急須きゅうす)” の例文
「三輪の親分が、急須きゅうすに戻して、何処かへ持って行きました。本草の学生がくしょうにでも見せて、どんな毒を使ったか調べ度いということで」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
机一つと米櫃こめびつ一つ置いてある。側は土間になって居る。土間には轆轤ろくろ台と陶土、出来上った急須きゅうすや茶碗も五つ六つ並んでいる。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
磁器じき陶器とうきも共に作ります。大体北国には磁土じどが少いのでありますが、ここの茶器、とくに急須きゅうすの如きは販路を広めました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
老人は首肯うなずきながら、朱泥しゅでい急須きゅうすから、緑を含む琥珀色こはくいろ玉液ぎょくえきを、二三滴ずつ、茶碗の底へしたたらす。清いかおりがかすかに鼻をおそう気分がした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母親は古い茶箪笥ちゃだんすから茶のはいったかん急須きゅうすとを取った。茶はもうになっていた。火鉢の抽斗ひきだしの紙袋には塩煎餅しおせんべいが二枚しか残っていなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二人はこうして、さし向いで安倍川を食べながら、お雪ちゃんが、しかけて置いた鉄瓶の湯を急須きゅうすに注ぎました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ不便なのは食事だが、これもいつか当座だけの用意を求めてきたらしく、呉須ごす急須きゅうすに茶を入れて、栗饅頭くりまんじゅうまで添えたのが、読み本の側においてある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は包丁さしと急須きゅうすと、はたきと、小さな鏡とを買っていった。そのうしろ姿のまだ消えぬ間に夏樹は
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
彼女は茶とパンとを持ってきたが、茶はまたもや出がらしで、やはり彼女の自前の急須きゅうすに入れてあった。
蓮月尼れんげつにの陶器には、にせものが多い。にせものとほんものを見わけるのは、急須きゅうすなり茶わんなりに書きこんである彼女の自作の歌の文字の味で、判断するのである。
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
だから家庭的の音が欠乏している、と人にいわれたかもしれない。攪乳器も糸車も、薬罐やかんのたぎる音も急須きゅうすのシュンシュンいう音も子供たちのさけびもわたしをあやさない。
或時尋ねると、「昨日きのうは突然差押えを喰って茶呑茶碗ちゃのみぢゃわんまで押えられてしまった、」と眉山は一生忠実に仕えた老婢ろうひに向って、「オイ阿婆ばあや何処どっかで急須きゅうすと茶碗を借りてな、」
「いや、てれるというわけではない」又左衛門は火桶ひおけ鉄瓶てつびんから、湯を湯ざましへ移し、急須きゅうすと湯ざましとで湯をこなしながら、まるで色褪いろあせた情事を悔みでもするように云った
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふたをあけるとそのままお盆代りになる、日本旅館などによくある手のもので、なかに小さな急須きゅうす、小さな茶碗ちゃわんに茶卓、小さな茶筒と、すべて小型の、玉露ぎょくろ用の茶器がはいっていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
竹が薬缶やかんを持って、急須きゅうすに湯を差しに来て、「上はすっかり晴れました」と云った。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、どうしても想いだせぬので、二度目にその女が急須きゅうすを持ってそばへ来た時
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
私は黙ってうなずきながら、湯ざましの湯を急須きゅうすいだ。この可憐な捨児の話が、客松原勇之助まっぱらゆうのすけ君の幼年時代の身の上話だと云う事は、初対面の私にもとうに推測がついていたのであった。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
古渡こわたりすゞ真鍮象眼しんちゅうぞうがん茶托ちゃたくに、古染付ふるそめつけの結構な茶碗が五人前ありまして、朱泥しゅでい急須きゅうすに今茶を入れて呑もうと云うので、南部の万筋まんすじ小袖こそで白縮緬しろちりめん兵子帯へこおびを締め、本八反ほんはったん書生羽織しょせいばおり
隣の寝室へかつぎ込んだが、寝台の上へ横になることができなくて肱掛椅子ひじかけいすにもたれたままだったそうです。椅子いすの横の台の上には薬びんと急須きゅうすと茶わんとが当時のままに置いてあります。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
木幡村の一ノ瀬と云人に頼み製しめしに元来肥え物の沢山に仕込たる茶なるが故に揉む時分に手の内にねばり付き葉はことごとく丸く玉の様に出来上りたるを其儘急須きゅうすに入れ試みしに実に甘露の味ひを
