はさま)” の例文
旧字:
真中まんなかはさまった私を御覧。美しい絹糸で、身体からだ中かがられる、何だかくすぐったい気持に胸がしまって、妙に窮屈な事といったらない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも其の間にはさまってずっと奥に引込んだところに、調餌室ちょうじしつという建物がありますが、これは動物に与える食物を調理したりしまって置いたりするところなんです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし実際には大谷から出る石は、どちらかというと荒く、いわゆる「みそ」が多いという。「みそ」というのは石の間にはさまった有機物の腐れた黒褐色こくかっしょくのごく柔らかい部分をいう。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
樹と樹との間へ御身体がはさまって了って、もう絶体絶命という時に御目が覚めて見れば——寝汗は御かきなさる、枕紙はれる、御寝衣おねまきはまるでびっしょりになっておったということでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから人に見付からないように、お縁側からい上って、奥の押入の中に在る長持と、壁の間にはさまってジイッとしていたの。随分苦しかったわ……でも叔父は用心深いんですからね。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高地人ハイランダース低地人ローランダースとキリクランキーの峡間はざまで戦った時、かばねが岩の間にはさまって、岩を打つ水をいた。高地人と低地人の血を飲んだ河の流れは色を変えて三日の間ピトロクリの谷を通った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大の字に子がはさまつて居る枯木
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
……話の一筋が歯にはさまったほどの事だけれど、でも、その不快について処置をしたさに、二人が揃って、祭のを見物かたがた、ここへ来た時は。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにしても釦を拾った場所というのが、調餌室の直ぐ前の、きりの木材との間にはさまった路面だったので、これでは調餌室の人達について一応嫌疑をかけてみないわけにはゆかない。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「何でも奥歯に物のはさまったような皮肉ばかり云うんですよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(世のはじめから蛇は智慧者ですよ。)と言う。まったく、少しずつうろこが縮んでぬるぬると引込んで、鼠の鼻ッさきがはさまったようになって消えたがね。
またこっちにはさまっているのが彼の黄色い皮製の服です。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこここ、まばらに透いていた席が、ぎっしりになって——二等室の事で、云うまでもなく荷物が小児こどもよりは厄介に、中には大人ほど幅をしてあちこちにはさまって。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アッと思うと、中の目白鳥は、羽ばたきもせず、横木を転げて、落葉のはさまったように落ちて縮んでいる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うさぎをどつて、仰向あふむけざまにひるがへし、妖気えうきめて朦朧まうろうとしたつきあかりに、前足まへあしあひだはだはさまつたとおもふと、きぬはづして掻取かいとりながら下腹したばらくゞつてよこけてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うま胴中どうなかほどのいしの、大樫おほかし古槻ふるつきあひだはさまつて、そらかゝつて、した空洞うつろに、黒鱗こくりんふちむかつて、五七にんるべきは、応接間おうせつま飾棚かざりだなである。いしげどはこのいはなのである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちいさな胸には、大切なものを落したやうに、大袈裟おおげさにハツとしたが、ふと心着こころづくと、絹糸の端が有るか無きかに、指にはさまつて残つて居たので、うかゞひ、うかゞひ、そっと引くと、糸巻は
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「お稲荷様いなりさまのお賽銭さいせんに。」と、少しあれたが、しなやかな白い指を、縞目しまめの崩れた昼夜帯へ挟んだのに、さみしい財布がうこん色に、撥袋ばちぶくろとも見えずはさまって、腰帯ばかりがべにであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あぎとの下へ手をかけて、片手で持っていた単衣をふわりと投げて馬の目をおおうが否や、うさぎおどって、仰向あおむけざまに身をひるがえし、妖気ようきめて朦朧もうろうとした月あかりに、前足の間にはだはさまったと思うと
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「出て来い。男なら出て来い。意気地いくじなし、女郎めろうの懐にはさまってら。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ、えへん! と云えば灰吹と、諸礼躾方しつけかた第一義に有るけれども、何にも御馳走をしない人に、たといおくび葱臭ねぎくさかろうが、干鱈ひだらの繊維がはさまっていそうであろうが、お楊枝ようじを、と云うは無礼に当る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に、ひっそりした横町の、とある軒燈籠の白いあかりと、板塀の黒い蔭とにはさまって、ひらたくなっていた、頬被ほおかむりをした伝坊が、一人、後先をみまわして、そっと出て、五六歩行過ぎた、早瀬の背後うしろへ、……抜足で急々つかつか
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何と、その革鞄の口に、紋着もんつきの女の袖がはさまっていたではないか。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中にはさまったのが看護婦のお縫で
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)