黒焦くろこげ)” の例文
中やすみの風が変って、火先が井戸端からめはじめた、てっきり放火つけびの正体だ。見逃してやったが最後、直ぐに番町は黒焦くろこげさね。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
焼味噌のすこし黒焦くろこげに成つたやつを茶漬茶椀かなんかに入れて、そこへ熱湯にえゆ注込つぎこんで、二三杯もやつて見給へ。大抵の風邪はなほつてしまふよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
結婚といふものは、不思議なもので、一度で霊魂たましひまで黒焦くろこげにしてこり/\するのもあれば、性懲しやうこりもなく幾度いくたびか相手をへて平気でゐるのもある。
と黒板にかいてある。さっきは別に腹も立たなかったが今度はしゃくさわった。冗談じょうだんも度を過ごせばいたずらだ。焼餅やきもち黒焦くろこげのようなものでだれめ手はない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妹は電車の中で、顔のくちゃくちゃにれ上った黒焦くろこげの男を見た。乗客の視線もみんなその方へ注がれていたが、その男は割と平気で車掌に何か訊ねていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
燃え尽した書物がフィルムの逆転によって焼灰やけばいからフェニックスのごとく甦って来る。巻き縮んだ黒焦くろこげの紙が一枚一枚するすると伸びて焼けない前のページに変る。
雑記帳より(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
半焼けの器物が無惨に散らばって、黒焦くろこげの木はプスプスと白い蒸気いきを吹いていた。火元は確に台所らしく、放火の跡と思われる様な変った品物は一つも見当らなかった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
土偶どぐう※ なにしろ泥土でいどおとしてるべしと、車夫しやふをして、それをあらひにつてると、はからんや、それは獸骨じうこつの一大腿骨だいたいこつ關節部くわんせつぶ黒焦くろこげけてるのであつたので
サア、賓客おきやくさん、もうくらくなりましたぜ、大佐閣下たいさかくかもひどくお待兼まちかねで、それに、夕食ゆふしよく御馳走ごちさう悉皆すつかり出來できて、料理方れうりかた浪三なみざうめが、とり丸燒まるやき黒焦くろこげになるつて、眼玉めだま白黒しろくろにしてますぜ。
と父は云ふのでしたが、私は竹村の蔵が焼けてもよかつた、具清の娘さんが黒焦くろこげの死骸などにならない方がよかつたと悲しがつて居ました。具清の死んだ若い女中の話も可哀想でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ヴォワン・スチヴンス説にセマン人は以前黒焦くろこげにせる棒一本を毒蛇また虎の尸の上もしくは口の前に置き、あるいは木炭もて虎の条紋に触れ、冥途めいどで虎の魂が人の魂に近づくを予防す。
今まで深く茂った大きな常磐木ときわぎの森の間に、王宮と向い合って立っていた紅木大臣の邸宅やしき住居すまいも床も立ち樹もすっかり黒焦くろこげになってしまって、数限りなく立ち並んだ焼木杭やけぼっくいの間から
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そのの八時何分か過ぎ、手擲弾しゅてきだんあたった江木上等兵は、全身黒焦くろこげになったまま、松樹山しょうじゅざんの山腹に倒れていた。そこへ白襷しろだすきの兵が一人、何か切れ切れに叫びながら、鉄条網てつじょうもうの中を走って来た。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
河中に転落する黒焦くろこげ梁木はりぎ
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
ぶら下った奴は、下から波を打って鎌首をもたげたなりに、黒焦くろこげになっていた——君、急いでくれ給え、約四時間延着だ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弁護士はしながらも、すべて法律家の霊魂たましひは焼栗のやうに地獄の火で黒焦くろこげにされるものだと知つてゐたのだ。単にこの点だけでも彼には大統領の値打はあつた。
すると、今湯気の立昇っている台のところで、茶碗ちゃわんを抱えて、黒焦くろこげの大頭がゆっくりと、お湯をんでいるのであった。その厖大ぼうだいな、奇妙な顔は全体が黒豆の粒々で出来上っているようであった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
昨年の変災の折、あれだけの生霊を黒焦くろこげにした被服廠——。
あとると、やぐら兩脚りやうあしからこたつのへり、すきをふさいだ小布團こぶとん二枚にまい黒焦くろこげに、したがけのすそいて、うへけて、うはがけの三布布團みのぶとん綿わたにして、おもて一面いちめん黄色きいろにいぶつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ仔細しさいのない小川をがはであつた。燒杭やけぐひたふしたやうな、黒焦くろこげ丸木橋まるきばしわたしてある。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)