浪華なにわ)” の例文
二部興行で、昼の部は忠信ただのぶ道行みちゆきいざりの仇討、鳥辺山とりべやま心中、夜の部は信長記しんちょうき浪華なにわ春雨はるさめ双面ふたおもてという番組も大きく貼り出してある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は、門付かどづけをしながら、中国筋を上って、浪華なにわへ出るまでに、半年もかかった。浪華表の倉屋敷で、彼は国元の母からの消息に接した。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
浪華なにわの壮観となりつつある大坂城の規模の雄大なことや、その主城をめぐって、はやくも新しい浪華の市街が、新興的な賑わいを呈し
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大坂ならば浪華なにわをもじって波の花の塩が五合、長崎ならば長く先までつづくというところからひもが一本、名古屋ならば金のしゃちにまねて
もし早く帝に拝謁はいえつすることがかなわないならすみやかに浪華なにわの地を退きたい、そして横浜にある居留民の保護に当たりたい一同の希望であると。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以前に声の調子を聞き覚えていた叔父の知人で、大阪随一の相場新聞浪華なにわ朝報社の主筆をやっている猪股いのまたという男の言葉が切れ切れに響いて来た。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「京や浪華なにわには及びませぬが、夏涼しく冬暖く、信玄様のご威光で、外敵もなく国内静まり、住みよい所でございます」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大和の十津川から浪華なにわを経て、長州へおいでになったが、そこで亡くなられたということじゃ。まだ十九か二十のお歳であろうに、お痛わしいことな
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浪華なにわから中国へかけての新田には中世まで白帆の船の走っていたところが多い。大小の島々はつつみに繋がれて陸地となり、その蔭を今は汽車が往来している。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
船の出入りや、諸商人の集まることでは、浪華なにわに次ぐといわれるそうで、狭いながら街は繁昌しているし、船夫や旅人などの往来でいかにも活気だってみえた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
博士 たしかに。(書を披く)手近に浄瑠璃にありました。ああ、これにあります。……若様、これは大日本浪華なにわの町人、大経師以春だいきょうじいしゅんの年若き女房、名だたる美女のおさん。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浪華なにわの堀を出て淡路の洲本すもとの沖を越すころは海はいで居た。帆は胸を落ち込ました。乗込客は酒筒など取り出した。女に口三味線を弾かせて膝の丸みを撫で乍らうとうとする年寄りもあった。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なにしろ、べらぼうにお日和ひよりがようがす。浪華なにわの町の繁昌や千船ちふね百船ももふねの港口も、ここからはまるみえだ。ネ、そちらのおじょッちゃん」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
論より証拠、日本の文化は先ず蘇我氏や藤原氏なぞいう貴族の手で、奈良や京都、浪華なにわなぞを都として開かれた。それは勿体もったいぶった、優にやさしいものであった。
そこで矢来は取り払われ波たいらかの浪華なにわの海、住吉の入江が見渡された。頃は極月二十日の午後、暖国のこととて日射し暖かに、白砂青松相映じ、心ゆくばかりの景色である。
博多小女郎浪枕はかたこじょろうなみまくら。私はあの芝居を見物して帰って来て、復た浄瑠璃本じょうるりぼんを開けて見ました。宗七という男が出て来ます。優美慇懃いんぎんなあの時代の浪華なにわ趣味を解するような人なんです。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
せめて浪華なにわあたりにその姿を現すだろうと思われたのに、いとも好もしくいともえやかなわが早乙女主水之介が、この上もなく退屈げなその姿を再び忽焉こつえんとして現したところは
その時に、ふと彼の心に浮んだのは、浪華なにわに住んでいる近松門左衛門の事であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
浪華なにわ百事談)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「石山の法城を中心に、方八町の門前町、そのほか浪華なにわ三里の内の町屋、港、橋々などを、兵火にかけて、灰燼かいじんとするも惜しい」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何でも上方かみがたじゃ一二を争う遣い手だったとか評判の、釜淵番五郎かまぶちばんごろうという名前からして気に入らねえ野郎ですがね。それがひょっくり浪華なにわからやって来て途方もなく大構えの道場を開いたんですよ。
はいはい私ども一座の者は、東海道の宿やうまやじを、お得意にしておりまして、ご贔屓ひいき様もたくさんにあります。江戸や浪華なにわや京などという、そのような繁華な都などは、物の数にも入れておりませぬ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
