貪婪どんらん)” の例文
従って農民は困窮の生活をしている。しかし農民は少くともその暴君を富ましめず、そして専制主義の貪婪どんらんは自らを罰するのである1
しるの多い芳しい果実を舌が喜ぶように、人の眼は色彩を喜ぶ。その新しい御馳走ごちそうの上へ、クリストフは貪婪どんらんな食欲で飛びついていった。
人々はこれを伝え聞いて、「左内が金をためているのは貪婪どんらん強欲ごうよくというようなたぐいではないのだ。ただ当世にはめずらしい一奇人なのだ」
彼等の貪婪どんらん極りなき慾情が、いぶきとなってふき出しているのではないか。併しそれが、何故なぜなればかくも私の心をそそるのか。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘のように赤く、ふっくらと湿っている唇がゆがみ、はっきりとした紛れのない双眸そうぼうに、貪婪どんらんな、ぎらぎらするようなあぶらぎった色がうかんだ。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「…………」お鳥はっと唇を噛みました。山で育ったお鳥はこの悪獣の貪婪どんらんな食慾と、執拗極まる性質を知り過ぎるほど知って居たのです。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それがやがて「所有」への欲望と結びつけられる時に、あの貪婪どんらんな政治家は、物質万能主義の悪魔の王国を作るのである。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
桜の根は貪婪どんらんたこのやうに、それを抱きかかへ、いそぎんちやくの食糸のやうな毛根をあつめて、その液体を吸つてゐる。
桜の樹の下には (新字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
肉に飢えたる貪婪どんらんの心を思うと、実に浅ましくて、そのような心で女を見ることは実に嫌悪すべきものと感ぜられます。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
……この辺の住人ときたら、まるで鬣狗ハイエナのような貪婪どんらんなやつばかりですから、そんなことをしていたら、それこそ骨までしゃぶられてしまいます。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
教会が策略に満たさるる時、吾人はそれを非難し、求道者が利欲に貪婪どんらんなる時、吾人はそれを侮蔑ぶべつする。しかし吾人は常に考える人を皆尊敬する。
貪婪どんらんくちばしを突き立てて四面を一渡り円舞し、急に首を丸め爪で嘴をとぎながら扇子のように拡げた翼をとじて直下の姿勢をとった。矢のように早い。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
へたに投げ出してみたならば、それこそ群がる餓狼のために、肉の倉庫を開放したようなもので、いたずらに貪婪どんらんと争闘との餌食を供するに過ぎないのだ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は又、貪婪どんらん止むを知らざる渇望を以て、美なる物を求め奇異なる物を追ふ人々が、平和と形状とを失つて、遂には無形と平俗とに堕する事を知つた。
俺がこうした莫迦ばかげた事柄への貪婪どんらんを以て(しかも哲学者的な冷徹な思索を欠いて)生れて来ているということこそ、唯一のかけがえの無い所与なのだ。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
献身の素子と、貪婪どんらんな情慾の素子と、同じ素子であることが谷村の嘆きをかきたて、又、憎しみをかきたてた。
女体 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
思いもかけぬ貪婪どんらん陋劣ろうれつな情欲の持ち主で、しかもその欲求を貧弱な体質で表わそうとするのに出っくわすと
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すなわち解放せられた自然的欲望はその自由の悪用のゆえに貪婪どんらんの極をつくしてついに自分を地獄に投じた。
世界の変革と芸術 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女は産みの兩親の顏も知らぬ薄命の孤兒であつて、伯父や伯母の家に轉々と引き取られて育てられたが、身内の人達は皆な揃ひも揃つて貪婪どんらん邪慳じやけんであつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
まことに芸術家の、表現に対する貪婪どんらん、虚栄、喝采への渇望は、始末に困って、あわれなものであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
孤独な生活はいやが上にも彼を吝嗇にした。周知のとおり、吝嗇というやつは狼のように貪欲なもので、がつがつと貪れば貪るほどいよいよ貪婪どんらんになるのである。
沖には、早打ちを仕掛けた打上げ船が、ゆたりゆたりと、光り輝く海面うなもただよい、早くも夏に貪婪どんらんな河童共の頭が、見えつ隠れつ、その船のあたりに泳ぎ寄っていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
此時ドルフの目に水を穿うがつて来る松明の光が映つた。ドルフは最後の努力をして、自分がやつと貪婪どんらんな鮫のあぎとから奪ひ返した獲ものを、跡の方に引き摩つて浮いた。
したがその猛も貪婪どんらんな五欲には組み合わず、唇と歯には智恵をかみわけ、鼻、ひたいに女性のような柔和と小心と、迷いのふかい凡相をさえお持ちであらっしゃる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その位の貪婪どんらんさがあるのだが、そこは市民の礼譲で、どうぞほかへも、と云っている次第なのです。
