うなず)” の例文
そして右手の指を雀の巣のような頭髪のなかにつきこんでゴシゴシやっていたが、やがて大きくうなずくと、元のところへ引返して来た。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、私は、その三野村が女をる眼にかけては自分とまさしく一致していたことを思うにつけても、なるほどとうなずけるのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
昔のプロレタリア文化運動とそれにしたがった人々の仕事ぶりの推移をみれば、それはすべての人にうなずける必要なのであった。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
武蔵守も、ここへ来れば、御表とちがい、秀吉の姉婿むことして、内輪の者のひとりだった。秀吉もまた義兄の言と素直にうなずいて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、野本氏が一層蒼ざめて、歯を食いしばっているのを知ると、満足らしくうなずいて、話を最も肝要な点に進めて行った。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
初手から父子だと踏んでかかれば、それでもどうやら見る方では勝手に類似点を発見してうなずいてくれるものなのであろう。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
警護の家士たちは、そこで宿をとるように勧めたが、大弐は笑ってうなずかなかった。そして六人を小幡へ帰らせてしまった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
対馬守は自若じじゃくとして打ち見守ったままである。その目は、救い手の黒い姿に注がれて動かなかった。しかしやがてうなずいた。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
鷲尾が東京の同じような模様を話しても、それにうなずくでもなく、もッと他のことを考えているような暗い顔色だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
苦しげに、彼はよろよろと砂の上を進んでいたが、ふと、「死んだ方がましさ」と吐きてるようにつぶやいた。私も暗然としてうなずき、言葉は出なかった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
知ったがうなずかれんと言うならどうとも勝手にするがよい。第一よその家へ断りもなしにはいりこむほうがふとどきだ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
或は傑士賢臣、うなずいて阿附あふせざるれば、軽ければすなわち之を間散かんさんに置き、重ければ則ちうばいてもってみんを編す。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
倭文子は、やっとかすかにうなずく。村川が引き寄せようとするのを、軽く振りのけながら、家の方へ歩み去った。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
第一、生命が精神と身体とに区別できないという説には私もうなずく。けれどこの唯物論と唯心論との調和は、キリスト教的の霊と肉との調和とは別事である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
阿賀妻はうなずきながら、うねる黒びろうどのような河水に目をやった。ときには揺れる波がまざまざ見えるのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「私は青バス会社から参りました者で……」と皆まで聞かずおいでなすったなと、僕は心に独りでうなずいた。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
実際この通りのことを言っていた児童文芸家があった。しかし私には、そもそも実演童話と創作童話が全然別種なものでなければならぬ理由がうなずけないのである。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのあとに地方官の妻や陋巷にひそむ女との情事が挿入されるのも不思議はないとうなずくことができよう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
展望するに、はてしない平野の銀と緑と紫の煙霞えんかがある。山城さんじょうとしてのこのプランは桃山時代のすいを尽くした城堡じょうほう建築の好模型だというが、そういえばよくうなずかれる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そういう考え方はそれはそれとしてうなずけるようだけれど、何もその考えのためにお前のように結婚を
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
と星を指されて両人は赤面をいたし、何とも申しませんから、奉行は推察の通りであると心にうなず
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と土肥はうなずいて立ち上ると兵に命じた。しばらくすると小野原の民家に火が放たれて燃えあがる。
この呼吸を飲み込むには、相当な経験というものがなくてはならないから、一朝一夕というわけにはいかないが、不断の注意力により、いつとはなしにうなずかれるものである。
料理の妙味 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「あなた、向うのアドレス、着いたら、教えて」とだぼはぜお嬢さんが言うのを、うんうんうなずいている中、ぼくは、そのグルッペのすみに、ひとりの可憐かれんな娘を見つけました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「よし来た」将校は、大きくうなずいて、もう一度渦巻の中心とおぼしい下界を見おろしたが
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
