孤独こどく)” の例文
旧字:孤獨
さらばといって、あの孤独こどくなかしの幸福こうふくで、あきになるとれてしまうくさが、はたしてしあわせであるということができるだろうか?
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「自然に親しむには、孤独こどく沈黙ちんもくに限るよ。明日ここを出発するまでは、できるだけおたがいにそうした気持ちですごしたいものだね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その自分の姿が、いかにも不幸で孤独こどくわびしげな一個の若者といった格好かっこうなので、しまいには、我と我が身がいじらしくなってくるのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それに、子供の頃の母親の愛情なんかと云うものは、義父のつぎのもののようにさえ考えられ、私は長い間、孤独こどくのままにひねくれていたのだ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
潔癖を持つ事は時に孤独こどくさみしさが身をむ事もあるが、つねに、もののイージーな部分にまみれないではっきりとして客観的にものを観察出来て
親しい友だちでもそうである。かれは痛切に孤独こどくを感じた。誰も知ってくれるもののない心の寂しさをひしと覚えた。こがらしが裏の林をドッとらした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
北海道の人里はなれた植民地に咲く福寿草は、そこに孤独こどくな生活を送る人々の心を、どんなになぐさめることでしょう。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
思うに盲目の少女は幸福な家庭にあってもややもすれば孤独こどくおちいやす憂鬱ゆううつになりがちであるから親たちはもちろん下々しもじもの女中共まで彼女の取扱とりあつかいに困り
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
前にも言ったとおり、恥かしがりで孤独こどくなぼくには、なにかにつけ、目立った行為こういはできなかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
物産を蕃殖はんしょくせしめ、有無うむを相通ぜしめ、水道、溝渠こうきょ、貯蓄等の民政を振作し、いて鰥寡かんか孤独こどく愛恤あいじゅつする等のおのずから現時の国家社会制を実践したるもの一にして足らず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この私の少年時の幸福な思い出と言えばその殆んど全部が此処ここに結びつけられているような高原から、私を引き離していた私の孤独こどくな病院生活、その間に起ったさまざまな出来事
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はちょうどきりの中に閉じ込められた孤独こどくの人間のように立ちすくんでしまったのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飢餓きが冷遇れいぐうしのびながら、職を求めて漂泊し、人の世のさんたる辛苦しんくめつくして、しかも常に魂のたされない孤独こどくに寂しんでいたヘルンにとって、日本はついにそのハイマートでなかったにしろ
孤独こどくなるストロンボリーのいただきにけむりたつ見ゆしたしくもあるか
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
また知る、孤独こどくは我が純清じゆんせいの「真」を汚さざるを。
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ありとある孤独こどくのものは
秋の一夕 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
おじさんは、孤独こどくなのが、さびしかったのでしょう、ときどきマンドリンなどらして、ひとりで自分じぶんをなぐさめていました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
結局、いつもの通り、湖の岐入とS川との境の台地下へボートを引戻ひきもどし、蘆洲の外の馴染なじみの場所にめて、復一は湖の夕暮に孤独こどくを楽しもうとした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だが、何事もひしかくしにして済まされるものではあるまいと思っていた。そう思って来ると、与平はずしんと水底に落ちこむような孤独こどくな気持ちになって来た。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かれの眼には、その雀が孤独こどく象徴しょうちょうのようにも、運命の静観者のようにもうつった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すべて春松検校がその内弟子をぐうする様を真似厳重げんじゅうに師弟の礼をらせたかくして大人おとなたちの企図したごとくたわいのない「学校ごッこ」が続けられ春琴もそれにまぎれて孤独こどくを忘れていたのであるが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
孤独こどくなるもののごとくに目のまへの日に照らされしすなはへ居り
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ああまた、ながい、物憂ものうふゆあいだ、このとしとったと、北風きたかぜと、ゆきとのたたかいがはじまるのであります。そして、かしのは、ついに孤独こどくでした。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
リゼットは鋸楽師のこがくしの左の腕にすがっておぼこらしく振舞ふるまうのであった。孤独こどくが骨までみ込んでいる老楽師はめずらしく若い娘にぴたと寄り添われたので半身熱苦しくあおられた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは後悔こうかいでもあり、自嘲じちょうでもあり、いかりでもあった。かれは浴室に立ちこめた湯気ゆげの中にじっと裸身らしんえ、ながいこと、だれの眼にも見えない孤独こどく狂乱きょうらんを演じていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
このかね死後しご始末しまつをしてもらい、のこりは、どうか自分じぶんおなじような、不幸ふこう孤独こどくひとのためにつかってもらいたい。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、この孤独こどくなぐさめてやろうとはせずに、かえってからかったり、ったり、ゆすぶったりするのは、いつもきたからいてくるかぜであったのです。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その、こうごうしい、孤独こどく姿すがたは、いつも秀吉ひできちに、なにかかぎりない、あこがれのかんじをいだかせるのでした。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)