すき)” の例文
つどえる衆の肩背のすきに、霊地の口に、自動車が見えて、巨像の腹の鳴るがごとく、時々、ぐわッぐわッと自己の存在と生活を叫んでいる。
すき御門から御深井丸へ出、御旅蔵の東を抜け、不明門から本丸へ這入った。矢来門から玄関へかかり、中玄関から長廊下、行詰まった所が御殿である。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐまたその後へ、キチンとした洋服の、すこしもすきのない若紳士の群れが来る。わたしはしどろもどろである。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこでちょっと人垣のすきを見取って、その足と足の林を押分けあんばいにして、中へと進み入るよりほかはなく、そうしてたちまち、その通りにして前列へ出て
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ラムネのびんの月光がいっぱいにすきとおり天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしているよう、あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と馬作をさとして居りますと、其の内に足音がしますから、山三郎は格子のすきから見ると、先へ麻衣あさごろもを着た坊主が一人に、紺看板に真鍮巻の木刀を差した仲間体ちゅうげんていの男が
暗い中流を下る舟を認めて、おつぎのすき通る聲が呼びかけたけれど、三田は返事をしなかつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
先刻さっき内々戸のすきから見たとは違って、是程までに美しいそなたを、今まで木綿布子ぬのこ着せておいた親のはずかしさ、小間物屋もよばせたれば追付おっつけくるであろう、くしかんざし何なりとすきなのを取れ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さかりの附た犬じゃアあるまいし、がなすきがな文三のそばへばッかし往きたがるよ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
河床の岩に両手をついて、底の水草がすきとおって見えるほどな清冽な流れを見た。そして片手を濡らして汗ばんだ鬢の毛を撫でつけ、流れへ臨んで少し身をさかにしながら口そそごうとした途端。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余は唯是だけの事に大いに心を打ちくつろぎ、何時の間にか眠って了った、僅かに二三十分も眠ったかと思う心持だのに、目が覚めて見れば早や、古い窓の戸のすきから朗かな旭日の影が射して居る
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
何処から見ても五すきもない巴里パリーツ子である。
密閉したる暗室内に俯向うつむき伏したる銀杏返の、その背と、もすその動かずして、あたかもなきがらのごとくなるを、ソト戸のすきより見るをべし。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしがお比丘に目配めくばせしたら惠梅比丘尼は林の中へ駈込んで逃げたから、最ういと思い、種々いろ/\云ってすきを見て逃げようと思い、只今上げます、ちっとばかり旅銀ろぎんも有るから差上げますから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我と我身がうらめしいというような悩みと、時機を一度失えば、もう取返しのつかない、身悶みもだえをしても及ばないくいちがいが、穏かに、寸分のすきもなく、傍目わきめもふらせぬようにぴったりと
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
はたきを持つやら、ほうきやら、団扇うちわかざしているものやら、どこにすきがあって立ち込んだか、うぐいすがお居間の中に、あれあれという。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声びくなれどすき通れるやうの細くすずしきにて、事理明白にものがたる。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
言淀いいよどんで見えたので、ここへ来い、とかまえを崩して、すきを見せた頬杖ほおづえし、ごろりと横になって、小松原の顔を覗込のぞきこみつつ
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
謂いつつともしをふっと消す、後は真暗まっくら、美人はつまを引合せて身を擦抜けんとすきうかがい、三吉は捕えんと大手を広げておよび腰、老婆は抜かしてよつばい、いずれもだんまり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母はそれを大切にして綺麗きれいに持つて居るのを、すきを見ちやあ引張り出して——但し読むのではない。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
早や乾いた蒸気いきれなかに、すきなく打った細いくいと見るばかり、幾百条とも知れない、おなじような蛇が、おなじようなさまして、おなじように、揃って一尺ほどずつ、砂の中から鎌首をもたげて
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹴飛ばしやらむ、かきむしらむ、すきあらばとびいでて、九ツこだまとおしえたる、とうときうつくしきかのひとのもとに遁げ去らむと、胸のきたつほどこそあれ、ふたたび暗室にいましめられぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹴飛けとばしやらむ、かきむしらむ、すきあらばとびいでて、ここのこだまとをしへたる、たうときうつくしきかのひとのもとげ去らむと、胸のきたつほどこそあれ、ふたたび暗室にいましめられぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
思出したように急がしく掻込かっこんで、手拭てぬぐいはじでへの字にしわを刻んだ口のはたをぐいとき、差置いたはしも持直さず、腕を組んで傾いていたが、台所を見れば引窓から、門口かどぐちを見れば戸のすきから
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)