浪人は鷹揚おうよううなずいてのみいる。これで、米友の小舟の出所がわかったのみか、その持主の諒解をも得たことになる。そこで、彼は引返そうとすると、浪人が待てと言いました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれはそう叫ぶと、対手あいてにきこえたかどうかと思った。和泉の人はそれと同時に何か五位鷺ごいさぎのような奇声を立てたが、意味は分らなくとも、明らかに相射ちをうなずき合ったものだった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つまり自分の生んだ女の子が育って、年頃になったなら、必ず木下とめあわして欲しいというのであった。木下の母親もそれまでは断る元気もなく、しぶしぶ承知の旨をうなずいて見せた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
奴の材幹を持ってして、これは何うしたことだろうと沈吟ちんぎんさせられる。時に例外がある。このボンクラがと思っているのが素晴らしい細君に恵まれている。好妻拙夫こうさいせっぷという諺がうなずける。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この事は、彼の孤独な伝記に照して見てもうなずけるし、前に評釈した「白梅しらうめが昔より垣のそと」や「いもが垣根三味線草さみせんぐさの花咲きぬ」やを見ても、一層明瞭めいりょうに理解され得るところであろう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
江戸のおんなが、どんなに生一本きいっぽんな気持をもっているか知らせてやろう——なあに、あいつが、うなずかねえというなら、そのときは、あいつの敵の味方になって、さんざ泣かせてやるだけだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
雪洞ぼんぼり型の電球おおいに附着しているボンヤリした血の指紋なぞを調べながら「おんなじ手口だ」と云ってうなずき合ったり「田端だ田端だ」と口をすべらしていた……というような事実を聞きました。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
庚申講の先達がこの山を開いて奥院とした訳がなるほどとうなずかれる。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「うむ、そうだ。」彼はうなずいて見せたのだった。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
なよたけ (嬉しそうにうなずく)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私はそれにうなずいた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「わかりました」司令官は、大きくうなずいた。「草津参謀。君は、麻布あざぶ第三聯隊の一個小隊を指導して、直ちに、お茶の水へ出発せい」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(それが彼の手紙にある様に静子への執念深い怨恨えんこんからであったとすれば、ややうなずくことが出来るのだが)えたいの知れぬ魅力が読者をとらえた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きっと一言で承知すまいと考えていた伝四郎は、あまりすなおに妻がはいとうなずいたので、かえって疑わしくなった。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ハハーンと我からうなずき、読書のスピードをおとすことと、一ヵ月に冊数をへらすことに努力した覚えがあります。
「広島は防げるでしょうね」と電車のなかの一市民が将校にむかって話しかけると、将校は黙々とうなずくのであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
鷲尾はツイむきになったが、自転車の男は訳のわからぬうなずき方をしながら、煙草たばこの火をける間もちらッちらッと、彼の肩越しに家ン中をのぞきこんでいた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
収めるように、一つ生命がけで、勧告してみましょう——彼らとて、うなずかないこともないかと思われますから
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の狂女が来ったのに四郎うなずくと忽ちに正気に還ったとか、またある時には、道場に来て四郎をののしる者があったが、其場におしとなりいざりとなった、などと云う。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そういう考え方はそれはそれとしてうなずけるようだけれど、何もその考えのためにお前のように結婚を
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それを見て初めて私は、昔の画家が好んで雪を描いたゆえんを、なるほどとうなずくことができたのである。四季の風景のうちで、最も美しいのはこの雪景色であるかもしれない。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私は、心の中でうなずいて、それじゃ、八月の末にここの所帯を畳んでしまって母親もいなくなったと言ったのは、皆なこしらえごとであったかと、合点がてんしながら、さあらぬ風に
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
来る道でもよく目についた花だったなと、私はうなずいた。あ、あの紅いのもそうだったのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
心のうちにうなずくものがあって、そこはやっぱり狸ですから、二人がなにくわぬ表情をしている以上に、この男は尋常な面つきで、いんぎんに聞くべきを聞き、述ぶべきを述べて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水夫は、うなずいたが、しかし、怪老人の姿をおもいうかべると、ぞっとした。果して亡霊だろうか、仮面の怪人物か。そのなぞの解けぬうちに、虎丸は、僕等とは、可成りへだたってしまった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)