碁盤ごばん)” の例文
しぶい、枯れたお奉行様のわらい声……お艶がいよいよ身をすくめていると、忠相はみずから立ってとこから碁盤ごばんをおろして来た。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白いのもいれば、黒いのもいる。そうしてひとところに群がっているところは、大きな碁盤ごばんに黒白の碁石を置きならべたようであった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これはずっとあとになって、須永の口から敬太郎に知れた話であるが、ここの主人は、この時玄関に近い応接間で、たった一人碁盤ごばんに向って
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
荒野を行くと言うとキリストみたいで照れ臭いが、その荒野には、どういうわけか碁盤ごばんのような目がついていて、キリストの荒野とはまるでちがう。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
碁盤ごばんを出せとも仰しやいません、そこで昨夜は私がおすゝめして、五日目で碁盤を出させ、お隣の伊賀屋さんをお呼びして、珍らしく碁をなさいました
短く白髪を刈込んだ一人の客が、森彦と相対さしむかい碁盤ごばんを置いて、煙管きせるくわえていた。この人は森彦の親友で、みのる直樹なおきの父親なぞと事業を共にしたことも有る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
碁盤ごばんの目みたいに顔中が傷でバラ掻きになっている。鼻なども、砂の中に落ちたいちごみたいに血だらけなのだ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川と謂ツても、小川であツたが、自分の生れた村は、背戸せどと謂はず、横手と謂はず、たてに横に幾筋となく小川が流れてゐて、恰ど碁盤ごばんの目のやうになツてゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これまでの象使いはれい一寸法師いっすんぼうしでしたが、一寸法師には、片足かたあしを上げさせたり、ラッパをかせたり、碁盤ごばんの上へ乗せたりするぐらいしか出来ませんでした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
おまけに、ぜんざいを註文ちゅうもんすると、女夫めおとの意味で一人に二杯ずつ持って来た。碁盤ごばんの目の敷畳に腰をかけ、スウスウと高い音を立ててすすりながら柳吉は言った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
相場三左衛門あいばさんざえもんはそう云ってから、碁盤ごばんを中にしてじぶんと向いあっている温泉宿ゆやど主翁ていしゅの顔を見て笑った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこへ塾に居るMと云う洋画家がやって来て一石やりましょうとの事だから直ちにそれに応じて碁盤ごばんを陽当りのよい縁側に持ち出させそこで悠々と碁をうち出した。
打過うちすぎうち或時重四郎又入り來りけるに平兵衞は相手ほしやと思ふ折柄をりからなれば重四郎殿よくこそ御入來ごじゆらいありしぞ率々いざ/\一石參らんと碁盤ごばん引寄ひきよせ重四郎を相手あひてかこ茶菓子ちやぐわしなどを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
普通ふつう住宅じゆうたくならば椅子いす衣類いるい充滿じゆうまんした箪笥たんす火鉢ひばち碁盤ごばん將棊盤しようぎばんなど、すべ堅牢けんろう家具かぐならばせるにてきしてゐる。これ適例てきれい大地震だいぢしん度毎たびごとにいくらも見出みいだされる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ひまなときには伏籠ふせごをおいて着物に伽羅きゃらをたきしめたり腰元たちと香を聴いたり投扇興とうせんきょうをしたり碁盤ごばんをかこんだりしている、お遊さんのはあそびの中にも風流がなければあきませぬので
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
高原で低温地のせゐか、樹形じゆけいが横拡りになるのださうで、碁盤ごばんの目のやうに広々と植ゑられた茶園の間道を、ゆき子はレースのふちどりした白いワンピースで、富岡の腕にもたれて歩いてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
碁盤ごばんのように規則正しい広やかな札幌の往来を南に向いて歩いていった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
赤々と碁盤ごばんの角に日はさして五目並べは吾が負けにけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大石鶴松は、金五郎の前に、碁盤ごばんのあるのを見ると
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
小さい碁盤ごばんのおもちゃを買って、帰った事がある。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
碁盤ごばんをまえに、大岡忠相はまた誰にともなく言葉をつづける。独語のあいだにそれとなく意のあるところを伝えようとするかれのこころであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
碁盤ごばんを出せとも仰しゃいません、そこで昨夜は私がおすすめして、五日目で碁盤を出させ、お隣の伊賀屋さんをお呼びして、珍らしく碁をなさいました
織田おだ今川いまがわのほろびたのちは、家康いえやす領地りょうちざかいは小田原おだわら北条氏直ほうじょううじなおととなり合って、碁盤ごばんの石の目をあさるように武州ぶしゅう甲州こうしゅう上州じょうしゅうあたりの空地あきちをたがいにりあっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森彦の旅舎やどやへは、お俊も三吉夫婦に伴われて行った。二階の座敷には熊の毛皮などが敷いてあって、窓に寄せて、机、碁盤ごばんの類が置いてある。片隅かたすみに支那かばんが出してある。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
話にはもうきました。私は旅行中に誰でも経験する一種の徒然とぜんに襲われました。ふと床の間のわきを見ると、そこに重そうな碁盤ごばんが一面あったので、私はすぐそれをへやの真中へ持ち出しました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良雪が碁盤ごばんを出せといつもの如くいうので、家族の者は二人のあいだへ盤と石を備えた。パチ、パチというもの静かな烏鷺うろの音が、すぐその部屋かられてくるのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつもの癖で、家内を呼んで腰の鍵を預けようかと思ひましたが、それではお客樣の手前も如何と思ひ、腰の鍵束を取つて碁盤ごばんの下に滑り込ませ、そのまゝ用便に參つたことがございます
むこうに、碁盤ごばんを前に、これもお奉行所で見たことのある、下ぶくれのした豊かな顔がある。言われたとおりあとを閉めて、へへッ! と、もう一度平伏へいふくした時、大岡様が言い出していた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、彼と日頃仲のよい小姓の鈴木貞之進が、部屋の隅から唯七を目がけ、碁盤ごばんを投げつけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碁盤ごばんと言つても菓子折の底へ足を付けたほどのもの、それにカキ餅のやうな心細い石ですから、一石を下す毎に、ポコリポコリと、間の拔けた音がするといふ代物しろもの、氣のいゝ女房のお靜も
碁盤ごばんのような胸幅が肋骨あばらをつつみ、丸ッこい顔の団栗眼どんぐりまなこを、よくうごかしながら物をいう。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たるの佳酒と、鹿のほじしを携えて、あした南山をおとなえと。そして、南山の大きな樹の下に、碁盤ごばんをかこんで、碁を打っている二人があろう。ひとりは北へ向って坐し、紅衣を着、容姿もうるわしい。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地上は狭い、碁盤ごばんの目のように。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)