衷心ちゅうしん)” の例文
K大耳鼻科のお仕込みもさる事ながら、彼女は実に天才的の看護婦である事を発見させられて、衷心ちゅうしんから舌を巻かされたのであった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
我らの衷心ちゅうしんしか囁くのだ。しかしながらその愉快は必ずや我らが汗もて血もて涙をもてあがなわねばならぬ。収穫は短く、準備は長い。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし予は衷心ちゅうしん不憫ふびんにたえないのであった。ふたりの子どもはこくりこくり居眠いねむりをしてる。お光さんもさすがに心を取り直して
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
防護団にあると家庭にあるとを問わず、この防空第一線を死守されました皆様に、衷心ちゅうしんから敬意を表して放送を終ります。JOAK
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたは衷心ちゅうしんに確にソレを知ってお出です。夫人、あなたは其深い深い愛のもとに頭をれて下さることは出来ないのでしょう乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それは、そうであろう。伊織も衷心ちゅうしんからおよろこび申しあげる。多年の本懐を達せられた御老人の心中こそ察せられるなあ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
修業の仕方一つでその人々と同じものか、或いは似ていて自分が衷心ちゅうしん求めている神秘を確に自分の中に持ち来せるのである。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勝豊は、養父と秀吉との関係が日にまして険悪になりつつある情勢にたいし、衷心ちゅうしん、憂いていたところだったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでわれわれは、彼らの命が助かることを衷心ちゅうしんから希望する者であり、そのためには常に尽力を惜しまない者である。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
同時に、一種の弱点を持ったこの兄さんを、私は今でも衷心ちゅうしんから敬愛していると固く信じて疑わないのであります。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私がこれから物語ろうと思ういきさつの男女も、このような微笑の初夜を得るように、私は衷心ちゅうしんから祈っている。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
友を以て全く己と等しきものと思い、友はわが衷心ちゅうしんことごとく了解しくれるならんと予期していた。しかるにこの予期は裏切られて彼はおおいなる失望をあじわった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
アメリカ機密局は、したがってF3号の一団は、日本の隣組がそういう風にわれわれに好都合な方向に進んで行くことを衷心ちゅうしんより希望しているのであります。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宇治山田の米友という代物しろものが、ここと同じところにいて、出て行く船と伊勢の国をながめて衷心ちゅうしんから憤っていたはずですが、それには充分に憤るべき理由があり
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何のはばかるところなく善事をるであろうが、普通人はしばしば善事をするのでなく、たまたま衷心ちゅうしんより世のためだと思うことをすると、一方に臆病おくびょうの考えが起こり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その腹蔵ふくぞうのない態度にわたしは衷心ちゅうしんから感謝し、また、わたしの希望に対して紳士的の許可をあたえてくれたことをも感謝して、わたしは自分の望むものを手に入れることになった。
どうせ病人に逢えないのにその家人かじんをして応接に忙殺せしむるのも気の毒だから私は御見舞に出ないけれども先生の御全快を祈ってひそか衷心ちゅうしんくるしめておりますと見舞状を出しておいた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
獄舎制度も面白くないが、教育制度もはなはだ面白くない。まるきり心霊の知識を欠ける人類は半盲人である。到底ろくな考えの浮ぶ筈がない。私は衷心ちゅうしんから、日本国民よ、何所どこに行くと叫びたい。
孝悌は道(すなわち仁)の本であるが、その孝悌を実現するに当たって、単に外形的に言葉や表情でそれを現わしたのではだめである。父母兄弟に対し衷心ちゅうしんからの愛がなければ孝悌ではない。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人間は不正な事に満足し得る人間ではない。悲惨な事やさびしみに冷やかな人間ではない。圧迫や争闘は衷心ちゅうしんからの求めではない。今の世は不純な勢いをかもして、心ならずも醜い生活を続けている。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
こはかかる有様を見せしめなば妾の所感如何いかがあらんとて、磯山が好奇ものずきにもことに妾を呼びしなりしに、妾の怒り思いのほかなりしかば、同志はいうもさらなり、絃妓げんぎらまでも、衷心ちゅうしん大いにずる所あり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
衷心ちゅうしんから湧起わきおこ武士さむらいの赤誠を仄見ほのみせて語ったその態度その風采ふうさい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
済まない済まない済まないと彼は衷心ちゅうしんから後悔した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
余は、わが火星探険協会長に永年よせられたるアメリカ全国民の後援に対し、衷心ちゅうしん感謝の意を表するものであります。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
