈たいくつせずに四日よつか五日いつかわし小屋こや対向さしむかひにすはつてござれ、ごし/\こつ/\と打敲ぶつたゝいて、同一おなじふねを、ぬしまへこさへてせるだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
板戸一つがぐ町の、店の八畳、古畳の真中に机を置いて対向さしむかいに、洋燈ランプに額を突合つきあわせた、友達と二人で、その国の地誌略ちしりゃくと云う、学校の教科書を読んでいた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其時そのときすはつて蒲団ふとんが、蒼味あをみ甲斐絹かひきで、成程なるほどむらさきしまがあつたので、あだかすで盤石ばんじやく双六すごろく対向さしむかひにつたがして、夫婦ふうふかほ見合みあはせて、おもはず微笑ほゝえんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
虫蝕むしくいと、雨染あまじみと、摺剥すりむけたので分らぬが、上に、業平なりひらと小町のようなのが対向さしむかいで、前に土器かわらけを控えると、万歳烏帽子まんざいえぼしが五人ばかり、ずらりと拝伏した処が描いてある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちら/\ゆき晩方ばんがたでした。……わたくしは、小児こども群食むらぐひで、ほしくない。両親りやうしん卓子ていぶる対向さしむかひで晩飯ばんめしべてた。其処そこへ、彫像てうざうおぶつてはいつたんですが、西洋室せいやうまひらきけやうとして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
対向さしむかいの三造は、脚絆きゃはんを解いた痩脛やせずねの、疲切つかれきった風していたのが、この時遮る。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
容態が容態ですから、どうぞ息のある内にと心配をしていたんですが、人に相談の出来る事じゃなし、御宅へ参ってお話をしようにも、こりゃ貴女と対向さしむかいでなくっては出来ますまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地柄じがら縞柄しまがらは分らぬが、いずれも手織らしい単放ひとえすそみじかに、草履穿ばきで、日に背いたのはゆるやかに腰に手を組み、日に向ったのは額に手笠で、対向さしむかって二人——年紀としも同じ程な六十左右むそじそこら婆々ばば
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法師が入った口とは対向さしむかい、大崩壊の方の床几のはずれに、竹柱に留まって前刻さっきから——胸をはだけた、手織じまの汚れた単衣ひとえに、ゆるんだ帯、煮染めたような手拭てぬぐいをわがねた首から、うなじへかけて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ね、隠れて五日ばかり対向さしむかいで居るあいだに、何でもそのむすめが惚れたんだ。無茶におッこちたと思いねえ。五日目に支那の兵が退いてく時つかめえられてしょびかれた。何でもその日のこった。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ね、隠れて五日いつかばかり対向さしむかひでゐるあひだに、何でもその女がれたんだ。無茶におツこちたと思ひねえ。五日目に支那の兵が退いてく時つかめえられてしよびかれた。何でもその日のこつた。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
対向さしむかいの、可なり年配のその先生さえわかく見えるくらい、老実なくち
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テエブルわきに椅子にかかって、一個ひとりの貴夫人と対向さしむかいで居た。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寒気がするとて、茶の間の火鉢に対向さしむかいで
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって姉さんが、どんな事があればッたって、男と対向さしむかいで五分間と居る人じゃないのよ。貴下は口前が巧くって、調子が可いから、だから坐り込んでいるんじゃありませんか。ほんとうに厭よ。貴下浮気なんぞしちゃ、もう、沢山だわ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)