“飜(かえ)” の例文
新字:翻
そういって、その瓶を目よりも高く差し上げると、また飛び跳ねる馴鹿(トナカイ)の仔のように活溌に走り出した。素足の裏が白く白く飜(かえ)った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
カタリといって、発奮(はずみ)もなく引(ひっ)くりかえって、軽く転がる。その次のをフッ、カタリと飜(かえ)る。続いてフッ、カタリと下へ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青年も、美奈子が、——一度あんなに彼に親しくした美奈子が、また掌(てのひら)を飜(かえ)すように、急に再び疎々(うとうと)しくなったことが、彼の責任であることに、彼も気が付いていなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのうち復(また)も博士の心は、宛(さなが)ら物に誘われるように、劇(はげ)しく劇しく波打った。博士はクルリと身を飜(かえ)し、またも奥の方へ走り出した。石の廊下は斜角をなし、どこ迄もどこ迄も続いている。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
潮風が二人の袂と裾を飜(かえ)している。流石(さすが)に、避暑地に来たらしい感もした。
舞子より須磨へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
我(わが)作りたる者なれど飽(あく)まで溺(おぼ)れ切(きっ)たる珠運ゾッと総身の毛も立(たち)て呼吸(いき)をも忘れ居たりしが、猛然として思い飜(かえ)せば、凝(こっ)たる瞳(ひとみ)キラリと動く機会(はずみ)に面色忽(たちま)ち変り、エイ這顔(しゃっつら)の美しさに迷う物かは
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
屹(きっ)と振向かっしゃりました様子じゃっけ、お顔の団扇が飜然(ひらり)と飜(かえ)って、斜(ななめ)に浴びせて、嘉吉の横顔へびしりと来たげな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くるりと身を飜(かえ)すと、スッと一飛び、トントントントントンと、梯子段を駆け下りてしまった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
袱紗(ふくさ)の縮緬(ちりめん)が飜然(ひらり)と飜(かえ)ると、燭台に照って、颯(さっ)と輝く、銀の地の、ああ、白魚(しらうお)の指に重そうな、一本の舞扇。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下手(しもて)はまた、風に楊が葉裏を飜(かえ)していた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
高い敷居に褄(つま)も飜(かえ)さず、裾が浮いて、これもするりと、あとは御存じの、あの奥深い、裏口まで行抜けの、一条(ひとすじ)の長い土間が、門形角形(かどなりかくがた)に、縦に真暗(まっくら)な穴で。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ毛だらけだ、わあ女の腕だなんて言いますが、何、その畳の隅が裏返るように目まぐるしく飜(かえ)るんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その橋も、麓の道も、ただ白かった——と云って袖を飜(かえ)した、手も手先も、また、ちらちらと雪である。
「ああ、言いそうなこった。御守殿め、チョッ。」と膝を丁と支(つ)くと、颯(さっ)と掻巻の紅裏を飜(かえ)す、お孝は獅子頭(ししがしら)を刎(は)ねたように、美しく威勢よく、きちんと起きて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(や、えいとこさ。)と、草鞋(わらじ)の裏が空へ飜(かえ)るまで、山端(やまばた)へどっしりと、暖かい木の葉に腰を落した。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
発奮(はず)んで、ずるずると来た奴(やつ)が、若衆(わかいしゅ)の足許で、ころりと飜(かえ)ると、クシャッと異変な声を出した。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と片手の畚を動かすと、ひたひたと音がして、ひらりと腹を飜(かえ)した魚(うお)の金色(こんじき)の鱗(うろこ)が光った。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼠縮緬(ねずみちりめん)の裾廻(すそまわし)、二枚袷(にまいあわせ)の下着と覚(おぼ)しく、薄兼房(うすけんぼう)よろけ縞(じま)のお召縮緬(めしちりめん)、胴抜(どうぬき)は絞つたやうな緋の竜巻、霜(しも)に夕日の色染(そ)めたる、胴裏(どううら)の紅(くれない)冷(つめた)く飜(かえ)つて、引けば切れさうに振(ふり)が開(あ)いて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
直ぐに稲葉家の露地を、ものに襲われた体に、慌しく、その癖、靴を浮かして、跫音(あしおと)を密(ひそ)めて、したしたと入ると、門(かど)へ行った身を飜(かえ)して、柳を透かしながら、声を忍んで、二階を呼んだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と目を蔽(お)うていた袖口をはらりと落すと、瓦斯(がす)の遠灯(とおあかり)にちらりと飜(かえ)る。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花やかな娘の笑声が、夜の底に響いて、また、くるりと廻って、手が流れて、褄(つま)が飜(かえ)る。足腰が、水馬(みずすまし)の刎(は)ねるように、ツイツイツイと刎ねるように坂くだりに行(ゆ)く。……いや、それがまた早い。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の根を畝(うね)り、岩に躍り、渚(なぎさ)に飜(かえ)って、沖を高く中空に動けるは、我ここに天地の間に充満(みちみち)たり、何物の怪しき影ぞ、円(まどか)なる太陽(ひ)の光を蔽(おお)うやとて、大紅玉の悩める面(おもて)を、拭(ぬぐ)い洗わんと、苛立ち
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い状袋の上書(うわがき)をじっと見ながら、片手を垂れて前垂(まえだれ)のさきを抓(つま)んで上げつつ、素足に穿(は)いた黒緒(くろお)の下駄を揃えて立ってたが、一寸(ちょっと)飜(かえ)して、裏の名を読むと、顔の色が動いて、横目に框(かまち)をすかして
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
京染正紺請合(しょうこんうけあい)とある足袋の裏を白く飜(かえ)して、ほしほしと並べた三十ぐらいの女房(にょうぼ)で、中がちょいと隔っただけ、三徳用の言った事が大道でぼやけて分らず……但し吃驚(びっくり)するほどの大音であったので
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉が薄く、鼻がひしゃげて、ソレその唇の厚い事、おまけに頬骨がギシと出て、歯を噛(か)むとガチガチと鳴りそう。左の一眼べとりと盲(し)い、右が白眼(しろまなこ)で、ぐるりと飜(かえ)った、しかも一面、念入の黒痘瘡(くろあばた)だ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅葱を飜(かえ)す白浪や。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)