盗人ぬすっと)” の例文
旧字:盜人
「お前を九百九十両の盗人ぬすっとだと思ってるわけじゃねえ。実は先廻りして、あの晩お前が家から一と足も出ない事を聞いて来たんだ」
大公儀の役人というものは間男をして、盗人ぬすっとをして、カラクリ賭博を打って、罪もない娘を斬り棄てるのが役目かと、詰めてくれた
考えてみると、おれは盗人ぬすっとさえしなければ、聖人のようなものだ、盗人にならなけりゃ、相州の二宮金次郎になっていたかも知れねえ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わしはよる家に忍び込む盗人ぬすっとよろしく、カチェリーナのトランクのかぎをまんまと盗み出し、持って帰った俸給の残りを引っ張り出してしまった。
「黙ってよそのうちへ入り込んで来て、盗人ぬすっと……盗人!」と、隣り合壁に聞えるような、大きな声を出してがなりつづけた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「う、うっちゃっといておくんなせえ、いいえこんな……こんな盗人ぬすっと野郎。そ、そこの不忍の池へ叩ッ込んで、む、むじなの餌食にでもしてやらなきゃ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
してくださいましたわね。盗人ぬすっとなどの多い土地だのに宿直の人だって初めほど頼もしい人は来ていなかったのですからね、代役だと言って下っぱの者を
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あいつは、丹頂たんちょうのおくめといって、名うてな女賊ですぜ、どうです、どこかの茶屋のかみさんという風体ふうてい、まさか、女の盗人ぬすっととは見えなかったでしょう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盗人ぬすっとでも封印のついたものは切らんと言います。もっとも、怪物ばけもの退治に持って見えます刃物だって、自分で抜かなければ別条はないように思われますね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こりゃ六兵衛、なんじ盗人ぬすっとでない証拠しょうこを見せるために、の手のひらに書いた文字を当ててみよ。うまくはんじ当てたならば、のぞみ通りの褒美ほうびをとらせよう。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
卑劣ひれつ盗人ぬすっとでも恥じるような手段をめぐらして、唐沢家を迫害し、不倫ふりんな結婚を遂げようと云うような、浅ましいやり方を、恥ずかしいとは思わないのですか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
糞放くそったれめ、罪もねえ者を無闇に牢の中へ放り込んで、金を呉れた盗人ぬすっとがふんづかまるまで、牢の中へ入れときやアがって面白くもねえ、本当に癪に障って堪らねえや
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな奴等は盗人ぬすっとも同様、あさ寝も昼寝もめずらしくないので、手先は雨戸をこじ明けて踏み込むと、虎七は煎餅蒲団の上に大きい口をあいてんぞり返っていた。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
えっ、まちまで? 飛んでもない!……家をあけるのは困りますわい。なにせ、わしのとこの奴らは盗人ぬすっとか悪者ばかりでがしてな、一日で洗いざらい盗み出して、外套を
「おれに、わけを訊くのか。フン、盗人ぬすっと、たけだけしいちゅうは、お前等のことじゃのう。吉田の大親分に当てつけた芝居を、この若松で、やりきるなら、やってみい」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「あるよ、山下町だったかでも査公に一ぺんとがめられたし、たしかこの家の門前でも咎められたよ。はなさなかったかねえ、自分の家へ、盗人ぬすっとにはいる奴もないじゃないか。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これに反して俳諧は、なんでもないただの人、極度に平凡に活きている家刀自いえとじ、もっと進んでは乞食こじき盗人ぬすっとの妻までを、俳諧であるが故に考えてみようとしているのであります。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「これはどうだ、不用心だなあ。こんなことならおれにだって、本物の盗人ぬすっとが出来そうだ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
休んでると、へんな奴が二人来て、おいら盗人ぬすっと午睡ひるねしてると云うから、なぐりつけて諍闘けんかになったところへ、その女が来て仲裁してくれたのだ、それで俺は八幡様を出て来たものの
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「冗談言うな、……裏木戸はちゃんとあいている。……俺は手先じゃねえ、例繰方だ。盗人ぬすっとの肩に手をかけるような真似はしないのだ。……さア、逃げ出せ、……あとで手先を向けてやる」
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それに清水の爺さんは盗人ぬすっとが恐いから随分用心しているので、そう容易には入れないはずだし、それに先にそら銀行の通帳の一件があったりして、てっきり例の無電小僧の仕業となったのよ。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
全財産の半分とは、あなた方兄弟の肚の中は盗人ぬすっと根性というものです
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
漁夫二 盗人ぬすっとめ! (俊寛の顔を打つ)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
盗人ぬすっと
