軽蔑けいべつ)” の例文
旧字:輕蔑
「僕あじつのところ軽蔑けいべつしとったんやが、今日あいつの画を見てびっくりした、すばらしいものがたくさんあるんや、まあ見てみい」
正体 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
軽蔑けいべつをして、まだ年のゆかない、でき上がっていない子などを、この方をさしおいてめとるというようなことができるものなんだねえ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一ばん近い肉親だ。それあ僕は、叔父さんには何かと我がままを言うよ。いやがらせを言ってやる事もある。軽蔑けいべつしてやる事もある。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
また遊女だからとて軽蔑けいべつするのはお師匠様の教えではありません。たとえ遊女でも純粋な恋をすれば、その恋は無垢むくな清いものです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
要するに文芸にはまるで無頓着むとんじゃくでかつ驚ろくべき無識であるが、尊敬と軽蔑けいべつ以上に立って平気で聞くんだから、代助も返事がし易い。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クリストフはもう愛すまいとし、恋愛を——しばらくの間——軽蔑けいべつしようとしたが、甲斐かいがなかった。彼は恋愛の爪痕つめあとを受けていた。
沢本 だから貴様は若様だなんて軽蔑けいべつされるんだ。そんなだらしのない空想が俺たちの芸術に取ってなんの足しになると思ってるんだ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あらまあオウ・マイと鼻の穴から発声する亜米利加アメリカ女が、肌着はだぎ洗濯せんたくしたことのない猶太ユダヤ人が、しかし、仏蘭西フランス人だけは長い航海を軽蔑けいべつして
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
文字の発明はくに人間世界から伝わって、彼らの世界にも知られておったが、総じて彼らの間には文字を軽蔑けいべつする習慣があった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
遠慮のない所を云ふと、自然主義運動に於ける氏の功績の如きも、「何しろ時代が時代だつたからね」なぞと軽蔑けいべつしてゐたものである。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
田園を愛するなんて気持からじゃあない。そんなものは心のなかでは軽蔑けいべつしているのだ。社会の拘束と因襲とをまぬかれるためにだよ。
「謎がそう沢山あると思うのは、大間違いです」と戸浪は軽蔑けいべつの口調をあらわして云った。「僕は案外単純な事件だと思うが……」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時分のいきおいからいうと、日本的なもの、伝統的なもの、と説くことが因循姑息こそくなものとして、嘲笑ちょうしょう軽蔑けいべつされやすい立場にあった。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして腹の底からの軽蔑けいべつ憎悪ぞうおとをもって伯父をにらみつけながら「帰ろうよ! 帰ろうよ!」と火のごとく叫んできかなかった。
既に久しい以前から私は自分の白髪とともに、多くの人々が私を軽蔑けいべつするの権利を有するかのように思っているのを、知っている。
僕ははしなくも篠田さんがかつて『労働者中もつとも早く自覚するものは、もつとも世人に軽蔑けいべつされて、尤も生活の悲惨を尽くしてる坑夫であらう』
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
けれどわれわれの生活、この田舎いなかの、ロシアの、俗臭ふんぷんたる生活は、とても我慢がならないし、心底しんそこから軽蔑けいべつせざるを得ませんね。
復一自身に取っては自分に一ばん欠乏もし、また軽蔑けいべつもしている、そういうタイトルを得たことに、妙なちぐはぐな気持がした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自己へのさげすみは、母へのさげすみであった。あれからのかれは、自分の血と肉とに、こんなもの——という軽蔑けいべつをつねにもっている。
さりとて、これを軽蔑けいべつすることはいかぬ。別にお女郎のマネをしろとはいわぬが、真心があれば、部屋に花を生けるのも一つのあらわれだ。
筆にも口にもつくす (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
すると、女の子は急に顔をしかめて、私達を軽蔑けいべつしたような眼でジロリと見たかと思うと、ぷいと向うの方に行ってしまった。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかし、その印象は、十分、二十分とたつうちに、次第にうすらいで行き、時間の終りごろには、もう失望と軽蔑けいべつの念が彼を支配していた。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
どんなに心中で軽蔑けいべつしているであろうかはおよそ想像に難くなく、真面目まじめで取り合っているのではあるまいとさえ、推量された。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
事に大小は有ッても理に巨細こさいは無い。痩我慢と云ッて侮辱したも丹治と云ッて侮辱したも、帰するところはただ一の軽蔑けいべつからだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
中津藩の小士族で他人に侮辱ぶじょく軽蔑けいべつされたその不平不愉快は骨にてっして忘れられないから、今ら他人に屈してお辞儀をするのは禁物である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼処あそこへ行くのは、ありやあ何だ——むゝ、教員か』と言つたやうな顔付をして、はなはだしい軽蔑けいべつの色をあらはして居るのもあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
花岡 そりゃ、しめたよ、おれが。しめたけど、誰がお前こんな——だからよ……ちきしょう! お前の、その——軽蔑けいべつか? 軽蔑するんだな?
