かたづ)” の例文
丁度私が斯寺このてらかたづいて来た翌々年よく/\とし、和尚さんは西京へ修業に行くことに成ましてね——まあ、若い時にはく物が出来ると言はれて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
秘かに想ひを寄せてゐた照子は、勝ち誇つたやうにかたづいてしまつたし——おまけに高を括つてゐた学校は落第してしまつたし、……。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
……好いくちがあれば、明日でもかたづかねばならぬ。……同じ歳だって、女の三十四では今の内早く何うかせねば拾ってくれ手が無くなる。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その機の音を聞くと、七兵衛は、あの娘も年頃になったが、間違いのないうちに、早くよいところへかたづけてやりたいものだと思いました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あら、本当だよ。去年の秋かたづいて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱりつくだにいた魚屋の吉新、吉田新造って……」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
真面目ならば、こうまで言った話は解らんけりゃならん。私が一時を瞞着まんちゃくして、芳をよそかたづけるとか言うのやなら、それは不満足じゃろう。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
俺は一度か二度その娘を見かけたが、そう悪くない容色きりょうだぜ。それがなんでも、監獄の差入屋さしいれやとかへかたづいているという話だ。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ご飯たきはもういい加減の婆さんで、台所ばかりに居たし、奥様付きはお米さんといって、いっぺんかたづいた人であたしよりは十位年上でしょう。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「……が、なあ弟。あいにくと、その護のむすめ二人までが、おれたちの叔父共へ、かたづいている。ひとりは良兼どのの室。ひとりは良正どのの内室へ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流石さすがに今でも文壇に昔馴染むかしなじみが無いでもない。恥を忍んで泣付いて行ったら、随分一肩入れて、原稿を何処かの本屋へかたづけて、若干なにがしかに仕て呉れる人が無いとは限らぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたしもお目にかゝって是非お頼み申しやすが、貴方あんたからも能くお話なすって……年寄も居りますが、わしも機織奉公にめえりまして、それが縁になってかたづきましたのだから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この談話はなしを聴いた女学生は今ではそれ/″\巣立すだちをして人の細君かないになつてゐるが、誰一人詩人や芸術家にはかたづいてゐないらしいから、髯の有無あるなしは余り問題にはしてゐない。
こうして教育を受けて後、お園は父の一族の知人——ながらやと云う商人にかたづけられ、ほとんど四年の間その男と楽しく暮した。二人の仲には一人の子——男の子があった。
葬られたる秘密 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
二条の院へどこのお嬢さんがおかたづきになったという話もないことだし、そんなふうにこちらへのお出かけを引き止めたり、またよくふざけたりしていらっしゃるというのでは
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それよりもばかな事はいい加減に思い切ッてさ、ほかにかたづく分別が肝心じゃないか、ばかめ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
御縫さんのかたづいた柴野しばのという男には健三もその昔会ったおぼえがあった。柴野の今の任地先もこの間吉田から聞いて知っていた。それは師団か旅団のある中国辺のある都会であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はくと申します、私の家は白三班はくさんぱんで、私は白直殿はくちょくでんの妹でちょうと云う家へかたづいておりましたが、主人が歿くなりましたので、今日はその墓参をいたしましたが、こんな雨になって、困っているところを
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二女のジャックリイヌ ——伯爵の継嗣あととりにおかたづけ下さい。
「やっぱり皆まだかたづいてないんですか」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
二上山のふもとかたづくと。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「何時でしたっけねえ、始て貴方に御目にかかったのは。ネ、去年の五月、ホラ磯部の温泉で——未だ私がここへかたづいて来ない前……」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは深川のある会社に勤める人にかたづいていて先方さきに人数が多いから、お母さんは私が養わなければならぬ、としおらしく言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「いいえ、その状には貴方が立派にない縁とあきらめて、他家へかたづいてくれと書いてありました」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子を持ッてみなければ、分らないこったけれども、女の子というものはかたづけるまでが心配なものさ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ノオベル賞金の創設者として聞えた瑞典スエーデンのアルフレツド・ビイ・ノオベルのやしきに、長年の間まめに女中頭を勤め通した女があつた。ところが、縁あつて他へかたづく事になつた。
