こは)” の例文
栗色に塗られたペンキはげて、窓の硝子ガラスも大分こはれ、ブリキ製の烟出けむだし錆腐さびくさツて、見るから淋しい鈍い色彩の建物である。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さいはひに一人ひとりも怪我はしなかつたけれど、借りたボオトの小舷こべりをば散々にこはしてしまつた上にかいを一本折つてしまつた。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
驅ること飛が如くなれば手帳へ字などなか/\書けず只こはれかゝりし臺の横木に掴まりて落ても怪我のないやうにと心に祈るばかりなり忽ちに二里を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
遊びにふければ是非思はぬいたづらもするもので、私はこの日父のいひつけを忘れてウツカリ桃の実を屋根へはふり挙げ、二階座敷へ近ごろいれた大版のガラス二枚こはし升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
垣を引き捨て塀を蹴倒し、門をもこはし屋根をもめくり軒端の瓦を踏み砕き、唯一揉に屑屋を飛ばし二揉み揉んでは二階を捻ぢ取り、三たび揉んでは某寺なにがしでらを物の見事につひやし崩し
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
だから老人の家はこはれかゝつてゐたけれど、室の中には大へんに立派な銀の燭台やら……世に在つた当時の名残を偲ばるゝ道具が沢山ありました。老人は詩を作ることが大へん上手でした。
首相の思出 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
徳利がこはれるといふ大活劇を演ずることも度々で、それは随分へいが多かつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
幻花子げんくわしは、此土瓶このどびん布呂敷ふろしきつゝみ、はすけてひ、自轉車じてんしや反身そりみつてはしらすのを、うしろから佛骨子ぶつこつしが、如何どうかして自轉車じてんしやからちて、土瓶どびんこはしたら面白おもしろからうとのろつたといふ。
れとも物質ぶつしつ變換へんくわん……物質ぶつしつ變換へんくわんみとめて、すぐ人間にんげん不死ふしすとふのは、あだか高價かうかなヴアイオリンがこはれたあとで、其明箱そのあきばこかはつて立派りつぱものとなるとおなじやうに、まことわけわからぬことである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おかみさんは道端に茂つてゐる椿の大木の下にこはれた小さな辻堂の立つてゐるのを見て、そのきざはしに背中の物をおろした。あちこちで頻に鶏が鳴いてゐる。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鹽尻の茶店ちやゝの爐に暖まり温飩うどん掻込かつこみながら是よりなら井まで馬車一輛雇ふ掛合を始む直段ねだん忽ち出來たれど馬車を引來らず遲し/\と度々たび/\の催促に馬車屋にてはやがてコチ/\とこはれ馬車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
町立病院ちやうりつびやうゐんにはうち牛蒡ごばう蕁草いらぐさ野麻のあさなどのむらがしげつてるあたりに、さゝやかなる別室べつしつの一むねがある。屋根やねのブリキいたびて、烟突えんとつなかばこはれ、玄關げんくわん階段かいだん紛堊しつくひがれて、ちて、雜草ざつさうさへのび/\と。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
或日の夕方近所の子供が裏庭の垣根をこはして、長い竹竿で梅の実を叩き落して逃げて行つた。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
打つ危ない馬車に乘らるべきかほかに馬車なくば破談にすべしと云へばナニお客樣途中でこはれるやうな事はございませんこはれても上の屋根だけですからころがり落る程の事は有ませんサアお乘りなさいと二十三四の馬丁べつたう平氣なれば餘義なくこれに乘る二十三四の小慧こざかしやつ客を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
或日の夕方近所の子供が裏庭の垣根をこはして、長い竹竿で梅の實を叩き落して逃げて行つた。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
北には三角形なすジブラルタルの岩山いはやまを見ながら地中海に進み入る時、自分はどうかして自分の乗つて居る此の船が、何かの災難で、こはれるか沈むかしてくれゝばよいと祈つた。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)