わら)” の例文
すべて敵に遭ってかへってそれをなつかしむ、これがおれのこのごろの病気だと私はひとりでつぶやいた。そしてわらった。考へて又哂った。
花椰菜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それがまた、一層可笑おかしいので、橋の上では、わいわい云って、騒いでいる。そうして、皆、わらいながら、さまざまな批評を交換している。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
娘は鳥渡の間、傍を向いて、まるでひどく気を悪くでもしたかのような表情を浮かべたが、直ぐに肩をゆすぶらしてわらった。
アンドロギュノスの裔 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
愛は与える本能をいうのだと主張する人は、恐らく私のこの揚言を聞いてわらい出すだろう。お前のいうことはとうの昔に私が言い張ったところだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ところで、今、河岸に沿うて歩きながら、珍しくも、三造の中にいる貧弱な常識家が、彼自身のこうした馬鹿馬鹿しい非常識をわらい、いましめている。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わらふ勿れ、古來の詩人や小説家によつて美しく唄はれたり描かれたりした戀といふものも、飾りを脱いだ眞實のところはそんなものぢやないだらうか。
見て過ぎた女 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ある日、同じように蓮香のことを思いつめていると、不意にすだれをあけて入ってきた者があった。それは蓮香であった。桑の榻の傍へきてわらって言った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうして子路であるから勇ありという一語を用いしめることを忘れず、また前段で説いたように孔子が子路をわらうということも注意深く付加されている。冉有ぜんゆうについても同様である。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
命をしても此帷幕の隙見すきみをす可く努力せずに居られぬ人をわらうは吾儕われらどん高慢こうまんであろうが、同じ生類しょうるいの進むにも、鳥の道、魚の道、むしの道、またけものの道もあることを忘れてはならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一夜大蜥蜴燈の油を吸いくしたちまち消失するを見、あやしんで語らずにいると、明日王曰く、われ昨夜夢に魔油を飽くまで飲んだと、嫗見しところを王に語るに王すこしくわらうのみとあれば
どうすればわらはれないですむだらうか、とかと
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
貫一は自らあざけりて苦しげにわらへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こうなれば、もう誰もわらうものはないにちがいない。——鏡の中にある内供の顔は、鏡の外にある内供の顔を見て、満足そうに眼をしばたたいた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それだけは秘かに目覚めてわらっているような・醜い執拗な寄生者の姿が、何かしら三造に、希臘ギリシヤ悲劇に出て来る意地の悪い神々のことを考えさせた。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あの床屋のアセチレンも消されるぞ。今度は親方も、とてもかなふまい。」私はひとりでわらひました。それからみちを三四遍きいて、ホテルに帰りました。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
子路率爾そつじとしてこたえて曰く、千乗の国大国の間にはさまりて加うるに師旅しりょを以てしかさぬるに饑饉ききんを以てせんとき、ゆうこれをおさめば、三年に及ばんころ、勇ありみちを知らしめん。夫子之をわらう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そして、卑しい田舍訛いなかなまりを朋輩にわらはれはしないかと氣遣つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そうかと云って社会の輿論よろんも、お島婆さんの悪事などは、勿論わらうべき迷信として、不問に附してしまうでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
というのは、かれ自身けっして死をおそれていたのではなかったし、渠の病因もそこにはなかったのだから。わらおうとしてやって来た鮐魚の精は失望して帰って行った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天人はこんいろのひとみを大きくってまたたき一つしませんでした。そのくちびるかすかにわらいまっすぐにまっすぐにけていました。けれども少しも動かず移らずまた変りませんでした。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そういう無名の弟子がここに突然現われて、孔子の有名な弟子の三人までを蹴落としてしまう。そうして問答のあとで孔子がただ曾皙だけに子路をわらった理由を打ち明けることになっている。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いや、今でもなおこの恐怖は、執念深く己の心を捕えている。臆病だとわらう奴は、いくらでも哂うがい。それはあの時の袈裟を知らないもののする事だ。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
現に、M氏は先刻の感想の中で、明らかに、自分を上の階段まで達しているものとし、彼を嘲弄する我々を、「下の階段にいながら上段にいる者をわらおうとする身の程知らず」
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
第二双の眼(何をわらってやがるんだ。)
電車 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
勿論、中童子や下法師がわらう原因は、そこにあるのにちがいない。けれども同じ哂うにしても、鼻の長かった昔とは、哂うのにどことなく容子ようすがちがう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかに行く先々で愚弄ぐろうされわらわれようと、とにかく一応、この河の底にむあらゆる賢人けんじん、あらゆる医者、あらゆる占星師せんせいしに親しく会って、自分に納得なっとくのいくまで、教えをおう
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
若し卿等にして予が児女の情あるをわらはずんば、予は居留地の空なる半輪の月を仰ぎて、ひそかに従妹明子の幸福を神に祈り、感極つて歔欷きよきせしを語るも善し。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さて、又一方、ゾラ先生の煩瑣はんさなる写実主義、西欧の文壇に横行すと聞く。目にうつる事物を細大らさず列記して、以て、自然の真実を写し得たりとなすとか。そのろうや、わらうべし。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはみにく山鴉やまがらすが美しい白鳥はくちょうに恋をして、ありとあらゆる空の鳥のわらい物になったと云う歌であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また、一人の妖怪——これは鮐魚ふぐの精だったが——は、悟浄の病を聞いて、わざわざたずねて来た。悟浄の病因が「死への恐怖」にあると察して、これをわらおうがためにやって来たのである。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
橋の上の見物がまた「わあっ」とわらい声を上げる。中には人ごみに押された子供の泣き声も聞える。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なめくぢか蛭のたぐひかぬばたまの夜の闇處くらどにうごめきわら
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
それが橋の上にいる人間から見ると、滑稽こっけいとしか思われない。お囃子はやしをのせたり楽隊をのせたりした船が、橋の下を通ると、橋の上では「わあっ」と云うわらい声が起る。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その山高帽子とその紫の襟飾ネクタイと——自分は当時、むしろ、わらうべき対象として、一瞥のうちに収めたこの光景が、なぜか今になって見ると、どうしてもまた忘れる事が出来ない。……
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大方おおかたこうを経たかわおそにでもだまされたのであろう。』などとわらうものもございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ブウシエをわらつて俗漢とす。あにあへて難しとせんや。遮莫さもあらばあれ千年ののち、天下靡然びぜんとしてブウシエのけんおもむく事無しと云ふ可らず。白眼はくがん当世におごり、長嘯ちやうせう後代を待つ、またこれ鬼窟裡きくつりの生計のみ。
そこで彼等は用が足りないと、この男の歪んだもみ烏帽子の先から、切れかかつた藁草履わらざうりの尻まで、万遍なく見上げたり、見下したりして、それから、鼻でわらひながら、急に後を向いてしまふ。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つまり二千余年の歴史はびょうたる一クレオパトラの鼻の如何にったのではない。むしろ地上に遍満した我我の愚昧ぐまいに依ったのである。わらうべき、——しかし壮厳な我我の愚昧に依ったのである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、その相手は何かと思えば、浪花節語なにわぶしかたりのしたなんだそうだ。君たちもこんな話を聞いたら、小えんのわらわずにはいられないだろう。僕も実際その時には、苦笑くしょうさえ出来ないくらいだった。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その愚をわらふ者は、畢竟ひつきやう、人生に対する路傍の人に過ぎない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こうなれば、もう誰もわらうものはないにちがいない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よくわらってはいたものなのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)