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
ひとは軽蔑けいべつされたと感じたとき最もよく怒る。だから自信のある者はあまり怒らない。彼の名誉心は彼の怒が短気であることを防ぐであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
しかもこの大先生が、民衆を軽蔑けいべつすればするほど、いよいよ彼の偽らざる本性が、公衆の一味徒党であることが解ってくる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
今の西洋医者はとかくその事を軽蔑けいべつする者が多いけれどもそれはまだ医学が充分に食物の化学作用を研究し尽さないからだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
下水めにだって何も恥ずかしい軽蔑けいべつすべきものはないじゃありませんか? わたしなんかまっさきにどんな下水溜めでも
全く絵の仕事位割切れない、理窟りくつ通りに行かぬものはあるまい。正道もあてにならず邪道もまた必ずしも軽蔑けいべつに値しない。
軽蔑けいべつするわね、僕だって車くらい動かせるさ。そんな妙な顔してないで、早くお乗りなさい。もう二時半よ。早くしないと、夜があけちゃうわ」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多くの人はそれを軽蔑けいべつしている。軽蔑しないまでもほとんど無関心にエスケープしている。しかしいのちを愛する者はそれを軽蔑することが出来ない。
軽蔑けいべつ冷嘲れいちょうの微笑を浮べて黙って彼の新生活の計画というものを聴いていたが、結局、「それでは仕度をさせて一両日中にることにしましょう」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
ぼくらは、代用品にはちがいなかったがちゃんと一人の「大人」として待遇され、だから「大人」を軽蔑けいべつする資格があると信じてもいたのだった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
愚にもつかない私のひねくれた気持ちを軽蔑けいべつするがいい。黍畑のあぜに寝ころび、いっそ深々と眠りたき思いなりです。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうとすればギリシアの barbaros とも共通に、外国人を軽蔑けいべつしていうときの名であったらしい。しかし「勇敢」では少しぐあいが悪い。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あアそうかと云いつつ、予も跡について起つ。敢て岡村を軽蔑けいべつして云った訳でもないが、岡村にそう聞取られるかと気づいて大いに気の毒になった。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
『荒鷲』は、遊撃隊を、さもさも軽蔑けいべつするように、爆弾を落そうともせず、低い雲の間をだまってとんでいる。エンジンの音が、ちっとも聞えない。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
ともかくも山と山との背くらべは、いつでも至って際どい勝ち負けでありました。それだから人は二等になった山をも軽蔑けいべつしなかったのであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その場の母の姿に醜悪なものを感じてか父は眉をひそめ、土瓶どびんの下をきつけてゐた赤いたすきがけの下女と母の色の黒いことを軽蔑けいべつの口調でさゝやき合つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
政治屋だのボスだのと軽蔑けいべつされている者でも、独特の方法で大衆を組織化し指導しているし、それがまた社会的利益に合うことも少なくないのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
そうして、日本人そのものはといえば、欧州人おうしゅうじんよりも体格はおとるし、有色ではあるし、言語も不自由であるから、自然軽蔑けいべつされたのも無理はありません。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
にんじん——お前は貧乏で、僕は金持ちだから、ほんとなら、お前を軽蔑けいべつしちゃうんだけど、心配しないだっていいよ。僕、お前を尊敬してるから……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
白い色の焼物の方は上等で、黒い方のは安ものとされます。それ故「黒もん」といえば軽蔑けいべつの意味が含まれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
通俗小説を軽蔑けいべつして来た自身の低俗さに思いあたらねばならなくなったのであるが、そのときには、最早遅い。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして最後に先生は、いつも、「だから百姓を軽蔑けいべつしちゃいかん。百姓は生命の親だ」をつけ加えるのだった。
我もこれにむくゆるに相手を軽蔑けいべつしあるいは馬鹿者視ばかものししたりせず、最善を尽すべしと決心する。双方が共に相許し合い、尊敬と同情をもって結びつけられる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
秋の木の実を見るまでは、それらはほとんど雑木ぞうきひとしいもののように見なしていましたが、その軽蔑けいべつの眼は欧洲大陸へ渡ってから余ほど変って来ました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)