私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫のかたきを討つ……この時代に於いては大いに憐愍の御沙汰を受くべき性質のものであった。事情によっては或いは無罪になるかも知れなかった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
今みんなから包囲攻撃を受け始めたばかりの新参者に対するような憐愍と、同時にある勝利感を含んだ寛容の微笑を浮かべながら、彼を見つめていた。
罪と罰 (新字新仮名) / フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(著)
ひとり哀れを催すのは左門のみの特殊な襞にまつはりついた感慨であつて、その正体は実在しないものだつた。然し左門の文子によせる憐愍はせつないまでに激しかつた。
吹雪物語:――夢と知性―― (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から (新字新仮名) / ナサニエル・ホーソーン(著)
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
これは運命への抵抗とはげしい悲しみとの叫びである。憐愍に胸をつらぬかれることなしには、人はこの叫びを聞き得ない。当時彼は自ら命を絶とうとする危険の淵に臨んでいた。
ベートーヴェンの生涯:02 ベートーヴェンの生涯 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
云ひかへれば人間の弱点に対しての或る憐愍と同情とを表した判事の自然な態度を見る事の出来た私は、此の弁護士が被告の為めに、同情すべきその生活状態や周囲の事情を説きながら
その顔は約一倍半も膨脹し、醜く歪み、焦げた乱髪が女であるしるしを残している。これは一目見て、憐愍よりもまず、身の毛のよだつ姿であった。が、その女達は、私の立留ったのを見ると
憐愍から愛着、愛着から同化、ついに自他の区別を忘却するまでに至るのは、一つは、この獣と関聯して、どうしても無二の愛友であったムク犬のことを、思い出さずにはいられないからです。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この私の紳士性は、彼女の憐愍を買うに充分だったのだ。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武州公秘話:01 武州公秘話 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あたかも彼は、憐愍の情に満ちてる目でその壁を貫き、その不幸な人々をあたためんとしてるかのようだった。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
実際、誰しもこういう場合、それこそ真剣な憐愍や同情を持っているにもかかわらず、このような感情が忍び込むのを、どうしてものがれ得ないものである。
罪と罰 (新字新仮名) / フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(著)
そこへ気が付けば馬翁に対する憐愍も十分、自分の繋縛の一つでないことはない。かくて慧鶴は思い切って馬翁に暇を告げ桜の頃檜木村をあとにして、雲水の旅に出かけた。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)