譴責けんせき)” の例文
役目不心得につきおとがめ——という不名誉な譴責けんせきのもとに、退役たいやく同様な身の七年間、はとを飼って、鳩を相手に暮らしてきた同心である。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暴れ者で一徹で、こらえ性のなかった彼が、兄を殺した相手をゆるし、不当な譴責けんせきを忍び、そして流人村の住民を救おうとしている。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
良心は疾呼しっこして渠を責めぬ。悪意は踴躍ゆうやくして渠を励ませり。渠は疾呼の譴責けんせきいては慚悔ざんかいし、また踴躍の教峻を受けては然諾せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の逞ましい精神が腐敗せる社会に投げつけた烈しい痛罵つうば譴責けんせきの声が、当時の社会に震撼的しんかんてきな印象を与えたことは前に一言したが
「中止しろと言ってきましたが、やめずにやっていたので、譴責けんせきを食いました……近いうちに、どこかへ転勤になるのでしょう」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは毎日々々しつきりない譴責けんせきと決して感謝されることのない雜役とに慣れ切つた私には、平和のパラダイスに違ひなかつた。
而るに公家褒賞の由く、しば/″\譴責けんせきの符を下さるゝは、身を省みるに恥多し、面目何ぞ施さん。推して之を察したまはば、甚だ以てさいはひなり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
時間に遅れたらこの先きどんなひどい譴責けんせきに逢うかも忘れ、己れを忘れ、職務を忘れ、世界も、世界にありとあらゆるものをも打ち忘れて
もし現代の科学を一通り心得た大岡越前守おおおかえちぜんのかみがこの事件をさばくとしたら、だまされたほうも譴責けんせきぐらいは受けそうな気がする。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今では教会は単に精神的譴責けんせきのほか、なんら実際的な裁判権を持っておらぬから、犯人の実際的な処罰からはこちらで遠ざかっておるのじゃ。
惻隠の情とでもいうのでしょうか、こういう感情が湧くと一緒に自己譴責けんせきの心持も、起こらない訳にはいきませんでした。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
されば我々年少なりといえども、二十年前の君のよわいにひとし。我々の挙動、軽躁なりというも、二十年前の君に比すれば、深く譴責けんせきを蒙るのなし。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おそらく無断外出を夜廻りに見付けられて、譴責けんせきを受けるか、退学を命ぜられるかと、その夜は碌々眠られなかった。
私はこんなに痩せる訳はないけれども、三ヵ月以前に私の下僕しもべが盗人をした。それを譴責けんせきしたところが大いに怒って私のこの横腹へ刀を突き込んだ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼が前記の中学校の校長であったとき、不勉強な生徒を譴責けんせきする折があった。その節かれはこの青年に向かって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
相当に馬を譴責けんせきすることでしょう——もし、乱暴の主人でしたなら、危険のおそれあるあばれ馬として、売り飛ばすか、つぶしにすることか知れたものではない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、大喝一声譴責けんせきを加えた上、町名主まちなぬし五人組へ預けたので、一同その明決に感じ合ったということである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
有志といえる偽豪傑連にせごうけつれんよりは、酒色しゅしょくを以ていざなわれ、その高利の借金に対する証人または連借人れんしゃくにんたる事を承諾せしめられ、はて数万すまんの借財をいて両親に譴責けんせきせられ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そういう瑞見は、彼自身も思いがけない譴責けんせきを受けて、蝦夷えぞ移住を命ぜられたのがすこし早かったばかりに、大獄事件の巻き添えを食わなかったというまでである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ついにお公儀の譴責けんせきをうけるに及んだので、三河侍の気風を最後に発揮して、大久保甚十郎といったその旗本は、当時はまだご二代台徳院殿公のご時世でありましたが
私は私の先輩なる高等学校の古参の教授の所へ呼びつけられて、こっちへ来るような事を云いながら、ほかにも相談をされては、仲に立った私が困ると云って譴責けんせきされました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
數人の外國人とつくにびとさへ雜りたり。われは晝間の譴責けんせきに懲りて、室の片隅に隱れ避け、一語をだに出ださゞりき。人々はの形をなして、ペリイニイといふものゝめぐりに集へり。
みだりにこれを譴責けんせきし、はなはだしきは師友をうらむるのやから少からず、迷えるのはなはだしきにあらずや。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
張作霖からは、譴責けんせきを喰っている。没落以外に道はない。中津は、それを観取していた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
一年あまりして王は給諌の党から弾劾だんがいせられて免官になった。王の家に一つの玉瓶ぎょくへいがあった。広西中丞ちゅうじょうが小さな過失があって譴責けんせきを受けた時に賄賂わいろとして贈って来たものであった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そしてクリストフは、彼が学校に出てるのは生徒らに音楽を好ませるためにではなく、彼らに音楽を歌わせるためにであることを、言い聞かせられた。彼は震えながら譴責けんせきを受けた。
