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剥落
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はくらく
ふりがな文庫
“
剥落
(
はくらく
)” の例文
うす暗い中庭を抱いたどの部屋も、
剥落
(
はくらく
)
した
金泥絵
(
きんでいえ
)
の
襖
(
ふすま
)
だの、墨絵の古びたのばかりである。奥の方で、
喘息
(
ぜんそく
)
もちらしい咳の声がして
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
御領地内の
錠前
(
じょうまえ
)
金具ことごとく破損仕り、
塗壁
(
ぬりかべ
)
も
剥落
(
はくらく
)
仕り候云々という、ドイツ人の管理人がよこした滑稽な手紙を読み上げた。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
なるほどなるほど、味噌は
巧
(
うま
)
く板に
馴染
(
なじ
)
んでいるから
剥落
(
はくらく
)
もせず、よい工合に少し
焦
(
こ
)
げて、人の
※意
(
さんい
)
を
催
(
もよお
)
させる
香気
(
こうき
)
を発する。
野道
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
少しの
剥落
(
はくらく
)
も損傷もなく、この仏像を転がし落された不釣合に高い木製の蓮台にも、不思議なことに、大した傷も見付からなかったのでした。
銭形平次捕物控:084 お染の歎き
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そして、幼年時代の消耗し
凋
(
しぼ
)
みはてた魂が
剥落
(
はくらく
)
するのを見ながらも、より若くより力強い新しい魂が生じてくるのを、彼は夢にも知らなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
▼ もっと見る
遂に望みを達し得ざるのみならず、舎弟は
四肢
(
しし
)
凍傷
(
とうしょう
)
に
罹
(
かか
)
り、
爪
(
つめ
)
皆
(
みな
)
剥落
(
はくらく
)
して久しくこれに悩み、
後
(
の
)
ち大学の通学に、車に
頼
(
よ
)
りたるほどなりしという。
寒中滞岳記:(十月一日より十二月廿一日に至る八十二日間)
(新字新仮名)
/
野中至
(著)
石黄色の
胡粉
(
ごふん
)
で塗られた壁は、所々大きく
剥落
(
はくらく
)
していた。奥の方に黒塗りの木の暖炉が一つあって、狭い
棚
(
たな
)
がついていた。中には火が燃えていた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
今はこの画の
毀損
(
きそん
)
し
剥落
(
はくらく
)
した個所によって妨げられることなしにこの画を鑑賞している。しかしこの毀損し剥落した個所が眼にうつらないのではない。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
自分たちの信用が
剥落
(
はくらく
)
したかの如く残念がり、その宣伝を有効ならしめようとあせりつつ、
榊新田
(
さかきしんでん
)
の陣屋跡までやって来て、陣屋の中をのぞき込みました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
こういう風に自分の村の信仰がだんだん
剥落
(
はくらく
)
して来たので、尼は生活の必要上、かのすすき原を遠く横切って、専ら隣り村の方へ托鉢に出るようになった。
探偵夜話
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
崖の上の小家は父の歿後に敗屋となって、補繕し難いために
毀
(
こぼ
)
たれた。反古張りの襖も
剥落
(
はくらく
)
し尽していた。
細木香以
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
しかし大分年代もので、紋の白味が黄ばんでいた。横たえている大小も、紺の
柄絲
(
つかいと
)
は
膏
(
あぶら
)
じみ、鞘の蝋色は
剥落
(
はくらく
)
し、中身の良否はともかくも、うち見たところ立派ではない。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この本尊を中心にして、
両脇
(
りょうわき
)
には周知のごとく日光
菩薩
(
ぼさつ
)
と
月光
(
がっこう
)
菩薩とが佇立している。いずれも鮮かに彩色されていたそうだが、いまは
剥落
(
はくらく
)
して灰白色になってしまった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
一方に小さな窓が一つある
許
(
ばかり
)
の暗い室だから善くは見えないが、僕は望遠鏡を取出して眺めた。
模写
(
コツピイ
)
で見て居たのと
異
(
ちが
)
つて
剥落
(
はくらく
)
を極めて居る。
基督
(
キリスト
)
の顔が女の様に
描
(
か
)
かれて居た。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
そこの天平好みの化粧天井裏を見上げたり、半ば
剥落
(
はくらく
)
した白壁の上に描きちらされてある村の子供のらしい楽書を一つ一つ見たり、しまいには裏の扉口からそっと堂内に忍びこんで
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
信条的構造と見られる、建築の手法、
細故
(
さいこ
)
のテクニックにわたっての是非は知らず、楼門廻廊の直線と曲線が、あるいは並び下り、あるいは起き伏すうねりにつれて、
丹碧
(
たんぺき
)
剥落
(
はくらく
)
したりとはいえ
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
汗の乾かぬうちに、シャツと洋服とオーバーを着て、ちょっとの
用達
(
ようた
)
しと散歩をして帰るのであるが、途中で
