大跨おおまた)” の例文
ところがこの禿の奴、一本のニス塗りのステッキを持っていて——それこそ阿Qに言わせると葬式の泣きづえだ——大跨おおまたに歩いて来た。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
こいしはばらばら、飛石のようにひょいひょいと大跨おおまたで伝えそうにずっと見ごたえのあるのが、それでも人の手で並べたにちがいはない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも白っぽいなと見ていると、またその後からのはのっぽで白で、大跨おおまただ。支那料理のコックででもあるかな。岡持おかもちさげて、また
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
荘邸やしき中の者が寝静まっているというようなことは、一向気にも止めないで、大跨おおまたにどんどん歩いて行ったが、夫人の寝室へやの前へさしかかったときは
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は街路を大跨おおまたに歩いていった。怒りに酔っていた。その酔いも雨にまされた。どこへ行くのか? それを彼は知らなかった。知人は一人もなかった。
シャーロック・ホームズがいったん出した半クラウン銀貨をポケットへ納めると、そこへ怖い顔をした年輩の男が、猟用の鞭を振り振り大跨おおまたに門から出て来た。
で、今度は通りのまん中を自分はひやかしに来た客ではないというようにわざと大跨おおまたに歩いて通った。そのくせ、気にいった女のいる見世みせの前は注意した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼は泥靴で畳の上に大跨おおまたの足跡をしるしてから押し入れの前に火の無い火鉢を押してやった。そして房枝に雑巾を持たせて掃除を仮想させ、自分は火鉢の前に坐った。
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一行から稍々やや遠く、見る影もなく掘り返された石畳の上を、華奢きゃしゃな籐のステッキで叩き乍ら、ホテルの廊下を散歩して居る西洋人のように、大跨おおまたで往ったり来たりして居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
懐手ふところでをして肩を揺すッて、昨日きのうあたりの島田まげをがくりがくりとうなずかせ、今月このにち更衣うつりかえをしたばかりの裲襠しかけすそに廊下をぬぐわせ、大跨おおまたにしかも急いで上草履を引きッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
黒塗りの足駄で薄雪を踏み、手は両方とも懐中手ふところで大跨おおまたにノシノシ近寄って来たが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
顔のあたりに垂れているのであった、私はそれを見ると、突然何かに襲われた様に、慄然ぞっとして、五六けん大跨おおまた足取あしどりすこぶたしかに歩いたが、何か後方うしろから引付ひきつけられるような気がしたので
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
山伏は大跨おおまたで、やがてふもとへ着いた時分、と、足許あしもとの杉のこずえにかかった一片ひとひらの雲を透かして、里可懐なつかしく麓を望んだ……時であった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして凱旋門がいせんもんは、勇敢なる進軍のように、帝国軍団の超人間的な大跨おおまたを、丘の上に踏み開いていた。
まだ何ごとをも知らぬ小娘、長旅の疲労に伴って起こった男のはげしい慾望、彩色を施した横じの絵、——二十分の後、旅客の大跨おおまたで走ってげていくのをお作は泣きながら追った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
大跨おおまたに下りて、帽を脱し、はたと夫人の爪尖つまさきひざまずいて、片手を額に加えたが、無言のまま身を起して、同一おなじ窓に歩行あゆみ寄った。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廊下にも休憩室にもだれ一人いなかった。彼は心乱れながら階段を降りていって、みずから知らないで外に出た。夜の冷たい空気を吸いたかった。薄暗い寂しい通りを大跨おおまたに歩きたかった。
と見返りもしないで先に立って、くだんの休憩室へ導いた。うしろに立って、ちょっと小首を傾けたが、腕組をした、肩がそびえて、主税は大跨おおまたに後に続いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ブラウンは眼に涙を浮かべて、小さな動物の臨終の苦しみを見守った。クリストフは庭の中を大跨おおまたに歩き回り、両のこぶしを握りしめていた。アンナが平然と女中へ用を言いつけてるのが聞こえた。
「そこ退け、踏んでくれう。」といらてる音調、草が飛々とびとび大跨おおまたきつしたと見ると、しまの下着は横ざまに寝た。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は大跨おおまたに引返した。
「ざまあ見やがれ、」とふてをいて、忘れずに莨入たばこいれを取って差し、生白なまっちろい足を大跨おおまたにふいと立って出ようとする。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と推着けるように辞退して来たものを、ここで躊躇ちゅうちょしている内に、座を立たれては恐多い、と心を引立ひったてた腰を、自分で突飛ばすごとく、大跨おおまたに出合頭。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お光が中くらいなかばんを提げて、肩をいからすように、大跨おおまた歩行あるいて、電車の出発点まで真直まっすぐに送って来た。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへな、背後うしろの、暗い路をすっと来て、私に、ト並んだと思う内に、大跨おおまたに前へ抜越ぬけこしたものがある。……
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ややあつて、大跨おおまたの足あとは、ぎゃく退しさつたが、すツくと立向たちむかつた様子があつて、切つて放したやうに
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ト見て、お妙が言おうとする時、からりといた格子の音、玄関の書生がぬっと出た。心づけても言うことをかぬ、羽織の紐を結ばずに長くさげて、大跨おおまた歩行あるいて来て
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この折から下の廊下ろうか跫音あしおとがして、しずか大跨おおまた歩行あるいたのが、せきとしているからよく。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「勿論、」と簡単、がちゃりと雑具ぞうぐの中へ小刀ナイフを投出して、柳沢は大跨おおまたに開き直り
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またしきりに鳴く——蛙の皮の疣々いぼいぼのようでもあります。そうして、一飛ひとッとびずつ大跨おおまた歩行あるくのが、何ですか舶来の踊子が、ホテルで戸惑とまどいをしたか、銀座の夜中に迷子になった様子で。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして大跨おおまたに、そのたくましい靴を片足ずつ、やりちがえにあげちゃあ歩行あるいて来る。靴の裏の赤いのがぽっかり、ぽっかりと一ツずつこっちから見えるけれど、自分じゃあ、そのつまさきも分りはしまい。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土蜘蛛つちぐも這込はいこむ如く、大跨おおまたうねってずるずると秋草の根にからんだ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
合羽かっぱを吹きなぐりに、大跨おおまた蹈出ふみだした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)