あくどいまでに貪婪どんらんなロダンはそれだけの犧牲を拂つた。彼の歩む道は簡單ではなかつたのだ。複雜を極め、また困難であつた。さうして寧ろ彼は「理想」や「原則」を
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貪婪どんらんに、無数に群がりながら、黒いやつはすすの板のようにかたまって、眼や鼻のあなくちびるのまわりにへばりつき、青いやつは、特に好んで新しい擦り傷のあるところへ吸いつく。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
貪婪どんらん、残忍の、吸血鬼というべきであろうか? と、紙帳に映っていた武士の姿が崩れた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、貪婪どんらんな悪魔……」と、彼は言いかけて、彼自身を顧みて見ようとする気になった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
それは東京の中学校を落第して仕方なしに浦和へきた怠惰生たいだせいからの感染かんせんであった。孔子こうし一人いちにん貪婪どんらんなれば一国いっこくらんをなすといった、ひとりの不良があると、全級がくさりはじめる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
病的な貪婪どんらんのために、どうしても自信の持てないあの作品である。——彼の白い頸は襟飾りから長く突き出ている。そしてねまきの裾のはだけた間から、内側へ曲った両脚が見える。
ちやうど心の清い尼さんが僧形そうぎやうをした貪婪どんらんの惡魔の前にゐるかと思はれるのである。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
どんなにものずきなわたし達の心の底に貪婪どんらんなあこがれをかき立てていたことか。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
人心、古のようでなく、康囘こうかい貪婪どんらん飽くなく、天位を窺うたがために、私共の后は自ら天罰を加えるために、郊に戦われたが、天は本当に徳を祐け、私共の軍隊は向うところ敵なく、康囘を
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
というようなことをきこうと思うと、まずパリやそこの宮中生活について、好奇心のあふれそうな、ほとんど貪婪どんらんといいたいくらいな質問を皮切りに、それからだんだんと順序を追って
公吏の職にさへあつた或る男の、野獸の如き貪婪どんらんが、罪なき少女の胸に九寸五分の冷鐵を突き立てたのだといふ。兄は立派な體格を備へて居たが、日清の戰役に九連城畔であへなく陣歿した。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
貪婪どんらんに私を吸いつくし、みこもうとしているのだとしか思えなくなる。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
その犠牲に手をのば貪婪どんらんさを彼ぐらい露骨に示したものも少かろう。鶴見が銭湯にさそわれたのを犠牲と呼ぶには当らないが、どういうものか、そういうような気持がふと心のなかをかすめて行った。
そういった貪婪どんらんきわまる表情が、さっとひらめく二、三の女。
みひらきて浮世を目戍みまも貪婪どんらんの眼の「奢侈」。
貪婪どんらん淫褻いんせつ、不義、無情のかたまりで有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貪婪どんらんたこに比すべし、骨堂こつだうなり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
貪婪どんらん睡眠者すゐみんじや樹身じゆしんの蟲!
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
貪婪どんらんで執拗で薄黒くて不気味なくせに、不思議な媚を含んだ第二主題は、兎もすればあえぎ逃げ廻る第一主題を圧倒して、曲の第二段は終ります。
桜の根は貪婪どんらんたこのように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根をあつめて、その液体を吸っている。
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
妖怪はそのときすでに鯉を平げてしまい、なお貪婪どんらんそうな眼つきを悟浄のうなだれた頸筋くびすじそそいでおったが、急に、その眼が光り、咽喉のどがゴクリと鳴った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼はこれまで、ドイツ人は音響にたいする特殊な貪婪どんらん性を有していると考えていたし、その貪婪性についてドイツで一度ならず不快を覚えたことがあった。
私のさみしいふところを搾取さくしゅしながら、かれらも幸福ではなかった。その期間、かれらは貪婪どんらんな漁夫でありわる賢い商人だったからだ。私は深く自分を恥じた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お絹は、はっと狼狽うろたえて、思わずギヤマンを取隠すような気になって、手を延ばした途端に、主膳のかおを見ると、その三眼の貪婪どんらんにはじめてギョッとしました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
使うに余る金、昔恋した女、さすが貪婪どんらんな私の欲望もその一年間は少しも不足を告げなかったのです。