探偵たんてい)” の例文
けれど、人に見せてはいけませんよ。地図など持ってるところを見つかると、探偵たんていとまちがわれて、ひどい目にあうことがありますよ
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あの馬鹿女郎めろうめ、今ごろはどこに何をしているか、一つ探偵たんていをしてやろうと、うちわを持ったまま、散歩がてら、僕はそとへ出た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「そんな事を尋ねないでもあなたの方で分って居るだろう」というと「どうもあそこには秘密探偵たんていが行くことが出来ぬから分らぬ」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
気のせいでしょうか。なんだか変だわ。探偵たんてい小説のことを思い出したの。西洋の探偵小説に、毒入りチョコレートを贈って、人を
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここいらはすっかりシャーロック・ホールムスの行き方であるが、ただ科学者のY教授が小説に出て来る探偵たんていとちがうのは
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
敵情を探るためには斥候せっこうや、探偵たんていが苦心に苦心を重ねてからに、命がけで目的を達しやうとして、十に八、九は失敗しくじるのだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
署長さんは落ち着いて、卓子テーブルの上のかねを一つカーンとたたいて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵たんていを呼びました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
十一月の十八日には、浪士らは千曲川ちくまがわを渡って望月宿もちづきじゅくまで動いた。松本藩の人が姿を変えてひそかに探偵たんていに入り込んで来たとの報知しらせも伝わった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一の虚言をもなし得ないこの間諜かんちょう、この純粋無垢むく探偵たんていを、長い間研究しており、更にまたマドレーヌ氏に対する彼の昔からのひそかな反感や
これよりしてイワン、デミトリチは日夜にちやをただ煩悶はんもんあかつづける、まどそばとおものにわものみな探偵たんていかとおもわれる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いわば当時の御用探偵たんていで将軍自身のささやきをうけて、疑わしき諸国の大名を探りに出るのであるから、一倍その機密のもれるのをおそれたのだ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐそれは探偵たんていであることがわかった。リゼットは怖くも何ともかった。この子供顔の探偵は職業を面白がっていた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そっとうかがい寄ろうとする探偵たんていをこの青年に見いだすように思って、その五分刈ぶがりにした地蔵頭じぞうあたままでが顧みるにも足りない木のくずかなんぞのように見えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
探偵たんていとして物色ぶっしょくされた男は、ふところからまた薄い手帳を出して、その中へ鉛筆で何かしきりに書きつけ始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だれもそれに言い分はなかった。そこでは、他人の信仰に立ち入る者はいないし、他人の良心を探偵たんていする者はいないし、他人の思想を抑制する者はいなかった。
先ず国事探偵たんていより種々の質問を受けしが、その口振りによりて昼のほど公園に遊び帰途勧工場かんこうばに立ち寄りて筆紙墨ひっしぼくを買いたりし事まで既に残りのう探り尽されたるを知り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それは何も一向いっこういいことではないはずなのだけれど、いうことを聞かぬいたずらもの腕白わんぱくどもに、老教師ろうきょうしはもうほとほと手をいているので、まるで探偵たんていみたいなかおつきをしながら
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「じゃあ秘密探偵たんていに頼んでみたらどうです。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
したしき友人の顔にいやしき探偵たんていわらひを恐れ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
探偵たんてい小説がお好きのようですね?」
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
たとえば探偵たんていが容疑犯罪者と話しているおりから隣室から土人の女の歌が聞こえて来るのに気がついて耳をそばだてる。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『これは奇妙きみょう妄想もうぞうをしたものだ。』と、院長いんちょうおもわず微笑びしょうする。『では貴方あなたわたくし探偵たんていだと想像そうぞうされたのですな。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一縷いちるの望みは有力な民間探偵たんていの力を借りることであった。私立探偵といえば、たちまち思い浮かぶのは明智小五郎だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのうちに武田勢が今庄いまじょうに到着したので、諸藩の探偵たんていは日夜織るがごとくであり、実にまれなる騒擾そうじょうであったという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ジャヴェルと探偵たんていの者らはおそらくまだ立ち去っていないだろう、彼らは必ずや通りに見張りの者を残していったろう、あの男が自分を庭のうちに見いだしたら
