やぶれ)” の例文
と、葭簀よしずを出る、と入違いに境界の柵のゆるんだ鋼線はりがねまたぐ時、たばこいきおいよく、ポンと投げて、裏つきのやぶれ足袋、ずしッと草を踏んだ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
療醫の見込も膏氣あぶらけ増長いたし血路けつろを塞循環じゆんくわん致候故、痛所も出來、もし脉路を塞ぎ脈路やぶれ候節は、即ち中風と申ものに候由。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
若者は空想からやぶれた。この時悲哀な声で研手とぎての悪者が歌い出した——その声は寂然ひっそりとした山谷さんこくに響く。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに引変えやぶれ褞袍おんぼう着て藁草履わらぞうりはき腰に利鎌とがまさしたるを農夫は拝み、阿波縮あわちぢみ浴衣ゆかた綿八反めんはったんの帯、洋銀のかんざしぐらいの御姿を見しは小商人こあきんどにて、風寒き北海道にては、にしんうろこ怪しく光るどんざ布子ぬのこ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人にも知られず、我身一つの恥辱ならんには、このおもて唾吐つばはかるるもいとはじの覚悟なれど奇遇は棄つるに惜き奇遇ながら、逢瀬あふせは今日の一日ひとひに限らぬものを、事のやぶれを目に見て愚にはやまるべきや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
浮世のやぶれめを切張きりばりの、木賃宿の数の行燈、薄暗いまで屋根を圧して、むくむくと、両国橋から本所の空を渡ったのである。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそのことばの通りにすると、みのを着よ、そのようなその羅紗らしゃの、毛くさいやぶれ帽子などは脱いで、菅笠すげがさかぶれという。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
釣上げた古行燈ふるあんどんやぶれから、穴へ入ろうとするまむしの尾のように、かもじのさきばかりが、ぶらぶらと下っていた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大巌山の町の上に、小さな溝があるばかり、障子のやぶれから人顔も見えないので、その時ずッと寄って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ葦簀よしずの屋根と柱のみ、やぶれの見える床の上へ、二ひら三ひら、申訳だけの毛布けっとを敷いてある。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かがんで通抜けました。そこをけて、わざわざ廻って、逆に小さなやぶれから透かして見ると……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
摺木すりこぎに足が生えたり、やぶれ障子が口を開けたり、時ならぬ月がでなどするが、例えば雪の一片ひとひらごとに不思議の形があるようなもので、いずれも睡眠に世を隔つ、夜の形の断片かけららしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れて畳のやぶれにもつっかからず、台所は横づけで、長火鉢の前から手をのばすとそのまま取れる柄杓ひしゃくだから、並々と一杯、突然いきなり天窓あたまからぶっかぶせる気、お勝がそんな家業でも、さすがに婦人おんな
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惜気おしげなく真鍮しんちゅうの火鉢へ打撒ぶちまけると、横に肱掛窓ひじかけまどめいた低い障子が二枚、……其の紙のやぶれから一文字いちもんじに吹いた風に、又ぱっとしたのが鮮麗あざやか朱鷺色ときいろめた、あゝ、秋が深いと、火の気勢けはいしもむ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いけはひつくりかへつてもらず、羽目板はめいたちず、かべやぶれ平時いつものまゝで、つきかたちえないがひかり眞白まつしろにさしてる。とばかりで、何事なにごとく、手早てばやまた障子しやうじめた。おとはかはらずきこえてまぬ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)