よし、自分はかたづいて納まり込んでしまったにしてからが、なかなか手放せないものだ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浪島の家へかたづきましたが、親父様おやじさまのないのちは私がなり代って仕置をしなければならぬ、なんのことだか血の流るゝ程面部へ傷を付けて来るとはしからぬ、其の方の身体ではあるまい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この春、加須かぞの荒物屋にかたづいて行った。おばあさんが茶を運んで来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「だって御縫さんが今かたづいてる先は元からの許嫁いいなずけなんでしょう」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せんの家内といふのは、矢張やはり飯山の藩士の娘でね、我輩のうちの楽な時代にかたづいて来て、未だ今のやうに零落しない内にくなつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それのみならず、風の音信たよりに聞けば、お前はもうとっくかたづいているらしくもある。もしそうだとすれば、お前はもう取返しの付かぬ人の妻だ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「お吟さまは、まだ他家よそへ、おかたづきにならないで、御親類にいらっしゃるのでございますか」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言つて、年齢頃としごろには頓着なく、箪笥の安いのを標準めやすかたづけられたものなのだ。
でも貴方の仰しゃった通りに云うので……それで段々女に見えるからかたづけたいと云って支度のきんまでも出して下さる、それをお前が無にしてかれちゃアわしが申訳が無くて困る、何だってまた
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もしそちらで貰ってくれるなら嫁に行ってもいというような、一度かたづいて出て来たというまだ若いさかりの年頃の女の人を数えることが出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そりゃ縁不縁ということもあり、運不運ということもありますが、やっぱしそれ相応な処へ、いい加減な時分に、サッサとかたづいてしまわねばとんだことになってしまう。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「よう覚えておいでたの。いかにも、藪山の加藤弾正かとうだんじょうどのへかたづいた、おえつじゃがな」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又それ程何方どなたにも此方様こちらさまに義理はありません、ようやかたづいて半年位のとで、命を捨てゝ敵を討つという程の深い夫婦の間柄でもありませんから、返討にでもなっては馬鹿/\しゅうございますから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「箪笥が廉くなつた。娘をかたづけるのは今のうちだ。」
お倉は、遠い旅にある夫、よそかたづく約束の娘、と順に考えて、寝ても寝られないという風であった。心細そうに、お俊の方へ身体を持たせ掛けた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしていつの間にかもうそんなところへかたづいていたのだと聴いたから、私は、新吉はじめお前たちを身を八裂きにして煮てってもなお飽き足らぬくらい腹が立ってあんなに
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ことによったら登雲山の麓村ふもとむらで猟師をしているかいの兄弟のことじゃございませんの? わたしは小さい時にあの人たちの親御さんの手で育てられ、そしていまの孫新にかたづいてきたわけなので
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滅多にうちへ帰つて来ないのへかたづきたがるといふ事だ。
植松の家にかたづいて行っているおくめがこの報知しらせに接して、父の見舞いに急いで来たのは、やがて十月の十日過ぎであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おすまは女の児の一人ある年寄りのところにかたづいています……」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「土地の農家にかたづいておりまして、もう子もあろうと存じます」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岡も、小竹も相前後して既に英吉利イギリスの方から巴里へ戻って来ている頃であった。牧野は岡の意中の人が国の方でわきかたづいたという消息を持って来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その夏よそかたづいて行く輝子を送ってからは、岸本は節子一人を頼りにして、使っている婆やと共にまだ幼い子供等の面倒を見て貰うことにしてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とお島は客を款待顔もてなしがおに言った。この若い細君は森彦の周旋でかたづいて来た人で、言葉づかいは都会の女と変らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その病人の世話が、かたづいて来たばかりのお雪に届くであろうか、覚束おぼつかなかった。実の頼みは、茶話のようで、その実無理にもいるような力を持ていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)