恢復くわいふく)” の例文
「うむ、なあにれもそれから去年きよねんあき火箸ひばしばしてやつたな」卯平うへいういつてかれにしてはいちじるしく元氣げんき恢復くわいふくしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この健康さへ恢復くわいふくしたら、そしてその仕事にさへ手を着けたら、もう少しは今の自分を笑つて見下せる自分になれるだらう。かう考へた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
さうした不思議はほこれにとゞまらなかつた。貧しき者は富み、乏しき者は得、病める者はえ、弱き者は力を恢復くわいふくした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
心に突き刺した傷はなかなか、恢復くわいふくする模様もない。ゆき子は、伊香保のおせいのところと、横浜の蓑沢みのざはにゐると云ふ、加野のところへハガキを書いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
大島仁藏翁おほしまじんざうをう死後しご權藏ごんざう一時いちじ守本尊まもりほんぞんうしなつたていで、すこぶ鬱々ふさいましたが、それも少時しばしで、たちまもと元氣げんき恢復くわいふくし、のみならず、以前いぜんましはたらしました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
明方近く、外に物音がし出してから一寸寐ても、若い時の疲労は直ぐ恢復くわいふくすることが出来る。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それとも健康を恢復くわいふくするためには、どこか静かな山の温泉が好いかとも思つてゐた。彼は毎日毎日こま/\した急ぎの仕事に追はれづめであつた。一日としてペンを手にしない日はなかつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼は恢復くわいふくした自信をいたはりながら、細い小路を静に家の方へ曲つて行つた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これ餘計よけいものへば内地ないちからきんく、外國ぐわいこく餘計よけいものれば外國ぐわいこくからきん這入はひつて日本にほん通貨つうくわえる、さうして景氣けいき恢復くわいふくする、ふことはすなは金本位きんほんゐ當然たうぜん結果けつくわである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ストロング夫人は、アグレイアを失つた時に受けた心の痛手から再び恢復くわいふくすることなく、彼等の移住後二年にして世を去り、ストロング氏は、獨りでこの悲しみを忍ばなければならなくなつた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
私は三度まで足がたなくなつて、三度目に立たなくなつた足が今は恢復くわいふくの望みもなくなつてゐる。起たなくなつてはち、起たなくなつては起ちしたひま/\に、尋常小學じんじやうせうがく四年の課程も踏んだ。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
ただ白鳥はくてう君には髭が無いけれどマス君にはうしろねた頤髭あごひげがある。見物人には一撃のもとにマス君がやぶられさうあやぶまれたが、しかしマス君は見掛に寄らず最後まで勇敢に戦つて立派に名誉を恢復くわいふくした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
落葉おちばには灰際はひぎはから外側そとがはつたひてがべろ/\とわたつた。卯平うへい不自由ふじいう火箸ひばし落葉おちばすかした。迅速じんそく生命せいめい恢復くわいふくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
連年の養蚕やうさんの失敗を恢復くわいふくしようと、非常に手をひろげてつた蚕が、気候の具合で、すつかりはづれて、一時に田地の半分ほども人手に渡して了ふといふ始末。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
このやうに健康を恢復くわいふくして来ると、先生は果樹園の散歩ぐらゐでは満足しなくなりました。それで或る日思ひ立つたやうに私の父の家に行つて見ると云ひ出したのです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
私は此内面の争闘をけみした後に、しばらくは惘然ばうぜんとしてゐたが、思量の均衡がやうやう恢復くわいふくせられると共に、従来回抱してゐた雪冤せつゑんの積極手段が、全く面目を改めて意識に上つて来た。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すつかりからだ恢復くわいふくして、皮膚のつやもよくなり、見違へるやうに若々しくなつた。大津しもが、専造のかくし女である如く、ゆき子はまた何時とはなく伊庭と昔のよりを戻してゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しな勘次かんじしてなさけないやうな心持こゝろもちがしてたのであるが、おもつたよりはあきなひをしてれたので一にち不足ふそくまつた恢復くわいふくされた。さうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もし単に故郷にれられぬといふばかりならば、根本の父のやうに、又は塩町の湯屋のやうに、いきどほりを発して他郷に出て、それで名誉を恢復くわいふくしたためし幾許いくらもある。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わしの遣り口はどうやら間違つてゐなかつたらしい。——わたしが率先して、茶屋に備へ付けてあるハカリで皆の体量をよく計る。それとなく娘の健康の恢復くわいふく工合を観察するのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
一寸ちよつと寝たので大いに恢復くわいふくしたといふ風で、快活に碁盤の脇に出掛けて来た。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
満更その自分の一生に就いて思慮をつひやさぬ事も無いので、時にはいろ/\その将来の事を苦にして、自分の家の没落をも何うかして恢復くわいふくしたいと思つた事もあつたらしい。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)