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
急須きゅうすとなりて茶人が長き夜のつれづれを慰むるにもあらねば、徳利となりて林間に紅葉をくの風流も知らず。さりとて来山が腹に乗りて物喰はぬ妻と可愛がられたる女人形のたぐひにもあらず。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、お杉は、茶筒ちゃづつから喜撰きせんを、急須きゅうすに移しながら。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は、思い切って濃いのが好きで煎茶せんちゃ急須きゅうすへ、抹茶の粉をたたきこむことさえあるのだが、宿屋のお茶は、まるで色のついた湯にすぎない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
藤蔓ふじづるの着いた大きな急須きゅうすから、胃にも頭にもこたえない番茶を、湯呑ゆのみほどな大きな茶碗ちゃわんいで、両人ふたりの前へ置いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
急に暗い心になったお雪は、また気を取り直して、湯気の立った鉄瓶から、お盆の上の急須きゅうすへお湯をいで、別のふすまをあけてしずかにこの部屋を立ち出でました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
急須きゅうすだとか皿や鉢など小ものも焼きますが、近頃は土管どかんの仕事が専らで、見るべき品が少くなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
翁が特に愛していた、蝦蟇出がまでという朱泥しゅでい急須きゅうすがある。わたり二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色たいしゃいろはだえPemphigusペンフィグス という水泡すいほうのような、大小種々のいぼが出来ている。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし夫はなんとも言わずにさっさと会社へ出て行ってしまった。たね子はやっとひとりになると、その日も長火鉢の前に坐り、急須きゅうすの湯飲みについであった、ぬるい番茶を飲むことにした。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
え? と眼を丸めた時は急須きゅうすの上に湯たんぽの口を当てがって、驚くじゃないですか、今の今まで婆さんが足を当てていた湯たんぽの湯を、どくどくッと……。いや全く魂消たまげたのなんのって。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
真鍮しんちゅう象眼ぞうがん茶托ちゃたくがありまして、鳥渡ちょっとしまった銀瓶ぎんびん七兵衞しちべえ急須きゅうすを載せて
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
魔法瓶の湯を急須きゅうすいでから文吉たちの湯呑ゆのみをとり出していると
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ですが好んで作る急須きゅうす湯呑ゆのみなどは、形が崩れてしまい、品物としては上出来とは申されません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
隙間すきまなくしぶれた劈痕焼ひびやきに、二筋三筋あいを流す波をえがいて、真白ましろな桜を気ままに散らした、薩摩さつま急須きゅうすの中には、緑りを細くり込んだ宇治うじの葉が、ひるの湯にやけたまま
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小川はのどが乾くので、急須きゅうすに一ぱい湯をさして、茶は出ても出なくても好いと思って、直ぐに茶碗に注いで、一口にぐっとんだ。そして着ていたジャケツも脱がずに、行きなり布団の中に這入った。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と呼びましたものですから、鉄瓶てつびんの湯を急須きゅうすぎながら
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宇治の茶と、薩摩の急須きゅうすと、佐倉の切り炭をえがくは瞬時のかんぬすんで、一弾指頭いちだんしとうに脱離の安慰を読者に与うるの方便である。ただし地球はむかしより廻転する。明暗は昼夜を捨てぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時婆さんがようや急須きゅうすに茶をれて持って出た。今しがた鉄瓶に水をしてしまったので、煮立にたてるのに暇が入って、つい遅くなって済みませんと言訳をしながら、洋卓テーブルの上へ盆を載せた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ先刻さっきの看護婦が急須きゅうすへ茶をれて持って来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)