予の寡聞くわぶんを以てしても、甲教師は超人哲学の紹介を試みたが為に、文部当局の忌諱きゐれたとか聞いた。乙教師は恋愛問題の創作にふけつたが為に、陸軍当局の譴責けんせきかうむつたさうである。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし私はこの父の厳しい譴責けんせきによって、つくづく自分の非を悟りましたので、散々さんざんその場で父に謝罪を致し、以来決して不心得を致しませんによって、今度だけはお許しを願いますと
また譴責けんせきすべきものならば委員会の決議をへて取扱うことになっている。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昌平黌しやうへいくわうに講説し、十年榊原遠江守政令さかきばらとほたふみのかみまさなりに聘せられ、天保三年故あつて林氏の籍を除かれ、弘化四年榊原氏の臣となり、嘉永三年伊豆七島全圖をあらはして幕府の譴責けんせきを受け、榊原氏の藩邸に幽せられ
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「あれは譴責けんせきで事済みさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
弘化元年、藩主斉昭が幕府の譴責けんせきにあって隠居謹慎を命ぜられ、その帷幄いあくの士たる藤田彪(東湖)、戸田忠敞ら一派が罪せられた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これが手おくれとなりますと、お手持の軍は失い、朝廷からは譴責けんせきをうけ、人民は足もとから騒ぎだすなど、収拾しゅうしゅうもつきますまい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれはその残金でまた遊蕩を始めたものだからとうとう新任の少佐も余儀なくおれに譴責けんせきを食わしたほどだ。
汽船観光丸の試乗者募集のあった時、瑞見もその募りに応じようとしたが、時の御匙法師おさじほうしににらまれて、譴責けんせきを受け、蝦夷えぞ移住を命ぜられたという閲歴をもった人である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その翌日になると一同で物理の講堂へ呼び出されて、当然の譴責けんせきを受けなければならなかった。その時の先生の悲痛な真剣な顔を今でもありあり思い出すことができるような気がする。
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この一念を起してより六、七カ月の間は余が生涯のうちにおいて尤も鋭意に尤も誠実に研究を持続せる時期なり。しかも報告書の不充分なるため文部省より譴責けんせきを受けたるの時期なり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
程なくその大臣のしたあやまちのばけの皮が顕われて、いよいよ其事それが政府部内の問題となり、譴責けんせきをするかあるいは重い罰に処するかという場合には、じきにネーチュンを呼び神様を下ろして
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
後日ごにち譴責けんせきをうけるようなことがあっても困るので、少し手にあまるような事件には自分の意見書を添えて『何々の仕置可申付哉、御伺』といって、江戸の方までわざわざ問い合わせて来る。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
検非違使けびゐしちやうの推問にうて、そして将門の男らしいことや、勇威を振つたことは、かへつて都の評判となつて同情を得たことと見える。然し干戈かんくわを動かしたことは、深く公より譴責けんせきされたに疑無い。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
姉婿さえ譴責けんせきを加えられ、しばら謹慎きんしんを表する身の上とはなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
権右衛門は屈辱におののき、忿りに震えあがった、「誓って云うがあなたは譴責けんせきをくいますぞ」捕吏に向かって彼はこう威嚇した。
しかし、兵を石山寺にとどめて、伊吹の道誉と、即日、何やらしきりと使者を交わしており、どうも事態はただの譴責けんせきや合戦に入るもようではないとある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし父子の譴責けんせきが厳重に過ぎて一同死守の勢いにもならば実に容易ならぬ事柄だというにある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仮令たとい国のものから譴責けんせきされても、他県のものから軽蔑けいべつされても——よし鉄拳てっけん制裁のために絶息ぜっそくしても——まかり間違って退校の処分を受けても——、こればかりは買わずにいられないと思いました
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その善い事もさかさまに悪事に言い立てて譴責けんせきを喰わせるとか罰せられるようにされるものですから、チベットの政府部内では法王を恐るると同時に、なおより多くネーチュンなる神下しを恐れて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
八年まえ、藩主和泉守いずみのかみ信容の叔父に当る丹後信温のぶやすという人が、江戸家老と組んで藩の政治をみだし、危うく幕府の譴責けんせきをかいそうになった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ところがその翌年、大徳寺において玉室ぎょくしつ法嗣ほうし正隠せいいんを出世せしめたので、幕府は厳重その非違を譴責けんせきした。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安政大獄の序幕はそこから切って落とされた。彼はもとより首唱の罪で、きびしい譴責けんせきを受けた。しりぞけられ、すわらせられ、断わりなしに人と往来ゆききすることすら禁ぜられた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私服はあおくなってふるえていた。彼は法律を行使したのであるが、いまやその法律が彼を指弾し譴責けんせきするように思えたらしい。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)