げん)” の例文
旧字:
「万病に利きますな。神社仏閣は温泉と同じようです。頼朝が源家再興の祈願をかけた霊場ですから、立身出世にもげんがありますよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
勿論そうなっては、熱い湯も、熱い奴も、却ってその苦患くげんをはッきりさせるばかり、決して以前のようないやちこなげんをみせなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
男は仕損しまったと心得て、だいぶあったかになりましたと気を換えて見たが、それでもげんが見えぬので、鯉がの方へ移ろうとしたのである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アプタ(胆振国虻田郡虻田町)の酋長の妻が突然病んで、どんなに加持祈祷かじきとうしてもげんがなく、病気は重くなるばかりだった。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
久松も心配して、色々に医者にせがむので、先生はまた十両をうけ取って人参を調剤したのですが、それもげんがみえない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
フト人の噂で聴いた東海坊の祈祷、これを頼むと不思議にげんがあって三月経たないうちに二つの悪病がケロリと癒った。
その頃父は小立野こだつのと言うところの、げんのある薬師やくしを信心で、毎日参詣するので、私もちょいちょい連れられて行ったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その桂子の対抗によって、こっちの行が妨げられ、げんを現わさないに相違ないことも、彼女はとうに感付いていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
豊雄すこし三四七心を収めて、かくげんなる法師だも祈り得ず、しふねく我をまとふものから、三四八天地あめつちのあひだにあらんかぎりは三四九探し得られなん。
一日じゅう、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。なんと言うげんの悪い日だろう。わたしゃもう草臥くたびれてしまった
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
平生ふだんよりもまた近しくなった処、眼鏡屋の妻君のいうには、私の宅でも柳橋の古川さんに掛かっておりますが、どうも、さらにげんが見えません処を見ると
薬餌やくじまじない加持祈祷かじきとうと人の善いと言う程の事を為尽しつくして見たが、さてげんも見えず、次第々々に頼み少なに成て、ついに文三の事を言いじににはかなく成てしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
定めしげんがあるであろうな、ためしに此の粥を観じて見せよ、と云うと、男は折敷おしきを取って粥の上にふたをして、暫時ざんじ眼を閉じて観念を凝らしていたが、やがて蓋を開けると
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その代りこの婆のする事は、加持でも占でもげんがある——と云うと、善い方ばかりのようですが、この婆に金を使って、親とか夫とか兄弟とかをのろい殺したものも大勢いました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
例せば『類聚名物考』に猴大根を食わしめてよし、またカヤの実を食すれば甚だげんあり、猴舞わしの家常に用ゆ、甚だ蟹の殻ならびに手のはさみを嫌うなりとあるなど経験に拠ったのであろう。
いのりには効あり、ことばにはげんありければ、民翕然きゅうぜんとして之に従いけるに、賽児また饑者きしゃにはを与え、凍者には衣を給し、賑済しんさいすること多かりしより、ついに追随する者数万に及び、とうとびて仏母と称し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あれで、修法が、出来るかしら——出来るとしても、げんがあろうか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
げんある露の薬水を
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
こっちのは天に代って誅戮ちゅうりくを加える夜遊びだ。とはいうものの一週間も通って、少しもげんが見えないと、いやになるもんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本来ならば一七日の祈祷で当然その禍いを祓い得べきであるのに、今度の祈祷に限って不思議にそのげんがみえない。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山の草、朽樹くちきなどにこそ、あるべき茸が、人のすまう屋敷に、所嫌わず生出はえいづるを忌み悩み、ここに、法力のげんなる山伏に、祈祷きとうを頼もうと、橋がかりに向って呼掛けた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折伏しゃっぷくげんを見ようと云われる! ……そればかりならば参りましょう! 姉上様の行のおためなら! ……厭じゃ厭じゃ何んのそればかりか! ……いいえ姉上のお心持ちは
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老和尚三七四眼蔵めんざうをゐざり出でて、此の物がたりを聞きて、そは浅ましくおぼすべし。今は老朽おいくちて三七五げんあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざはひもだしてやあらん。三七六まづおはせ。
それから一週間ばかり香の物にはしを触れなかったが別段のげんも見えなかったから近頃はまた食い出した。××に聞くとそれは按腹あんぷく揉療治もみりょうじに限る。ただし普通のではゆかぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの二人が一緒に手を組んで、修法調伏を行なえばこそ、姥の調伏げんを見せるのだよ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あすこのな、蛇屋に蛇は多けれど、貴方がたのこの二条ふたすじほど、げんのあったは外にはないやろ。私かて、親はなし、ちいさい時からつとめをした、辛い事、悲しい事、口惜くやしい事、恋しい事
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこの誰が秘密の祈りをして貰ったということが他人ひとに知れると、そのげんがないというので、秘密の祈りを頼むものは世間がみんな寝静まった頃に、顔を隠したり、姿を変えたりして
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いとも三三一げんなる法師にて、およ三三二疫病えやみ妖災もののけいなむしなどをもよく祈るよしにて、此のさとの人はたふとみあへり。此の法師三三三むかへてんとて、あわただしく三三四呼びつげるに、ややして来りぬ。
ひるまでこんな姑息手段こそくしゅだんで断えず額を冷やして見たが、いっこうはかばかしいげんもないので、御米は小六のために、わざわざ起きて、いっしょに食事をする根気もなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鶴をて懐姙したげんはいくらもある。いわゆる、もうし子だとお思いなさい。その上、面倒な口を利く父親なしに、お誓さん一人で育てたら、それが生一本の田沢家の血統じゃありませんか。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それからね、いくら毎日毎日騒いでもげんが見えないので、大分だいぶみんながいやになって来たんですが、車夫やゴロツキは幾日いくんちでも日当にっとうになる事だから喜んで騒いでいましたとさ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うらんでみたり、叱ったり、いろいろにいたして訳を聞きますると、申訳をするまでもない、お金子かねに手もつけはしませんが、げんのある祈をされて、居ても立ってもいられなくなったことがある。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敬太郎けいたろうはそれほどげんの見えないこの間からの運動と奔走に少し厭気いやきして来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滝太郎は、見て、そのげんあるを今更に驚いた様子で
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
げんが見えぬじゃて。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)