花道はなみち)” の例文
赤い襦袢じゅばんの上に紫繻子むらさきじゅすの幅広いえりをつけた座敷着の遊女が、かぶ手拭てぬぐいに顔をかくして、前かがまりに花道はなみちから駈出かけだしたのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
言わずに、引き揚げてくれたまえな。死ぬか生きるかと云う場合だ。しばらく、しばらくって花道はなみちからけ出してくるところだよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花道はなみちから八才子が六方ろっぽうを踏んで現れるという花々しいに、どうしたものだかお約束の素足すあしの下駄穿きを紅葉だけが紺足袋を脱ぐのを忘れていた。
干潟の前方は、一面の本水で、それが花道はなみちの切幕際にまで続き、すべてが、先代右団次そっくりの演出であった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
舞台ぶたい花道はなみち楽屋がくや桟敷さじきのるゐすべて皆雪をあつめてそのかたちにつかね、なりよくつくること下のを見て知るべし。
ず口のうちでいって見て、小首を傾けた。ステッキが邪魔なのでかいなところゆすり上げて、引包ひきつつんだそのそでともに腕組をした。菜種の花道はなみち、幕の外の引込ひっこみには引立ひったたない野郎姿やろうすがた
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが両花道はなみちのきわまでつづき、またそれを一コマずつに、細い桟木さんぎで仕切っていって、一コマが、およそ一間の四分の一に仕切られて、その中に四つ、または五枚の座蒲団ざぶとんが敷いてある。
なんでもこの時は内蔵之助が馬をひいて花道はなみちへかかると、桟敷さじきの後ろで母におぶさっていた私が、うれしがって、大きな声で「ああうまえん」と言ったそうです。二つか三つくらいの時でしょう。
文学好きの家庭から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
花道はなみちのうへにかざしたつくりざくらあひだから、なみだぐむだカンテラがかずしれずかヾやいてゐた。はやしがすむのをきっかけに、あのからひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘つりがねがきこえる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
さくらの花道はなみち
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
赤い襦袢じゆばんの上に紫繻子むらさきじゆすの幅広いえりをつけた座敷着ざしきぎの遊女が、かぶ手拭てぬぐひに顔をかくして、まへかゞまりに花道はなみちから駈出かけだしたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
舞台ぶたい花道はなみち楽屋がくや桟敷さじきのるゐすべて皆雪をあつめてそのかたちにつかね、なりよくつくること下のを見て知るべし。
彼所あすこ此所こゝに席を立つものがある。花道はなみちから出口でぐちへ掛けて、ひとかげすこぶいそがしい。三四郎は中腰ちうごしになつて、四方しほうをぐるりと見廻みまはした。てゐるはづひと何処どこにも見えない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
枕に後向うしろむきに横はりし音羽屋おとわやの姿は実に何ともいへたものにはあらず小春が手を取りよろよろと駆け出で花道はなみちいつもの処にて本釣ほんつりを打ち込み後手うしろで角帯かくおび引締めむこう
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
我国雪のためにさま/″\の難義なんぎはあらまし前にいへるごとくなれども、雪の重宝ちようほうなる事もあり、第一は大小雪舟そり便利べんりちゞみ製作せいさくゆきだう田舎芝居ゐなかしばゐ舞台ぶたい桟敷さじき花道はなみちみな雪にて作る。
花道はなみちから出口へかけて、人の影がすこぶる忙しい。三四郎は中腰になって、四方をぐるりと見回した。来ているはずの人はどこにも見えない。本当をいうと演芸中にもできるだけは気をつけていた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女にふんした役者は花道はなみちきるあたりまで出てうしろ見返みかへりながら台詞せりふを述べた。あとうたがつづく。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
拍子木ひょうしぎおと幕明まくあきうたとに伴ひて引幕ひきまくの波打ちつつあき行く瞬間の感覚、独吟の唄一トくさりきて役者の花道はなみちいづる時、あるひはおもむろに囃子はやし鳴物なりものに送られて動行うごきゆ廻舞台まわりぶたいを見送る時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
花道はなみちから平土間ひらどまますあひだをばきちさんのごと𢌞まはりの拍子木ひやうしぎなにたるかを知らない見物人が、すぐにもまくがあくのかと思つて、出歩であるいてゐたそとから各自の席にもどらうと右方左方うはうさはうへと混雑してゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)