かん)” の例文
そこでも、ひとしきり、かの女の涙まじりのかんだかい声やら、経盛以下の、小さい子どもらの泣き声が、もつれもつれに聞こえていた。
と叫ぶかん高い声を聞いて、左膳は、何はともあれ脱出するのが目下の急務だから、依然いぜん縁さきに佇立ちょりつする源十郎をしりめにかけて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
時刻は午後五時すぎ、——道場ではまだ稽古の音がして、門人を教える野中又五郎の、よくとおる、かんの高い声が聞えていた。
にごった楽隊の音や、かん走った蓄音機のひびきや、それらの色彩と音楽とが一つに溶け合って、師走しわすの都のちまたにあわただしい気分を作っていた。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また高知県のかんうらでは、二十日の夜から地震の前まで、南方沖合が明るかったと言われている(四国地方各県踏査報告)。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
かんに高い浅吉の呼び声は、感情もまたたかぶって、沼のほとりを、あちらこちらとさがし廻っている様子が、なんとしても穏かには響きません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
薄い唇、睡さうな眼、かんの高い聲、恰幅はなか/\よく、そればかりは曾て二本差したこともあるらしい人柄です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
とドス声でかんを殺す……この熊漢くまおとこの前に、月からこぼれた白いうさぎ、天人の落し児といった風情の、一束ひとつかねの、雪のはだは、さては化夥間ばけなかまの雪女であった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、その時紋也と引き添い、左側のほうを走っていた、お粂がかん高くこう叫んだので、小男の素性が紋也に知れた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かんの聲を出す時に、普通の人は喉が開くのに、あなたのは閉ぢる。發音の仕方が惡いのだらうから、今度は教へて上げようと仰有るんですけど……。」
素材 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
船頭長平、水夫源右衛門、長六、甚兵衛、四人の乗組みで、土佐のかんノ浦を出帆したところで時化に遭い、五十日も漂い流れてこの島に着いたのである。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれ共その終い際になったら、もともと厭気がさしている上に疲れているものだから、声がかんに釣り上ってヘトヘトになってすっかり汗を掻いてしまった。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何とかん高い暢々とした妖精的な声でしょう。それが渦巻いて盛上って、あたりに反響します。近所の人こそ迷惑です。だけどその近所にも、家屋の上に物干があります。
エスキス (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
またはお琴をあそばしながらおうたいなされました唱歌しようがのおこえなど、はれやかなうちにもえんなるうるおいをお持ちなされて、うぐいすのかんだかい張りのあるねいろと
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かんうら沖を過ぐと云う頃ハッチより飯櫃めしびつ膳具ぜんぐを取り下ろすボーイの声ヶましきは早や夕飯なるべし。少し大胆になりて起き上がり箸を取るに頭思いのほかに軽くて胸も苦しからず。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし舞台の上に子供などが出て来て、かんの高い声で、あわれっぽい事などを云う時には、いかな私でも知らず知らず眼に涙がにじみ出る。そうしてすぐ、ああだまされたなと後悔する。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒いとがった糸杉いとすぎの姿がところどころにそびえていた。その向こうには畑がうちつづいていた。閑寂だった。地をうなってる牛の鳴声や、すきを取ってる百姓のかん高い声が聞こえていた。
牟岐、八坂八浜、宍喰しゝくひをすぎて、かんうらにかゝつたとき、とッぷりと日は暮れた。
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
なかにはかんの高いきい/\した声をして、てんでに品定めをするのもあつた。
冬山の枯山からやま來ればいさぎよしかんにひびきて何かる音
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かんの黄や、乙の紫
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
二人の話の途切れに……すぐ近くの杭のかかぶねとまから、またしても、さっきのかんだかい赤子の泣き声が、水谺みずこだまをよんでいた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄い唇、ねむそうな眼、かんの高い声、恰幅かっぷくはなかなかよく、そればかりはかつて二本差したこともあるらしい人柄です。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そして、つと身体を斜めにいっそうだらしなく崩折れると、口ばやにかん高に、せきを落とすようにしゃべりだした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、ひときわかん高く、リーンという音がした。すなわち華子が黄金の杖を、石畳の上へ突いたのである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鶴がかんばしった声でさけんだ。血走った眼で乾を睨みつけながら、妙に重石おもしのついた声で
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この声は少しかんを帯びて高かった。竜之助がこちらにあることを知らないものだから。
そして声がいつまでもかれらのように太くならず、叫んだりするときんきんかん高に響いた。まだ固いしこりのある乳房は手で押しても痛む、それを菊千代はさらし木綿できりきりと巻き緊めた。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
冬山の枯山からやま来ればいさぎよしかんにひびきて何かる音
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「やいっ、十八公麿まつまろ」と、かんだかい声で、呼ぶ者があった。思いがけない鋭さなので、思わず、足をすくめて振りかえると、彼方かなたの山蔭に、土牢つちろうの口が見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっとほおから血の気が引いた。そして、ほとんど叫ぶように、かん高い声を前棒さきぼうの背へ浴びせた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
屋敷の門のある方角から、お粂と鈴江との叫ぶ声が、かん高に聞こえて来たからであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お玉のかおはやや斜めにして、花は散りても春はさく……の時、声がかんにかかって、ひとたびえていた眼が眠るように、死出の旅——で低く低く沈んで、唄を無限の底まで引いて行く。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
誰やらの聲がかん走ると、氣のきいたのが、奧から手燭を持つて來ました。
石段を駆け降りて、ギッシリと浜辺に立ちならんでいる人垣のうしろまで行くと、その向うから、何かききとりにくいことを、繰りかえし繰りかえし叫んでいるかん高い女の叫び声がきこえてきた。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それまで、化石したように、うしろの方に立ちすくんでいたお通は、ふいに、走りよって、かんだかく叫んだ。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金属性のかん高い、ふしぎな笑い声が、高々と秋ぞらに吸われて——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それと察した弁天松代は、かん高く声を響かせた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お寿々は、かんだかい声をあげて、往来まで走ったが、すぐ人目を思って、裸足はだしで泣く泣く帰って来た。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなた」と、針をふくんだような——冷たいかんばしった声が——ついそこの住居すまいから走った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんの音のあがる時は、魂を宙天へさらわれて、雲と戯れる心地がするし——と思えば、また地の声と天の響きとが和して、颯々さっさつと世の無常をかなしむ松風のかなでと変ってゆく。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、わざと声のかんを張って、け身を見せまいとしましたものの、思わず寒気に襲われて、ぞッとえりすじをすくめた証拠には、お蝶の銀のかんざしが微かに光を砕いています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これっ、どこへ参る」性善坊がうしろから抱きすくめると、女は、かんばしった声で
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾か脚かを、伊織に斬られてかんだかい啼き声を放ちながら征矢そやみたいに逃げ走った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い男女は、すくんだまま、楠平のかんだかい声に、顔いろをおののかせていた。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右を見、左を見、次室の武者だまりの内へ、こうかんだかく呼びたてた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんだかく、お寿々は、泣き声をふくんで呶鳴どなった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つづいて、一そうかんだかく
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)