湯冷
(
ゆざ
)
めがして、全身の皮が一枚
剥落
(
はくらく
)
してしまったくらいの寒さを感じたものであった。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
猪熊のばばに別れると、次郎は、重い心をいだきながら、
立本寺
(
りゅうほんじ
)
の門の石段を、一つずつ数えるように上がって、そのところどころ
剥落
(
はくらく
)
した朱塗りの丸柱の下へ来て、疲れたように腰をおろした。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
すでに所々に
剥落
(
はくらく
)
していたし、それを隠すために
貼付
(
はりつ
)
けた外国映画のポスタアは、いつも端の
糊
(
のり
)
が乾き割れるので、ただ一つ並木街へ面して
展
(
ひら
)
いている小さな窓から、吹きこんでくる風に
煽
(
あお
)
られては
溜息の部屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
されば
物凄
(
ものすご
)
い相貌の変り方について種々
奇怪
(
きかい
)
なる噂が立ち
毛髪
(
もうはつ
)
が
剥落
(
はくらく
)
して左半分が
禿
(
は
)
げ頭になっていたと云うような風聞も根のない
臆説
(
おくせつ
)
とのみ
排
(
はい
)
し去る
訳
(
わけ
)
には行かない佐助はそれ以来失明したから見ずに済んだでもあろうけれども
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
剥落
(
はくらく
)
と
褪色
(
たいしよく
)
とは
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
侍医はあらゆる
薬餌
(
やくじ
)
を試みたが、病人の苦悩は少しも減じない。そして日の
経
(
ふ
)
るに従って、曹操の面には古い壁画の
胡粉
(
ごふん
)
が
剥落
(
はくらく
)
してゆくように、げっそりと
窶
(
やつ
)
れが見えてきた。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いづれも
天竺
(
てんぢく
)
の名木で作つたものでせう、
色彩
(
しきさい
)
も
剥落
(
はくらく
)
してまことに
慘憺
(
さんたん
)
たる有樣ですが、男女二體の
彫像
(
てうざう
)
の内、男體の額に
鏤
(
ちりば
)
めた夜光の珠は
燦然
(
さんぜん
)
として
方丈
(
はうぢやう
)
の堂内を睨むのでした。
銭形平次捕物控:330 江戸の夜光石
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
剥落
(
はくらく
)
はずいぶんひどいが、その白い剥落面さえもこの画の新鮮な生き生きとした味を助けている。この画の前にあってはもうなにも考えるには及ばない。なんにも補う必要はない。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
もう何処もかも痛いたしいほど
剥落
(
はくらく
)
しているので、殆ど何も分からず、ただ「かべのゑのほとけのくにもあれにけるかも」などという歌がおのずから口ずさまれてくるばかりだった。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
たとえば三重塔の
裡
(
うち
)
に、平安時代の釈迦如来像一躯が安置されているが、
衆生
(
しゅじょう
)
に向って挙げたその右の御手は中指が一本残っているだけで、他の指は
悉
(
ことごと
)
く
腐蝕
(
ふしょく
)
剥落
(
はくらく
)
してしまっている。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
ジワリジワリと柔かな剣のうち測り知られぬ力が
籠
(
こも
)
って、もしも当の相手が
不遜
(
ふそん
)
な挙動をでも示そうものなら、その柔かな衣が一時に
剥落
(
はくらく
)
して、鬼神も避け難き太刀先が現われて来るので
大菩薩峠:01 甲源一刀流の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ふと見ると、内陣の深くは、赤い
蜘蛛
(
くも
)
の巣がかがやいている。そして、
剥落
(
はくらく
)
した
金泥
(
きんでい
)
の
薬師如来
(
やくしにょらい
)
か何かの仏像の足元から、朱金の焔がメラメラと
厨子
(
ずし
)
の一角をなめ上げているのでした。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
金堂も講堂も天井は破れ、壁は
剥落
(
はくらく
)
し、
扉
(
とびら
)
は傾いたまま風雨にさらされている。昼間でも
鼠
(
ねずみ
)
が走りまわっている。法隆寺のすぐ近くにあるだけ、その対照がきわだって一層貧しくみえるのである。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
菩薩の顔は表面に塗ったものが
剥落
(
はくらく
)
しているきりで、形は完全に残っているから、その夢みるような
瞼
(
まぶた
)
の重い眼や、端正な鼻や、美しい唇などが、妨げられることなしにわれわれに魅力を投げかける。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
ここに至ると、
神楽師
(
かぐらし
)
の仮面は、遠慮なく
剥落
(
はくらく
)
してしまい
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
長やかな腰刀だけに
鞘
(
さや
)
の
塗
(
ぬ
)
りの
剥落
(
はくらく
)
しているのが目にたつ。
剣の四君子:05 小野忠明
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
剥
部首:⼑
10画
落
常用漢字
小3
部首:⾋
12画
“剥”で始まる語句
剥
剥製
剥出
剥奪
剥身
剥取
剥脱
剥離
剥啄
剥繰