捕方とりかた)” の例文
老人の友達のうちに町奉行所の捕方とりかたすなわち岡っ引の一人があったので、それからいろいろの捕物の話を聞かされたと云うのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
表でこの騒ぎを知るや知らずや、今度は正銘しょうめい捕方とりかたが五人、比較的に穏かな御用の掛声で、ドヤドヤと裏口からこの家へ押込んで来た。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さてまた憑司は其夜昌次郎を立せやり草履ざうりに血の付たるをもちて傳吉宅へしのこみには飛石とびいしへ血を付置き夫より高田の役所へ夜通よどほしに往てうつた捕方とりかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
捕方とりかたの手を振り払って、花世は、狂女のように、父の方へ、しがみついて来た。と、五百之進は、その手へ、ふいに、血みどろな脇差を渡して
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨晩跡部からの書状には、たしかな与力共の言分いひぶんによれば、さ程の事でないかも知れぬから、かねて打ち合せたやうに捕方とりかたを出すことは見合みあはせてくれと云つてあつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と同時のごとく目にはいったものは、町々つじつじを堅めているものものしい捕方とりかたたちの黒い影です。
死骸を見て伴藏はあとへさがり、逃げ出さんとする所、御用と声掛け、八方より取巻かれたに、伴藏もあわてふためき必死となり、捕方とりかたへ手向いなし、死物狂いに斬り廻り
明らかに捕方とりかたの役人たちらしい。万三郎は反射的に笠で顔を隠し、いま自分の立っている枝道へそのままそれてゆこうとした。が、とつぜんぎょっとしたように振返った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なんかと、満谷剣之助、いい気もちにそりかえって、そのまま捕方とりかたをまとめて帰って行った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二俣ふたまたの奥、戸室とむろふもと、岩で城をいた山寺に、兇賊きょうぞくこもると知れて、まだ邏卒らそつといった時分、捕方とりかた多人数たにんず隠家かくれがを取巻いた時、表門の真只中まっただなかへ、その親仁おやじだと言います、六尺一つの丸裸体まるはだか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上州じょうしゅう岩鼻いわはなの代官をり殺した国定忠次くにさだちゅうじ一家の者は、赤城山あかぎやまへ立てこもって、八州の捕方とりかたを避けていたが、其処そこも防ぎきれなくなると、忠次をはじめ、十四五人の乾児こぶんは、ようやく一方の血路を、り開いて
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あれは、たしかに捕方とりかた! さては闇さんを捕りに向うたか——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
八州の捕方とりかたを避けて横道につれ込まれた少年は、この案内者に相当の信用を置いているらしいが、気味の悪い感じも相当に伴わないではありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
形は小太刀に似て作りは十手と同じこの獲物えものを持つものは、無論、八丁堀の捕役とりてか、奉行ぶぎょう手先の捕方とりかたに限ったもので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なあ、庄太。土地の者はその飴屋を隠密だとか捕方とりかただとか云っているそうだが、よもやそんなことはあるめえな」
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
上意々々と呼はり捕方とりかたの者十人餘りばら/\と掛り折重をりかさなりて終になはをぞかけけるに吾助も喜内より劔術けんじゆつ柔術じうじゆつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「無手なら草香流、得物をとらば血を見ないではおかぬ江戸まえの捕方とりかたじゃ、それでも来るか!」
此の辺に悪者が忍んでるという噂が有って、八州の捕方とりかたがまいって厳しい詮議が有るので、一人旅の者は何処の宿屋でも泊めてくれませんので、誠に当惑を致します
さて捕方とりかたの事を言ひ付けると、三人共思ひも掛けぬ様子で、やゝ久しく顔を見合せて考へた上で云つた。平山がうつたへはいかにも実事じつじとは信ぜられない。例の肝積持かんしやくもちの放言をに受けたのではあるまいか。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
与力満谷剣之助をお捕頭とりがしらに、それに、眼明めあかしの金山寺屋の音松と、金山寺屋の手いの捕方とりかたを四、五十人もつけて、一隊、闇夜あんや暴風雨あらしをついて、黒門町の壁辰の家をおそった——まではよかったが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おじさん」と刹那せつなに、若者のほうも、落着いたらしく、つる矢筈やはずはずして。「ごめんなさい。おじさん達は、旅の衆だね。北京府ほっけいふ捕方とりかたじゃあなかったんだね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪士とおぼしき強盗が蔭へ廻って悪事を働き、なお火事場泥棒式の悪漢が出没するけれども、それを取締る捕方とりかたは出て来るという評判だけで、ちっとも出て来ません。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洗はんと爲所するところへ上臺憑司が案内あんないにて關田の捕方とりかた内へつか/\と入くるに傳吉夫婦は何事やらんとおどろくを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その眼つぶしが効を奏して、おたずね者の石原の松蔵は両腕に縄をかけられたのである。この時代でも捕方とりかたに助勢して首尾よく罪人を取り押えたものにはお褒めがある。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人のうわさには金森家の浪人が八州のお捕方とりかた斬払きっぱらって、矢切山へ隠れたという噂を聞いて、刀の詮議の手掛りにもなろうかと、仙太郎が重三郎と舁夫かごやの安吉とを船に載せて
たいていの捕方とりかただったら、品物が品物だからおそらくたんすか長持ちといったような貴重品の入れてある家財道具に着目すべきところを、右門は例のごとくその逆のからめてをたどって
与力の小田切千助が、それをしおに馬へ移ると、同心捕方とりかたの面々も、今召捕った四、五人を引ッ立って、意気揚々と引き上げだした。すると、それを一目見た新九郎が
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども幕末の悲しさ、これを押えんために捕方とりかたが向って来る模様も見えませんでした。そうなってみると貧窮組の組織は、決してこの一カ所にとどまらないことです。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
引摺つて駕籠のなかへ押込み、外から垂簾たれをおろす。おかんは不安らしく表をのぞいてゐると、路地の口より石子伴作は捕方とりかたの者ふたりを連れ、雲哲と願哲を先に立てて出づ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
びっくりして、新吉が、段々怖々こわ/″\ながら細かに読下すと、今夢に見た通り、谷中七面前、下總屋の中働お園に懸想けそうして、無理無体に殺害せつがいして、百両を盗んで逃げ、のち捕方とりかたに手向いして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥甲賀の山間やまあいに陽がおちるまでと約束した、与力中西弥惣兵衛やそべえと、その手の捕方とりかたの影であった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
轟の源松とも言われる捕方とりかたの功の者がおどろいたのだから、尋常の見物みものではありません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほかに長屋の男 女 娘 子供 捕方とりかた
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
おのおのその扮装いでたちをした捕方とりかたの人数だと認めないわけにはゆきません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
塀の外におけるこれらの問答が、いま、屋根の上の物音だけで耳を澄ましていた能登守の耳へ歴々ありありと聞えました。屋根の上のは何者とも知れないが、この塀の外のはまさしく捕方とりかたの人数であります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうその前後からいなごのように捕方とりかたが飛びつきました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)