鉄棒かなぼう)” の例文
旧字:鐵棒
ある者は校長に談判しようといい、ある者は阪井の家へ襲撃しゅうげきしようといい、ある者は阪井をとらえて鉄棒かなぼうにさかさまにつるそうといった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
前刻さっきから響いていた、鉄棒かなぼうの音が、ふッとむと、さっさっと沈めたわらじの響き。……夜廻りの威勢の可いのが、肩を並べてずっと寄った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少時前いまのさきッたのは、角海老かどえびの大時計の十二時である。京町には素見客ひやかしの影も跡を絶ち、角町すみちょうには夜をいましめの鉄棒かなぼうの音も聞える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
長い月日の間、火を焚く烟で黒くすすけた天井のはりからは、煤が下っている。其処そこから吊された一筋ひとすじ鉄棒かなぼうには大きな黒い鉄瓶てつびんが懸っていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少時前いまのさきツたのは、角海老かどえびの大時計の十二時である。京町には素見客ひやかしの影も跡を絶ち、角町すみちやうにはいましめの鉄棒かなぼうの音も聞える。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あれに働かしておいて、島ちゃんが商売をやるようにすれば、鬼に鉄棒かなぼうというものじゃないか。お前は今にきっとそう思うようになりますよ
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
町々の町役人は鉄棒かなぼうでそれらの群衆を制してゐたが、見物人はあとからあとからと押寄せてくるので、とてもそれを追ひ払うことは出来なかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
互いにあとになり先になり、人垣を押しわけ押しわけ伸び上り伸び上りするうちに、先を払う鉄棒かなぼうの響。男衆の拍子木の音。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
学校の運動場うんどうばで、彼が書物を読んで居なければ必ず鉄棒かなぼうか並行棒にしなやかな体をからませて遊んで居るのです。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鉄棒かなぼういて近所をまわってあるいて、日を送っていたりしてよいか悪いかの点に帰着するのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
僕の近所の女学校の生徒などと来たらえらいものだぜ。筒袖つつそで穿いて鉄棒かなぼうへぶら下がるから感心だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
突然、鉄棒かなぼうの巧みな青年が立上って叫んだ。皆が「鞠投げ」の意味を熟知している様子だった。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
胎内で母親に苦労をかけながら恩を報いずに死んだため塔をたてて罪の償ひをしようと淋しい賽の河原にとぼとぼと石を積んでるのを鬼がきては鉄棒かなぼうでつきこはしてひどいめにあはせる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
木馬や鉄棒かなぼうは深く埋没うづもれてしまつて、屋外そとの運動も自由には出来かねるところからして、生徒はたゞ学校の内部なかで遊んだ。玄関も、廊下も、広い体操場も、楽しさうな叫び声で満ちあふれて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いわゆる鬼に鉄棒かなぼうというもの、一大事をなされるでございましょう
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さう云つて小娘の間に鉄棒かなぼうを引いて歩いた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
東 鬼に鉄棒かなぼう
東西伊呂波短歌評釈 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
少時前いまのさきッたのは、角海老かどえびの大時計の十二時である。京町には素見客ひやかしの影も跡を絶ち、角町すみちょうにはいましめの鉄棒かなぼうの音も聞える。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「この引き摺り阿魔め。亭主の留守に近所隣りへ鉄棒かなぼうを曳いてあるいていて、大事の子供を玉無しにしてしまやあがった。さあ、生かして返せ」
何? 戸棚の隅には鉄棒かなぼうが隠してあるんだ! と心に幾たびか叫んで見たが、この粉薬から眼を放してきっと老婆の顔を見返す勇気が出なかった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが見えると、鉄棒かなぼうが遠くを廻った。……カラカラ、……カンカン、何だか妙だね、あの、どうか言うんだっけ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最後に、彼の女は一人の黒ん坊に面と向って、爛々らん/\たる瞳で睨みつけながら、右手の人差指と親指とをビシッと鳴らすと、彼の五体はたちま鉄棒かなぼうのように硬直してしまった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なかちょう水道尻すいどうじりに近い、蔦屋つたやという引手茶屋で。間も無く大引おおびけの鉄棒かなぼうが廻ろうという時分であった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎晩聞きなれた火の用心の鉄棒かなぼうの音も、今夜は枕にひびいてすさまじく聞えた。幸いに暁け方から風もやんだが、灰を流したような凍った雲が一面に低く垂れて来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
東京座の一と幕見が非常な大入で、場内へギツシリ詰まつた黒山のやうな見物人の波をウムと力んで背中でき止めながら、前列に居る私は、一生懸命鉄棒かなぼうに掴まつて居た。
Dream Tales (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでも気味悪く思ったものだから、工場から帰える時に二尺ばかりの鉄棒かなぼうを一本持って帰って戸棚のすみに隠して置いた。けれど婆さんは決して二階などへ上って来たことはない。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
往来どめ提灯ちょうちんはもう消したが、一筋、両側の家の戸をした、さみしい町の真中まんなかに、六道の辻のみちしるべに、鬼が植えた鉄棒かなぼうのごとくしるしの残った、縁日果てた番町どおり
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はほがらかな青空を背にして、鉄棒かなぼうに腰を掛けながらさも愉快そうに声高く叫びました。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
軽いつづみの調べや重い鉄棒かなぼうの音や、それもこれも一つになって、人をそそり立てる廓の夜の気分をだんだんに作って来た。外記も落ち着いてはいられないような浮かれ心になった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
戸外おもてへ出ると、もう先刻さっきから雪の降る底に雲の行交ゆきかう中に、薄く隠れ、鮮かにあらわれていたのがすっかり月のに変った。火の番の最後の鉄棒かなぼう遠く響いてくるわの春の有明なり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小僧三 餓鬼に苧殻ならいいが、餓鬼に鉄棒かなぼうを持たせるのだから遣り切れねえ。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八畳一杯かッと陽気で、ちょうどその時分に、中びけの鉄棒かなぼうが、近くから遠くへ、次第にかすかになって廻ったが、その音の身に染みたは、浦里時代の事であろう。誰の胸へも響かぬ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生命いのちがけの事がありましてね、その事で、ちょっと、切ッつ、はッつもやりかねないといったいきおいで、だらしがないけども、私がさ、この稽古棒(よっかけて壁にあり)をやり鉄棒かなぼう
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
疣々いぼいぼ打った鉄棒かなぼうをさしにないに、桶屋も籠屋かごやも手伝ったろう。張抜はりぬきらしい真黒まっくろ大釜おおがまを、ふたなしに担いだ、牛頭ごず馬頭めずの青鬼、赤鬼。青鬼が前へ、赤鬼が後棒あとぼうで、可恐おそろしい面をかぶった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裸身はだかみに、あの針のざらざら刺さるよりは、鉄棒かなぼうくじかれたいと、覚悟をしておりましたが、馬が、一頭ひとつ背後うしろから、青い火を上げ、黒煙くろけむりを立ててけて来て、背中へつかりそうになりましたので
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄棒かなぼうの音に目をさまし、」
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)