気がついてみると、復一は両肘をしゃがんだ膝頭ひざがしらにつけて、かたにぎり合せた両手の指の節を更に口にあててきつく噛みつつ、衷心ちゅうしんから祈っているのであった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『万々一、そうした事の起った場合は、一同、静粛せいしゅくに御吟味を願い出で、赤穂引渡し以後の始末、われ等の衷心ちゅうしん、ただ真直まっすぐに申し出るほかはござるまい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衷心ちゅうしんから悪いこととは信じきれないで、愛せねばならぬ人を愛することも、恋せずにはいられない人を恋するのも同じことである——そこで、この奇妙なる関係が
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
衷心ちゅうしんから疑い出す一方に、時折り彼を呼びかけるその声が、果して自分の声だかどうだかを、的確に聞き分けてやろうと思って、ショッチュウ心掛けていたものであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わしはただもう滅多無性に川村をほめ上げ、彼の幸運を祝し、かくの如く富裕にして趣味豊なる青年紳士を、我が社交界に迎え得たことは、衷心ちゅうしんより愉快に耐えぬ所である。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世の中にはいろんな人がいるが、衷心ちゅうしんから尊敬に値して、なんでも秘密をうちあけて智恵を借りる畏友いゆうは、風来坊泰軒居士と、この湯殿のラスプチン愚楽老人以外にはない——こう考えている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人間は不正な事に満足し得る人間ではない。悲惨な事やさびしみに冷やかな人間ではない。圧迫や争闘は衷心ちゅうしんからの求めではない。今の世は不純な勢いをかもして、心ならずも醜い生活を続けている。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
衷心ちゅうしんからそう思われた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
衷心ちゅうしんから恥じ入ったふうで、そこから越後の国府こうまで、一行にいてきてしまったのみか、以来、配所のあばらやにかしずいて、ひたすら念仏教に参じていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの衷心ちゅうしんからほとばしりでた言葉であることがうなずかれもし、そして又、そのように途方とほうもない夢をえがくことによって僅かに自分を慰めなければならぬほど
前の養母にも一度衷心ちゅうしん感謝を披瀝ひれきしたといふのは、享和きょうわ元年彼は六十八歳になつたが、この年齢は大阪の歌島稲荷社の神が彼に与へた寿命の尽きる歳であつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
好きといったところで、惚れたの腫れたのというわけではないが、おたがいにどうしても衷心ちゅうしんから憎み合えないような何物かがあることを、おたがいに気がつきません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と若い親方が五尺ばかりの長さの溜息をいた。衷心ちゅうしんから感心してしまったかのように……。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
でも正成の責任はそれで消えぬ、この正成の……と笠置の過去をかえりみたとき、彼ははっと、いまの衷心ちゅうしんを訴えうるただひとりの御一人を胸のうちに見つけていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかくもその場はお君を取鎮め、万事を我に任せろと頼もしいことを言って力をつけたものの、兵馬自身によくよく衷心ちゅうしんを叩いて見ると、それは甚だ覚束おぼつかないことです。
という心持ちを衷心ちゅうしんから表明しているかのように見えた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
然るに、恨むらくは、兵少なく、地利あらず、いま一陣にやぶれて、臣孔明に万恨ばんこんを託され、江水の縁を頼って、呉に合流せんことを衷心ちゅうしんねがっているわけであります。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駒井のかおを見ていると、むらむらとして、衷心ちゅうしんの憤りと、憎しみとが、湧き起るのをめることができないと見えて、そのこぶしがワナワナと動いて、とみには口もけないでいるのを
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
衷心ちゅうしんから吸い付けられてしまっていた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大きな慈悲の眼をもって、働きかけていただきたいと、衷心ちゅうしんからお願い申すわけであります
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の風流人は、風流の地に落ちないことを衷心ちゅうしんよろこびに堪えなかったようです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つい、他事よそごとのみ申し上げたが、そうした自分の衷心ちゅうしんです。……実は一昨日、伊勢守どのに拝顔の折、よほどお打明けして、と存じたが、貴僧にこう申すようには云えぬのでござった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君が衷心ちゅうしんから動かされたような感動を、ここへ来て受け得られないところに、受け得られないで平々淡々たる親しみを感ずるところに、海の本色と、その偉大さがあるといってもいい。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は衷心ちゅうしんにきざまれました……徹底的のところには、すべての人間相が、少しも姿を隠さずに、眼前に現われて来ます、誰も荒海の漁師の子に、阿媚あび諂佞てんねいを捧げるものはありません
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
車舎人くるまとねりとして、都で仕えた藤原忠平を、心にたよって——摂関家への、上訴と、そして情状の酌量をも仰いだ——彼としては、一字一行も、涙なきを得ない、衷心ちゅうしん吐露とろした文書である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「臣の弟孔明は、陛下に仕えて、久しく蜀にあります。故に、余人より幾分か、陛下のご眷顧けんこも仰がれようかと、主人孫権が、特に不肖を使いとなして、呉の衷心ちゅうしんを申しあげる次第でございます」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)