「船でも岡でも、かいてある通りでいいんです。なぜと聞き出すと探偵たんていになってしまうです」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ネネムはこれはきっと探偵たんていにちがいないと思いましたので、かたくなって答えました。
けれどじつは、玄王げんおうのことを探偵たんていしているのでした。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この点でも科学者の仕事と探偵たんていの仕事とは少しちがうようである。探偵は罪人を見つけ出しても将来の同じ犯罪をなくすることはむつかしそうである。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これよりしてイワン、デミトリチは日夜にちやたゞ煩悶はんもんあかつゞける、まどそばとほものにはものみな探偵たんていかとおもはれる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
水戸藩へはまた秘密な勅旨が下った、その使者が幕府の厳重な探偵たんていを避けるため、行脚僧あんぎゃそうに姿を変えてこの東海道を通ったという流言なぞも伝わって来る。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれどもジャン・ヴァルジャンは鍵穴かぎあなから蝋燭ろうそくの光を見て取って、口をつぐんで探偵たんてい鋒先ほこさきをくじいた。
東京でそんな事をすれば、すぐ電車に引き殺される。電車が殺さなければ巡査が追い立てる。都会は太平のたみ乞食こじきと間違えて、掏摸すりの親分たる探偵たんていに高い月俸を払う所である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私立探偵たんていとか、警察官とかいうものは、なにかしら遠い昔の夢のように感じられた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こういう効果はおそらく音響によってのみ得られるべきものである。探偵たんていが来て「可能的悪漢」と話していると、隣室から土人娘の子守歌こもりうたが聞こえる。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これ奇妙きめう妄想まうざうたものだ。』と、院長ゐんちやうおもはず微笑びせうする。『では貴方あなたわたくし探偵たんていだと想像さうざうされたのですな。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どんな姿を変えた探偵たんていが平田門人らの行動を注意していまいものでもない。おまけに、ここは街道だからで。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、少しも皮肉ではなく、最もまじめな意味において、彼は前にわれわれが言ったとおり、人が牧師であるごとく探偵たんていであった。彼は上官として総監ジスケ氏を持っていた。
いわば探偵たんていみたいな仕事ですね。しかし、犯人を捜すのでなくて、金持ちで人を殺したがっているやつを捜すのです。そして、いくらいくらという値段をきめて、代理殺人をやるのです
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
泳ぐのは断念したが、学校へ出てみると、例の通り黒板に湯の中で泳ぐべからずと書いてあるにはおどろいた。何だか生徒全体がおれ一人を探偵たんていしているように思われた。くさくさした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえばある一人の虚無的な思想をもった大学生に高利貸しの老婆を殺させる。そうして、これにかれんな町の女や、探偵たんていやいろいろの選まれた因子を作用させる。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「この先輩は幕府方の探偵たんていにでもつけられているんだ。」その考えがひらめくように半蔵の頭へ来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
左様さよう。いや探偵たんていにしろ、またわたくしひそか警察けいさつからわされた医者いしゃにしろ、どちらだって同様どうようです。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼こそ実に一流の探偵たんていというべきであって、やがて殺されるのを知りながらも、すべてを観察し、すべてに耳を傾け、すべてを聞き取り、すべてのことを頭に入れていたのである。
五年も十年も人のしり探偵たんていをつけて、人のひる勘定かんじょうをして、それが人世だと思ってる。そうして人の前へ出て来て、御前は屁をいくつ、ひった、いくつ、ひったと頼みもせぬ事を教える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
掏摸すりに金をすられたふとった年増としまの顔、その密告によって疑いの目を見張る刑事の典型的な探偵たんていづら、それからポーラを取られた意趣返しの機会をねらう悪漢フレッド
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
左樣さやう。いや探偵たんていにしろ、またわたくしひそか警察けいさつからはされた醫者いしやにしろ、何方どちらだつて同樣どうやうです。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
聞こえるものとては、袋町や街路をさがし回ってる巡邏じゅんらの騒がしい足音、石にぶつかる銃床尾の音、配置の探偵たんていに呼びかけるジャヴェルの声、よく聞き取れないその言葉のののしり声。
「知るものですか、探偵たんていじゃあるまいし」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたは探偵たんていですか?」