つぶさ)” の例文
話がすこし脱線したが、其日庵主は玄洋社を離脱してから海外貿易に着眼し、上海シャンハイ香港ホンコンあたりを馳けまわってつぶさに辛酸をめた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
国忠使帰るに至るにおよび、その妻つぶさに夢中の事を述ぶ、国忠曰く、これけだし夫婦相念い情感の至る所、時人譏誚きしょうせざるなきなり〉。
つぶさに今日までの物語を読まれた諸君は今更ながら書き立てなくても、彼がいかなる権謀を逞しゅうしたか十分お分りの筈である。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
汝の了解さとりふさはしきまで明らかなるゆきわたりたる言葉にてその説示されんことを願ふ、げにこゝにこそつぶさくべき事はあるなれ —二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これより先九月五日、十月五日両度の吟味に吟味役までつぶさに申立てたるに、死を決して要諫ようかんす、必ずしも刺違え、切払い等の策あるにあらず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其時越前守殿かさねて彌吉夫婦に向はれ汝等いまだ菊を疑ふ樣子ある故つぶさに申聞すべし我菊がしうとめの死骸を檢査あらためさするついで家探やさがしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
東海道中の諸作はつぶさに集に載せてある。河崎良佐は始終かごを並べて行つた。二人が袂を分つたのは四日市である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その鈴木氏無き今日に在りては森下雨村氏と松本泰氏とが、新進作家の産みの苦しみをつぶさめているらしい。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
アルバラード弁護士に相談するためには、またまた私の口から浅ましい家庭の内状をつぶさにこの弁護士に打ち明けなければならぬ。それはもう私の堪え得るところではない。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
輾転反側てんてんはんそく明方あけがたまでまんじりともしない。そこで或晩丹波さんへ行ってつぶさに容態を訴えると
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
建文元年正月、燕王長史ちょうし葛誠かつせいをして入って事を奏せしむ。せい、帝のためつぶさ燕邸えんていの実を告ぐ。こゝにおいて誠をりて燕にかえらしめ、内応をさしむ。燕王さとって之に備うるあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「私はくろがねくさりいましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に惱まされるものゝ姿も、つぶさに寫しとりました。されば罪人の呵責に苦しむ樣も知らぬと申されませぬ。又獄卒は——」
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さら大佐たいさみちびかれて、いますでに二ねん有餘いうよ歳月さいげつつひやして、船體せんたいなか出來上できあがつた海底戰鬪艇かいていせんとうてい内部ないぶり、つぶさ上甲板じやうかんぱん下甲板げかんぱん、「ウオター、ウエー」、「ウ井ング、パツセージ」、二重底にじゆうそこ
若しさもあらば、彼はつぶさに彼等の苦き身の上と切なる志とを聴かんとおもひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先生や先生の一家一門の所作しょさは、万人のつぶさる所、批評のまとであります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
併し大衆というものが実際何であるかをつぶさに知ることの少ない私などは、この酔払いの主張するような説の内には多少は真理があるのではないかというような譲歩の気持ちもないではなかった。
『唯研ニュース』 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
春日かすがが電話に接して、助手兼秘書の渡邊わたなべ同伴つれて新田家を見舞ったのは第二の脅迫状の着いた間もなくで主人は二人を客間に通して、つぶさに昨夜以来の出来事を語り、証拠の書状二通をも渡して見せた
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
つぶさにこの状を語り妾の罪を確かめんと思いおりしに、彼女もの監房に転じたる悲しさに、つつしみ深き日頃のたしなみをも忘れて、看守の影の遠ざかれるごとに、先生先生何故なにゆえにかく離隔りかくせられしにや
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
見聞して、よく覚え居りてつぶさに咄せし珍事也
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ト、彼のときの事つぶさに語りつつ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その説常に講究する所にして、つぶさに対策に載するが如し。ここを以て幕吏といえども甚だ怒罵どばすることあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
手に持て欣然きんぜんとしてひかへたりやがて言葉を發して九條家の浪人山内伊賀亮いがのすけとやらん其方の儀は常樂院よりつぶさ承知しようちしたり此度予につかへんとのこゝろざし神妙しんめうに思なり以後精勤せいきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此一件の詳なるは、京水瑞英の家に「生祠記」一巻があつてつぶさに載せてあつたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「私はくろがねくさりいましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に悩まされるものゝ姿も、つぶさに写しとりました。されば罪人の呵責かしやくに苦しむ様も知らぬと申されませぬ。又獄卒は——」
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
助けたく態々わざ/\是迄參りたりとつぶさに話しければ吉右衞門夫婦は大いに驚き偖々夫は御深切ごしんせつかたじけなしせがれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然らば直温所撰の過去帖は奈何いかに。過去帖は錦橋の父母妻子のよはひつぶさに載せながら、独り錦橋の齢を載せない。直温ははやく旧記の矛盾に心付いたので、疑はしきを闕いで置いたのではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)