階段きざはし)” の例文
『えゝ、』彼女は、高い階段きざはしの先を見上げた。その高い階段きざはしは、また先の方に暗くなつて、登つただけ、再びりなければならなかつた。
幸福への道 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
寂寞せきばくとした、拝殿の階段きざはしに腰かけたが、覆面の侍は、いつまでたっても、黙然として、唯じっとお延を睨みつけているようなさま
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると其処の階段きざはしの上には、驚くまい事か、葦原醜男が、須世理姫と一しよに腰をかけて、何事か嬉しさうに話し合つてゐた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雪のような落花が散りかかるのを見上げて、しおれた枝を少し手に折った大将は、階段きざはしの中ほどへすわって休息をした。衛門督が続いて休みに来ながら
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は大床おおゆか階段きざはしの下で狐を射損じたために勅勘ちょっかんの身となった。その後いずこに忍んでいるとも聞かなんだが、さては山科に隠れていて、藻は彼の娘であったか。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老松おいまつちこめて神々こうごうしきやしろなれば月影のもるるは拝殿階段きざはしあたりのみ、物すごき下闇したやみくぐりて吉次は階段きざはしもとに進み、うやうやしくぬかづきて祈るこころに誠をこめ
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
石の階段きざはしは雨風に打たれて弓状ゆみなりに沈み、石の高麗狗こまいぬは二つながらごろりと横倒しになっている。
社頭しゃとう階段きざはしほとりひと気配けはいいたしますので、こころしずめてこちらからのぞいてますと、其処そこには二十五六のわかうつくしいおんなが、六十ぐらい老女ろうじょれてってりましたが
今朝、テュイルリイの庭の中、太陽は、ふとした影の落ちるのにも忽ち假睡うたゝねの夢やぶられる金髮の少年といつたやうに、石の階段きざはしの一つびとつのうへに輕い眠りを貪つてゐた——
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
玉座の階段きざはしにおこがましくも、私の幼い仕事の処女作を、ささげたいのでありまする。
そして神殿の階段きざはしでも登るように、一段一段、正式の足どりで登って行く。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と、杉右衛門と桐五郎とがシズシズと階段きざはしを上って行く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐ背後うしろで、階段きざはしの上に倒れました。あのでぶでぶ
茨に古ぶ階段きざはしとほく石塊ふみあぐみ
首里城 (新字旧仮名) / 世礼国男(著)
あな、姫、——階段きざはし、石の夢驚き
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
永安門えいあんもん階段きざはし
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
漸く彼女が、階段きざはしを降りて地上に立つた時、ふりそゝぐやうにかぶさる、秋の強い日光の黒い木棚のそばに、戀人の青い衣の輝きを見た。
幸福への道 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
五社明神の階段きざはしに腰かけて、こう呟きながら童顔のまなじりをつぶった老翁は、即ちここの荒れ宮を守る神禰宜かんなぎ橘左典たちばなさでんであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮殿は南にむかって建てられているらしく、上がり口には高い階段きざはしがあって、階段の上にも下にも白い石だたみを敷きつめて、上には錦の大きいとばりを垂れていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
階段きざはしの所に声のよい若い殿上人たちの集められたのが、器楽のあとを歌曲に受け、「青柳」の歌われたころはもうねぐらに帰っていたうぐいすも驚くほど派手はでなものになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は広い階段きざはしを上ると、何時もの通り何気なく、大広間の戸口に垂れてゐる、白いとばりを掲げて見た。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おんなはやがて階段きざはししたひざまづいて、こまごまと一伍一什いちぶしじゅう物語ものがたったうえ
あなあはれ、日の階段きざはし
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
神の階段きざはしが鳴る。
彼女は、睫毛まつげをふせた。その階段きざはしが、彼女を威壓するやうに見えたから、彼女の弱い足元がふるへて、不安とかなしみが混亂してこみ上げて來るのを感じた。
幸福への道 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
正面の階段きざはしの前にあたった桜の木蔭で、だれも花のことなどは忘れて競技に熱中しているのを、院も兵部卿の宮もすみの所の欄干によりかかって見ておいでになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
ある月夜に、夫人が堂の階段きざはしに立って繍鸞を呼ぶと、東西の廊下から同じ女が出て来た。
がばと、武松はね起きた。彼の主人思いな良心は、聞きのがしをゆるさない。長い廊を一足跳びに馳けて行った。すると奥庭のらん階段きざはしに、玉蘭が倒れていた。玉蘭は指さして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうして宮の階段きざはしを上りながら、忌々いまいましさうに舌を打つた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
太虚みそら宮殿みや階段きざはし踏み
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
三月十三日の雷雨のはげしかった夜、みかどの御夢に先帝が清涼殿の階段きざはしの所へお立ちになって、非常に御機嫌ごきげんの悪い顔つきでおにらみになったので、帝がかしこまっておいでになると
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その頭分かしらぶんとみえる者はあかかんむりをいただき、うす黄色のほうを着て、神坐の前にあるつくえに拠って着坐すると、その従者とおぼしきもの十余人はおのおの武器を執って、階段きざはしの下に居列びました。
たとえ、北条一族の姻戚いんせきに列しようと、赤橋の妹をに持とうと、なんで初志を変えようぞ。むしろ、鎌倉御家人どもの眼をあざむくにも、徐々に大事を計ってゆくにも、よい階段きざはしとすら思うている
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階段きざはしのまへほこはな、——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
池の魚を載せた台を左近少将が持ち、蔵人所くろうどどころ鷹飼たかがいが北野で狩猟してきた一つがいの鳥を右近少将がささげて、寝殿の東のほうから南の庭へ出て、階段きざはしの左右にひざをついて献上の趣を奏上した。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、廊の果てからさらにはばの広い階段きざはしを七、八段ほどのぼっていた。
と返歌を奏上してから大臣は、清涼殿せいりょうでんの正面の階段きざはしを下がって拝礼をした。左馬寮さまりょうの御馬と蔵人所くろうどどころたかをその時に賜わった。そのあとで諸員が階前に出て、官等に従ってそれぞれの下賜品を得た。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)