しみ)” の例文
帽子に着いている血のしみと、急拵えの石のかまどと、そのわきに落ちていたセリ・インデヤ人の毒矢とを見れば、ジョン少年の運命は知れる。
天井を仰向あおむいて視ると、彼方此方あちこちの雨漏りのぼかしたようなしみが化物めいた模様になって浮出していて、何だか気味きびの悪いような部屋だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
五色ごしきばかりではなくの葉の黄ばんだのも面白く、又しみだらけになったのも面白い、これは唯其の人の好みによって色々になるのでございます。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まるきしその気配さへ分らないし、たとへ其処に居るとは分つても、人々はこの建物に当然のしみほどにしか考へない
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
聞いておあげなさいませ。あちらのお言葉がしみになってお身体からだへつくようにも反感を持っていらっしゃるのですね
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あら銘仙めいせんの膝が少ししみになった。その上へ、手巾のしわ叮嚀ていねいして四つ折に敷いた。かどをしっかり抑えている。それから眼を上げた。眼は海のようである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しその皮の上に一寸ちょっとしたしみが出来るとか、一寸したきずが付くとかしますと、わたくしはどんなにしてでも、それをやしてしまわずには置かれませんでした。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、喬介の顔色が急にあからみかけて来た。成る程、喬介の手元を見ると、あらたに掘り出されたまだ余り古くない白銀色の鉄粉の層の上に、褐色の錆を浮かした大きなしみが出て来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
見廻すにやみの夜なれども星明ほしあかりにすかせば白き骨の多くありて何れが父のほねともれず暫時しばし躊躇ためらひたりしが骨肉こつにくの者の骨にはしみると聞し事あれば我がしぼり掛て見んとゆびかみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一つだけあいたままになっている焚口の火を映して、建物の中に充満した濃霧は橙色にぼうと染まり、その幻想的な明るさの下で、床の上のしみは鮮やかに赤く、点々と彼女の足跡を追っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
露に湿しめりて心細き夢おぼつかなくも馴れし都の空をめぐるに無残や郭公ほととぎすまちもせぬ耳に眠りを切って罅隙すきまに、我はがおの明星光りきらめくうら悲しさ、あるは柳散りきりおちて無常身にしみる野寺の鐘
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いささのしみをもえはゆるさぬ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
むかしこの建物の中に自分といふ存在がしみのやうに生きてゐたこと、今は已に消滅して見当らぬことなどを考へる者もなく、第一その話を思ひ出してさへ
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ひたいひろの大きな仏教に縁のある相である。ちゞみ襯衣しやつの上へ脊広せびろを着てゐるが、脊広せびろ所々ところ/″\しみがある。せいは頗る高い。瘠せてゐる所が暑さに釣り合つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その列の尖端、つまり血の雫の落始まった処は、屍体よりも約五フィート程の東寄にあって、其処には同じ一点に数滴の雫が、停車中の機関車の床から落ちたらしく雪の肌に握拳にぎりこぶし程のしみを作っている。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
一つだけあいたままになっている焚口の火を映して、建物の中に充満した濃霧は橙色だいだいいろにぼうと染まり、その幻想的な明るさの下で、床の上のしみは鮮やかに赤く、点々と彼女の足跡を追っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
足に任せて小篠堤に來掛る頃は早北斗ほくと劔先けんさきするどく光りゴンとつき出す子刻こゝのつかねひゞきも身にしみいと物凄ものすごく聞えけり折柄をりからつゝみかげなる竹藪たけやぶの中よりおもてつゝみ身には黒裝束くろしやうぞくまとひし一人の曲者くせものあらはいでもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其のしみる事というものは一通りなりませんから
彼が止みがたい放浪を感ずるのも、一つにはこの狂燥のしみが、あまりやるせないリズムを低く響かせるから。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あとはただ処々に黒いしみがボンヤリ着いて見えるだけなんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
其処では、慌ただしげに出入する老若の人人が、晴れたる日とは趣きの違ふ心構へで呟きを残ししみを落して変転し、空虚なる人の心を慰めもし紛らせもする。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私は路傍の何人とも(況んや豚に於ておや)交りを結ぶに垣根を構える卑屈な要心は用ひないが、心にしみがうつるほどの交りの深さに達すると、私は突然背中を向ける習慣である。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)