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おのれの天分を順当に発達さえさせてくれたら、あながち盗人ぬすっとにならずとも、他に出世の道があったに相違ないという述懐を漏らします。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
盗んだ金を遠くへは離せないのが盗人ぬすっとの根性だ。近江屋は自分の家へ隠し、谷中の五重の塔の時は、お前がツイ傍の花屋で見張っていた。
申しますると、この御心配ばかりは御無用になさいませ。義理も張りも相手によりまする。蔵元屋に限って御尽しになる義理張りは盗人ぬすっとに追銭も同様……
いわば野暮な盗人ぬすっとだが、知らねえ先あともかくも、こういう身性みじょうと聞いたらば、おぬしゃあいやになりやしねえか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのれ相川様へ胡麻ごまアすりやアがって、おれの養子になる邪魔をした、そればかりでなくおれの事を盗人ぬすっと根性があると云やアがったろう、どう云う訳で胡麻をって
六兵衛はこりゃすてきなことをきいたと思い、大よろこびで盗人ぬすっとはそのままがしてやりました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
友蔵が『ひとの買物を横取りする奴は盗人ぬすっとも同然だ』と罵ると、相手の由兵衛はせせら笑って、『なるほど盗人かも知れねえ。だが、おれはまだ人の女を盗んだことはねえよ』
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そりゃあ何も不思議はないさ、盗人ぬすっとの昼寝というやつ、毎晩かせぎに出かけるのだろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は、人の死屍から、高貴な物品を、ぎ取る恐ろしいいやしい盗人ぬすっとと思われても、何の云い訳もないではないか。青年の遺言を受けたと抗弁しても、果して信じられるだろうか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は、それをくと、もう、むらむらとなった。そして、腹の中で、「何をかしやがる。盗人ぬすっと猛々たけだけしいとは、その言い分である」と、思ったが、それはじっとおさえて口には出さず
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
貴郎あなたはびっくりしましょうが、私の伯父おじと兄は、真人間まにんげんじゃありません、伯父と兄は、恐ろしい盗人ぬすっとでございます、船頭になって貴郎方をれて来て、殺してものをろうとしております
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
盗人ぬすっと
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから柳橋へ行ってお通の茶店で見せびらかして、札止ふだどめは木場の春木屋だ。主人にも番頭にも小僧にも見せて、三千両の盗人ぬすっとはこの手紙を
盗人ぬすっと猛々たけだけしいとは貴殿のことだ、人の大事の娘をかどわかしておきながら、年はどうの、名は何のと……人を食った挨拶」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもその詐欺インチキ盗人ぬすっとつけ景気のお蔭で、品物がドンドンさばけて行きますので、地道に行きよったら生物なまものは腐ってしまいます。世の中チウものは不思議なもんだす。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手下「大夫が御改心なら仕方がねえ、山を下りようか」「いや己は今更盗人ぬすっとやめるのは厭だ」
新助という若い男が店にいて、表面は手固い小間物店に変りないが、実は盗人ぬすっとの寝泊りする家で、わたしはそこで買物をしたが因果で、怖ろしい男に切通しまでツケられたのでございます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盗人ぬすっと待て。……」と伯爵夫人は一方ならぬ侮辱をこうむりて、こらえ堪えし腹立声。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盗人ぬすっとの女をれて家へ帰れるものか、舟はおらが漕ぐ」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴様も忍びと盗人ぬすっとにかけちゃかなりの腕だそうだが、どうだ一番、遊行上人のものを盗んでみろと、こういうのだ
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
素人には分らねえからいと云って拙いのを隠して売付けるのは素人の目を盗むのだから盗人ぬすっとも同様だ、手前てめえ盗人をしても銭が欲しいのか、おら此様こんな職人だが卑しい事ア大嫌でえきらいだ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おまえのきらいな、いっしょになると生き血を吸われるような人間でな、たとえばかったい坊だとか、高利貸しだとか、再犯の盗人ぬすっととでもいうような者だったら、おれは喜んで、くれてやるのだ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの小姓は三千両の盗人ぬすっとで、手代の宗次郎を殺した下手人に相違なく、それに身許も名前もわからず、捜しようも無いではないか、そんな者に逢わせろというのは、世間様への聴えも恥ずかしい
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「たしかに人間だ、人をおどして物を取る盗人ぬすっとだ」
餅を喫う (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
盗人ぬすっとに来たということは明らかだが、それにしても、このいけ図々しい猫撫声を聞いていると、ただ物質が欲しくて忍び込んだものとのみは思われない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鹽「やい盗人ぬすっと旅中りょちゅうの事ゆえ助けて遣るまいものでもないが、包をよこせ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)