翌年よくとし)” の例文
「な」の字さんは翌年よくとしの夏にも半之丞と遊ぶことを考えていたそうです。が、それは不幸にもすっかりあてはずれてしまいました。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我その魚沼郡の塩沢しほさはうまれ、毎年十月のころより翌年よくとしの三四月のころまで雪をみるすでに六十余年、近日このごろ雪譜せつふを作るも雪に籠居こもりをるのすさみなり。
翌年よくとしになり權官はあるつみを以てしよくはがれてしまい、つい死亡しばうしたので、ぼくひそかに石をぬすみ出してりにたのが恰も八月二日の朝であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
砂をってただ一人、逃げるように浜をっ飛んで行ったその夜の男は、もう翌年よくとしから、この土地へあきないにも来なかった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前まへにも一度来た。返事を出さなかつたのでまた来た。梅といふ子が生れた翌年よくとし不図ふと行方知れずなつてからモウ九年になる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
御坊さんは少時しばらく無住むじうであつたが、翌年よくとしの八月道珍和上わじやうの一週忌の法事はふじが呉服屋の施主せしゆで催されたあとで新しい住職が出来た。是がみつぐさんの父である。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
この種子たねつちろしたから、はなたれました。そのとしれて、やがて翌年よくとしはるとなったのであります。
青い花の香り (新字新仮名) / 小川未明(著)
帰って行った当座、二、三度手紙が来たきり、ふっつり消息の絶えていたお今が、不意に上京して来たのは、翌年よくとしの一月も十日を過ぎてからであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其後ふっつりM君の消息を聞かなかったが、翌年よくとしある日の新聞に、M君が安心あんしんを求む可く妻子を捨てゝ京都山科やましな天華香洞てんかこうどうはしった事を報じてあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
其の翌年よくとしの九月産み落したのは此処に居ります此の四萬太郎しまたろうという忰で、これはお前とは敵同士かたきどうしの原丹治の子でございます、それから故郷ぼうがたしとは宜く云ったもので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから翌年よくとしの春、姑はふと中風ちゅうふうになりましてね、気の強い人でしたが、それはもう子供のように、ひどくさびしがって、ちょいとでもはずしますと、おきよお清とすぐ呼ぶのでございますよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
翌年よくとしは次男が春の末に、養家の金をさらつたなり、酌婦と一しよに駈落ちをした。その又秋には長男の妻が、月足らずの男子をとこのこを産み落した。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我その魚沼郡の塩沢しほさはうまれ、毎年十月のころより翌年よくとしの三四月のころまで雪をみるすでに六十余年、近日このごろ雪譜せつふを作るも雪に籠居こもりをるのすさみなり。
いつしか、ふゆがきて、またはるとなり、なつぎて、とうとう約束やくそく翌年よくとしあきがめぐってきました。もずは、やまからやまたびをつづけているうちに、ふと去年きょねんのことをおもしました。
もずとすぎの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わし奉公人でがんす、多助さんは此家こゝな相続人だよ、お前様めえさまより多助さんの方が先へ此家こゝへ貰われて来たは、十四年あとの八月で、おめえさまは其の年の九月に来て、其の翌年よくとしせん内儀かみさんが死んだから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かくてその年もくれて翌年よくとしの二月のはじめ、此弥左ヱ門山にいりたきゞを取りしかへるさ、谷におちたる雪頽なだれの雪のなかにきは/\しくくろものありはるかにこれを
彼の死んだ知らせを聞いたのはちょうど翌年よくとしの旧正月だった。なんでものちに聞いた話によれば病院の医者や看護婦たちは旧正月をいわうために夜更よふけまで歌留多かるた会をつづけていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その翌年よくとしには、ますます常夏とこなつは、みごとになりました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かくてその年もくれて翌年よくとしの二月のはじめ、此弥左ヱ門山にいりたきゞを取りしかへるさ、谷におちたる雪頽なだれの雪のなかにきは/\しくくろものありはるかにこれを
かう云ふ出来事のあつた後、二月ばかりたつた頃であらう、確か翌年よくとしの正月のことである。女は何処へどうしたのか、ぱつたり姿を隠してしまつた。それも三日や五日ではない。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我があたりはしば/\いへるごとく、およそ十月より翌年よくとしの三月すゑまではとしこえて半年は雪也。