旅人をのせて浪華なにわへ通う舟もある。この里の雑穀やすみまきを京のいちへ運輸する荷舟もある。鵜匠うしょうの鵜舟はつなぎ捨てられたまま今はかえりみられもせぬ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば、相撲すもうにしても、それを安土でようとなると、江州ごうしゅう、京都、浪華なにわそのほかの遠国からも千五百人からの相撲取をあつめて興行したりする。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この地にあって、京都への出入りは、何とも、不便でならぬよ。往き来の時間のついえも勿体ない。……で、年内には大坂表へ居を移し、浪華なにわと京都とを
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしも全土にわたる教門の勢力をあつめて、この浪華なにわの一丘に、巍然ぎぜんたる特異な法城を構えていた石山本願寺も、もう以前ほどな実力はなくなっていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれは、去年こぞの十月中旬なかばでした。浪華なにわの御合戦の際、暗夜とはいえ、不覚にも、私は楠木勢のために、擒人とりことなりました。けれど、恥とは一時の思いでした。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の旅舎は、もと足利義昭よしあきのいた二条のたちを改築して宛てていた。日々、公卿くげ、武人、茶家、文雅のともがら浪華なにわさかいなどの商賈しょうこの者まで、訪問客はいちをなした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都の白拍子しらびょうし浪華なにわの名ある遊君をあつめて美船を浮かべ、網を打たせ、夜は万燈まんとうを廊につらねて、敦盛あつもりが笛をふいたり、宗盛が舞ったりして、ついこの夏頃も
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、この秋、浪華なにわ附近の激戦の折、乱軍の中で、楠木ぜいの手に、捕虜ほりょになったと伝えられた。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本丸ほんまる庭先にわさきになる山芝やましばの高いところに床几しょうぎをすえこんで、浪華なにわ入江いりえをながめている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪華なにわの地をきりひらいて、大坂築城の大工事にかからせ、その規模、その結構の雄大なること、前古にないと、天下の耳目じもくをおどろかせているものの、かれ自身の、人間的な愉楽ゆらく
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「島の仲間というのは、密貿易ぬけがいだけの仲間をいうんだ。悪くとるなよ。あの仲間の頭領というのは、ケチな江戸や浪華なにわを稼ぎ場としているのとはちがって、ちっとケタちがいの大物だ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼には常備の兵船数百と千余の輸送船があって、絶えず浪華なにわや泉州と交通し、また石山本願寺とも連絡をとっているが、まだ織田家には一艘の兵船、一隊のお舟手ふなてある由も聞いていません
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表鳥居の参詣道さんけいみちをまッすぐにのぼって、岩船いわふね山の丘、高津の宮の社頭に立ってみると、浪華なにわの町のいらかの上に朝の空気が澄みきって、島の内から安治川辺の帆柱の林の向うに、武庫むこの山影も
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せんのすえに青々とすんだ浪華なにわの海には、山陰さんいん山陽さんよう東山とうさんの国々から、寄進きしん巨材きょざい大石たいせきをつみこんでくる大名だいみょうの千ごくぶねが、おのおの舳先へさき紋所もんどころはたをたてならべ、満帆まんぱんに風をはらんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯木は言いふるえて「——私たち夫婦をお身に比べて励ましてくださいました。そして夜すがら四人で松落葉の火を囲み、語り明かしたその朝、浪華なにわの河口で舟とおかとにお別れしたきり……」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば、この度、播州赤穂から帰るさには、ともの津では、港屋の花漆はなうるし浪華なにわでは曾根崎、伏見では笹屋の浮橋と、遊びあるき、い明かして、一日も遅く京へ着きたいものと願うているのじゃ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪華なにわでは住吉神社、京では清水寺きよみずでら、男山八幡宮、江戸では浅草の観世音かんぜおん、そのほか旅の先々で受けた所の神々や諸仏天は、今こそ、自分の肌身を固め給うものと信じて、ばばは、鎖帷子くさりかたびらを着たよりも
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、その京都や浪華なにわでも、近頃は取締りが厳しくなった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ。あの、浪華なにわでございます」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)