起臥おきふし)” の例文
何故なぜと云えばお君さんは、その女髪結の二階に間借をして、カッフェへ勤めている間のほかは、始終そこに起臥おきふししているからである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
瓜畑の隅には疾から小舍が建てられて、小舍には不相應な大きな蚊帳が吊られました。爺さんは毎晩そこへ起臥おきふしをするのであります。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
父の弥右衛門はまだ四十がらみであったが、長年、廃人同様な起臥おきふしをしているので、せきの声まで、五十過ぎの人みたいに皺嗄しわがれていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等はかくしてかの新郎はなむこ、即ち愛より出るによりて己が心にかなふ誓ひをすべてうけいるゝ者と死に至るまで起臥おきふしともにせんとす 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
(この上誰か、この手毬の持主に逢えるとなれば、爺さん、私は本望だ、野山に起臥おきふしして旅をするのもそのためだ。)
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の間カヤンガルの浜辺の小舎に起臥おきふししながら、ギラ・コシサンは時々懐かしいリメイのことを心細く思い浮べた。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三六こしの国へ三七水丁くわんぢやう三八戒師かいしにむかへられ給ひて、百日あまりとどまり給ふが、くにより十二三歳なる童児わらはしてかへり給ひ、三九起臥おきふしたすけとせらる。
私の心は、今夜からこの眼の前に聳えて居る大きな家の人となり、多くの見知らぬ人々の間に起臥おきふしするのだといふ漠然とした不安や恐怖やで一杯になつて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一面には五百自身が牧ととも起臥おきふしすることをこころよからず思って、余所よそへ出て行くことを喜んだためもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この製作品は竜王の像で、これは勝次郎氏作り、私はお供と前立ちの方をおもにやったのです。そうして丸二年間大島氏の家に起臥おきふしして鋳金の仕事を修業したのである。
北海道の製造場にも二年たらずもいて、職人と一緒に起臥おきふしして来たりした主人は、お島より十近とおぢかくも年上であったが、家附の娘であった病身がちのその妻と死別れたのは
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
吾々は今日吾々の生活や風俗について言うべき何物をも何らの権能をも持っていない。現在家族と共に起臥おきふししている家屋すらある場合にはこれを捨てねばならないのだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
周平は、一月近く起臥おきふしした室に、これを最後の気持で身を投げ出した。明日は永久にこの家から去るつもりだった。そうすることが誰のためにも一番よい方法だと思った。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それからまた一転して、その庵に起臥おきふししている自分の生活を叙してかく言っている。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
百年の相識に別れた如くなにとなく心さびしかッたが……それも日数ひかずままに忘れてしまッたのに、今また思い懸けなく一ッ家に起臥おきふしして、折節は狎々なれなれしく物など言いかけられて見れば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
此間われは媼を忘れたりしならず、起臥おきふしごとに思ひ出でゝ、小尼公アベヂツサにも語り聞せつ。されどチヲリの避暑、御館にかへりて後の心の憂などは、我を妨げてカムパニアに來させざりしなり。
母屋から渡り廊下のついている離れに起臥おきふししていたが、そこから家内中に号令していた。お山の大将のようなものであった。祖母などはかげでは祖父のことを「うちの代官だいかんさま」と云っていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
三年の月日を姉と呼び妹と呼んで一棟の寄宿舎に起臥おきふしを共にした間柄、校門を辞して散々ちりぢりに任地に就いてからの一年半のうちに、身に心に変化のあつた人も多からうが、さて相共に顔を合せては
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
本願寺に起臥おきふしして、昔にもまさって本願寺の大切な人であった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弥生がここへ来て、起臥おきふしをともにして以来知り得た限りでは。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父と子や霖雨ながめけなるき起臥おきふしひつつすにひにつつあり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そなた、さしつかえる事なくば、この屋敷に来てたもらぬか。朝夕、わしと一緒にここに起臥おきふししてたもらぬか。いいや、代官に断わるまでもなく、そちがよいと言い、わしが望むと言えば、それで仔細はない」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これだけが山野家に起臥おきふししていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、同僚からもあきれられる程、彼は自身の受け持っている厩廻りの仕事と、また、飼馬に手をつくして、馬と共に起臥おきふししていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一〇ともなひにおくれしよしにて一宿ひとよを求めらるるに、一一士家しかふうありていやしからぬと見しままに、とどめまゐらせしに、其の夜一二邪熱じやねつはなはだしく、起臥おきふしみづからはまかせられぬを
起臥おきふしの、徒然つれづれに、水引みずひきの結び方、熨斗のしの折り方、押絵など、中にも唯今の菊細工——人形のつくり方を、見真似みまねに覚えもし、教えもされましたのが、……かく持参のこの手遊品おもちゃで。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其後も矢張その会堂に起臥おきふしして、天理教の教理、祭式作法、伝道の心得などを学んだが、根が臆病者で、これといふ役にも立たない代り、悪い事はカラできないたちなのだから、家を潰させ、父を殺し
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それからは三人が摂津国屋を出て、木賃宿きちんやど起臥おきふしすることになった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蒙古児モンゴル陀羅海トルカイ低き沙丘の起臥おきふしはてしもしらね草枯れにけり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
口汚いそしりを浴び、起臥おきふしにも、風の音にも、心をおびやかされながら、短い老先を生きのびたとて、それが、何の余生の楽しみとなりましょう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
砂いくつ畳にひろふ起臥おきふしも早やすずしかり唐紙たうしのべしむ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さまでの僧正を、なおもいてきたなき臆測で見ようとする人々には、よろしく、僧正と共に青蓮院に起臥おきふししてみるがよい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、趣味にも、朝夕の起臥おきふしにも、夫婦ふたりの仲のよさは、家来の目にも、うらやましく見えるほどであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よくよく居心地がよいとみえ、お杉ばばが半瓦はんがわらの家に起臥おきふしを始めてから、月日はいつか一年半も巡っている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤岩村のわびしい郷士、くわを片手に、飼蠶かいこと共に起臥おきふししている土侍じゃが、おもとたちの御先祖様はといえば、足利あしかがの世の頃まで、今も昔のままに居るこの辺り一帯をとりでとして
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに起臥おきふしする無法者の乾児こぶんが、手拭だの、着替えだの、火事頭巾だの、襦袢じゅばんだのを雑多に釘へ掛けつらね、中には、誰も着手きてのいるわけがない、紅絹裏もみうらのあでやかな女小袖なども掛け
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずかふた月でも起臥おきふしをともにして、しかもよい姉様ねえさまのように親しんでいた人を、旅に奪われるとなると、生徒の巫女みこたちは、一抹の哀愁にとらわれて、なかなかお通を離さないのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
起臥おきふしの様はどうじゃ。気だてはどうか)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)