莞爾にっこ)” の例文
その第三頁目には王冠をいただいた白髪小僧の姿と美事な女王の衣裳を着けた美留女姫が莞爾にっこと笑いながら並んでいる姿がいてあった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
死を怖れざるゆえに、死なねばならぬときに莞爾にっこと笑って死んでゆくのです。ゆえにそれはいたずらに死を求める人ではありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
といいかけて莞爾にっことしつ。つとく、むかいに跫音あしおとして、一行四人の人影見ゆ。すかせば空駕籠釣らせたり。渠等は空しく帰るにこそ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時雌鼠は恐る恐る黄金丸の前へひ寄りて、慇懃いんぎんに前足をつかへ、数度あまたたびこうべを垂れて、再生の恩を謝すほどに、黄金丸は莞爾にっこと打ち
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
吃驚びっくりして振返ふりかえると、雪江さんがキャッキャッといいながら、逃げて行くしどけない後姿が見える。私は思わず莞爾にっことなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すぐに二畳のあがり口へ出て来まして、障子を開けるとて格子の外に立って居まする庄三郎を見て、莞爾にっこと笑いながら
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると艇長は、その気配のただならぬのを悟ったのでしょうか、莞爾にっこと微笑んで、吾々に潜望鏡を覗かせるのでした。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
襖の蔭から半身が見える、白羽二重しろはぶたえ紗綾形しゃあやがた、下には色めいた着流し。お絹は莞爾にっことしてこっちを見ながら
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この弓勢ゆんぜいに恐れてかワッと寄せ手は声を上げて半町ばかり退いた。その有様を主馬之介は莞爾にっことばかり見送ったが、やがて半弓カラリと捨てて邸の中へ走り込んだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この通りに莞爾にっこと笑いながら、涙で一杯になった眼で俺を見たのではなかったか。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
すると丹泉は莞爾にっこと笑って
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
莞爾にっことしていった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病気にやと胸まずとどろくに、やがて目をあげて此方こなたを見たまう時、莞爾にっことして微笑ほほえみたまえば、やまいにはあらじと見ゆ。かかることしばしばあり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
莞爾にっことなった儘で、尚お雪江さんの事を思続けて、果は思う事が人に知れぬから、いようなものの、怪しからん事を内々思っていると、茶の間の椽側あたりで
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それに違いない。そうだそうだと、忽ちの内に気が変りました美留藻は、最早もう女王になった気で腰に結んだ縄も何も解き放して、又もや鏡を覗きながら莞爾にっこと笑ったその美しさ、物凄さ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「その心配はご無用です。この多四郎が付いておりやす」彼はポンと胸を叩いたがこういう気障きざなやり口も浮世を知らぬ山の娘にはかえってたのもしく思われるらしい。で、彼女は莞爾にっこりした。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と立ちながらつづけて莞爾にっこと笑いましたので、竜之助は
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
莞爾にっことして
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかりありて眼のさきにうつくしき顔のろうたけたるが莞爾にっことあでやかに笑みたまいしが、そののちは見えざりき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひじまくらに横に倒れて、天井に円く映る洋燈ランプ火燈ほかげを目守めながら、莞爾にっこ片頬かたほ微笑えみを含んだが、あいた口が結ばって前歯が姿を隠すに連れ、何処いずくからともなくまたうれいの色が顔にあらわれて参ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すると武者所鬼王丸は得意気に莞爾にっこと笑ったが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白雲は、莞爾にっことして、娘を迎えようとする。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
王はこれを聞くと莞爾にっこと笑いまして——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
お丹はこれを見て莞爾にっことし、「泣いてくれるか、え、鉄しおらしいの、おお、よく泣く、もっと泣きな。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お角はそれを見ると莞爾にっこと笑って
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
莞爾にっこと笑み、はじめて瞳を座敷に転じて、島田の一にぐいとさした、撫子なでしこの花を透彫すかしぼりの、銀の平打が身じろぎに、やや抜け出したのを挿込みながら、四辺あたりながめて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのままおそれげものう翼を休めたるに、ざぶりと水をあびせざま莞爾にっことあでやかに笑うてたちぬ。手早くきぬもてその胸をばおおえり。鳥はおどろきてはたはたと飛去りぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
照子はおとがいにて数え、「二円八十銭……。」と言い懸けて莞爾にっこと笑い、「お安いものよ、ねえ貴下。」予算よりは三倍強なるに「えッ。」とまなこみはりしが、天なるかなと断念あきらめ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と斜めに警官を見て、莞爾にっこり笑う……皓歯しらはも見えて、毛筋の通った、つぶし島田は艶麗あでやかである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、」と不意に呼吸いきを引いた。濡れしおたれた黒髪に、玉のつらなるしずくをかくれば、南無三なむさん浪にさらわるる、とせなを抱くのに身をもたせて、観念したかんばせの、気高きまでに莞爾にっことして
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここできりの箱も可懐なつかしそうにだきしめるように持って出て、指蓋さしぶたを、すっと引くと、吉野紙よしのがみかすみの中に、お雛様とお雛様が、紅梅白梅こうばいはくばいの面影に、ほんのりと出て、口許くちもと莞爾にっことしたまう。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これあらば赤城家へ入込いりこむに便たよりあり造化至造妙しあわせよし莞爾にっこうなずき、たもとに納めて後をも見ず比企ひきやつの森を過ぎ、大町通って小町を越し、坐禅川を打渡って——急ぎ候ほどに、雪の下にぞ着きにける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ。」とばかりに後にすさりて、うしろざまにまたその手を格子戸の引手にかけし、にげも出ださむ身のふりして、おもてをばあからめたまえる、可懐なつかしと思う人なれば、涙ながら見て、われは莞爾にっこと笑いぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襟脚えりあし長くたまべて、瑩沢つややかなる黒髪を高く結んだのに、何時いつの間にか一輪のちいさな花をかざしていた、つまはずれ、たもとの端、大輪たいりんの菊の色白き中にたたずんで、高坂を待って、莞爾にっこむ、美しく気高きおもざし
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくして滝太郎は大得意の色を表して、莞爾にっこ微笑ほほえ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ミリヤアドは莞爾にっことして
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)