骨董屋こっとうや)” の例文
そこの大きな骨董屋こっとうやへはいってまず直入を出したが、奥から出てきた若主人らしい男はちょっとひろげて見たばかしで巻いてしまった。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
と門之丞、言葉も手つきも、なんだか急に骨董屋こっとうやみたいになって、取扱い注意の態度こなしよろしく、萩乃の前へさげてきたのをると!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ある骨董屋こっとうやの店先で、セルゲイの言ったのにそっくりの、竜のついた冑と赤い鎧をみつけ出したのは船が出帆しようとする前の日でした。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
この請負師は庸三の懇意にしている骨董屋こっとうやの近くに、かなり立派な事務所をもっていて、その骨董屋の店で時々顔が合っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此の間も麻布あざぶ骨董屋こっとうやをひやかしに出掛けた帰りに、人の家をひやかして来た。一寸ちょっと眼に附く家を軒毎のきごとのぞき込んで一々点数を附けて見た。
「りっぱなみせっている骨董屋こっとうやのほうが、かえって、人柄ひとがらがよくないかもしれない。だれか正直しょうじきそうな古道具屋ふるどうぐやんできてせよう。」
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
窓のきわには、まだ笑いやまない声がくすくすいっている。骨董屋こっとうやの手にかけたような照りのある頭と白い眉がそこから見えた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絵画修復師ピクチュア・レストアラアという職業になっているが、額縁がくぶちの入れ換え修繕をしたり、絵の手入れや掃除をする、一種の骨董屋こっとうやの下廻りみたいなものであろう。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
道具屋とはうまいことを考えたが、つまり骨董屋こっとうやなんだろう、掘出し物では相当まとまった金ももうけられない限りはない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
網の様な春のショール、小型の婦人持手提てさげ、一枚の写真、三通の封書、それだけの品々をまるで夜店の骨董屋こっとうやの様に、ズラリと卓上に置き並べた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その壺でもうけたある骨董屋こっとうやの事を考える。同様にまた彼らが一人の美女を見る場合にも、この女の容姿に盛られた生命の美しさは彼らには無関係である。
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それから彼に一番親しい或年輩の骨董屋こっとうやは先妻の娘に通じていた。それから或弁護士は供託金を費消していた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だって、あの骨董屋こっとうや但馬たじまさんが、父の会社へ画を売りに来て、れいのおしゃべりを、さんざんした揚句の果に、この画の作者は、いまにきっと、ものになります。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
祖母としよりは、その日もおなじほどの炎天を、草鞋穿わらじばきで、松任まっとうという、三里隔った町まで、父が存生ぞんしょうの時に工賃の貸がある骨董屋こっとうやへ、勘定を取りに行ったのであった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
骨董屋こっとうやの売立広告にも「珍品の砲列を廉売れんばいの商策をめぐらす」などいう文字を見るようになった。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「古物屋だとて、今どき使わんようなものはどうにもならんよ。うちは骨董屋こっとうやじゃねえから」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ある日、出入りの骨董屋こっとうやが、旦斎の前に、見なれない細工をしてある、小箱を一つ差出した。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
老舗しにせ骨董屋こっとうやとか武家、大店おおだななどに限り、安い仕事はいっさい断わるというふうであった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これも数年前のはなし、日本橋の或る骨董屋こっとうやに紅葉の手紙を表装した額面が出ていた。
しかしちっともそれらしくなくて、小柄で真黒で痩せて、ちょっと東京の裏店うらだなに住んでいる落ちぶれた骨董屋こっとうやというところだ。何かといえばうなずく癖がある。入ってくるとからそれをやる。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
これが道具屋や表具屋や骨董屋こっとうやの多い八幡筋。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
骨董屋こっとうやですな? あすこは」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このこころざしがあればこそ、骨董屋こっとうやにもなったであろうが、この老人ろうじんのいうごとく、というものは、まったくかねには関係かんけいのない存在そんざいであるとおもいます。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
実際ジョウジ・ジョセフ・スミスは、以前からブリストル市で骨董屋こっとうやをおもてむきの稼業にしているのだった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
門野家は町でも知られた旧家だものですから、蔵の二階には、先祖以来の様々の古めかしい品々が、まるで骨董屋こっとうやの店先の様に並んでいるのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
例の小箱は、長崎ではやくも武士の手から奪いとられ、めぐりめぐって骨董屋こっとうやの手に渡ったものであろう。——中の文書のうしなわれてなかったのがせめてもの幸いだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その晩、かねて口を利いた浜町の骨董屋こっとうやの内へ駈込かけこんで、(あい。)と返事をしたんだって。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はある日散歩のついでにふと柳島やなぎしま萩寺はぎでらへ寄った所が、そこへ丁度彼の屋敷へ出入りする骨董屋こっとうやが藤井の父子おやこと一しょにまいり合せたので、つれ立って境内けいだいを歩いている中に
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
君にゆずろう。僕が浅草の骨董屋こっとうやから高い金を出して買って来て、この店にあずけてあるのだ。とくべつに僕用の茶碗としてね。僕は君の顔が好きなんだ。ひとみのいろが深い。あこがれている眼だ。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
出入の骨董屋こっとうやが、本阿弥ほんあみの手紙を添えて置いて行った周文の軸をひろげて、その画面へ、虫でも覗くように、眼鏡をかけてかがみこんでいた吉良上野介は、鍋鶴の羽音に、顔を上げて、不機嫌なしわ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのさかずきを、ったひとは、日本橋にほんばし裏通うらどおりにんでいる骨董屋こっとうやでありました。そのひとは、まことにおもいがけないものをしたとよろこびました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「へんだなあ。」と思いながら、あるいていますと、一けんのりっぱな骨董屋こっとうやが目につきました。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「かたじけない。では、骨董屋こっとうやの道具市だな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなふうに、骨董屋こっとうやから、まことしやかにいわれて、ものは、やす手放てばなしてしまいました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どちらかといえば、わたしは、ふかくわかりもしないくせに、多趣味たしゅみのほうです。あるとき、まちあるいていて、骨董屋こっとうやまえとおって、だれがえがいたのか、静物せいぶつ油絵あぶらえがありました。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)