彼様あんな)” の例文
旧字:彼樣
猪子いぬしゝしてママおほきなものよ、大方おほかたいぬしゝなか王様わうさま彼様あんな三角形さんかくなりかんむりて、まちて、して、わたし母様おつかさんはしうへとほるのであらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ぢや、姉さんは、あの吉野とか云ふ法学士の方が好いのですか、驚いたこと、彼様あんなニヤけた、頭ばかり下げて、意気地いくじの無い」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
でもわっしには無心は云えないわ、馴染でも何でもない人だし、誠に彼様あんななりをして、一生懸命にチビ/\貯めて持ってるんですから
肉づきまでがふっくりして、温かそうに思われたが、若し、僕に女房かかあを世話してくれる者があるなら彼様あんなのが欲しいものだ
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「だつて、彼様あんなに舟が揺れるんですもの、もつと叔父さんは上手かと思つた。」とお節はそこへ身を投出すやうにして。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「誰が、彼處あすこ彼様あんないとをかけたのだらう。」と周三は考へた。途端とたんに日はパツとかゞやいて、無花果の葉は緑のしづくこぼるかと思はれるばかり、鮮麗にきらめく。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
太閤が然様そんなことをする人とは思えないばかりで無い、然様なことをする必要が何処にあるであろう。氏郷が生きて居れば、豊臣家はかえって彼様あんなにはならなかったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『あらッ、プラットフォームに入れてよ。彼様あんなに人が入ってよ。美子さん早く入らッしゃい。』
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
大きな体躯なりをして子供らしい奴等だ。それでお春さんは彼様あんなに乃公を好遇よくしたんだな。可愛がられるのもいいが、面当つらあてに可愛がられるんじゃ一向ありがたくも何ともない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
してみるとやはり、此処も廃井ではあるまいか? いや其様筈がない。烟突から黒烟が上っている。彼様あんなさかんに火が燃えている。彼様に機械が運転している。人のいない筈がない。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
財布の中へつぶてか何か入れて置いて、人の頭へ叩きつけて、ざまあ見やがれ、彼様あんな汚いなり
祖母に強求ねだる、一寸ちょっと渋る、首玉くびったまかじいて、ようようと二三度鼻声で甘垂あまたれる、と、もう祖母は海鼠なまこの様になって、およし——母の名だ——彼様あんなに言うもんだから、買って来てお遣りよ、という。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
うなることかとわたし、ほんとにこはう御座いましたよ、けども御前、伯父も本心から彼様あんなこと致したのでは御座いませぬでせうと思ひますの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何故なぜ、あの大日向が鷹匠町の宿から放逐された時に、自分は静止じつとして居なかつたらう。何故なぜ彼様あんなに泡を食つて、斯の蓮華寺へ引越して来たらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私は旦那に受出されて此処こゝへ来て、お前とは江戸に居る時分から、まア心易こゝろやすいが、私の方で彼様あんな事を云出してから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
愈々いよいよ卒業の儀式が済むと校長は父兄一同に対して各自今後の教育の方針を議した。最後に校長は兵蔵を前に呼んでお前の息子は、これからどうするかんがえだ、彼様あんな具合では余程家庭の教育が必要である。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕が居ないと淋しいもんだから、それで彼様あんなあとを追うンだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼様あんなに喰べ通しに喰べるから、彼様あんなに太ってるのだろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼様あんなひゝ見たいな狂漢きちがひに高いふちつてフザけさせて置く奴も奴だが、其れを拝み奉る世間の馬鹿も馬鹿だ、侯爵が何だ、大勲位が何だ、人をツケ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『今日はなんにも頂きたくないと言つて、おかゆ少許ぽつちり食べましたばかり——まあ、朝から眠りつゞけなんで御座ますよ。彼様あんなに眠るのが奈何どうでせうかしら。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
村「いゝえ何処どこの方か初めての方が、実に親切に介抱をして下すったから、お礼を云うのを彼様あんな悪たいをついて済まないじゃないか、謝まっておくんなさい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おッそろしい餓鬼だなあ! まだ彼様あんなに出て来やがら……」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
到頭あんなに零落おちぶれてしまったんですが、それでもお嬢様があゝって彼様あんなに親孝行をなさるんですよ、だがあんな扮装なりをして入らしっても透通すきとおるようない御器量で
彼様あんなに大騒ぎするのは、瀬川君の方で生徒の機嫌を取るからでせう? 生徒の機嫌を取るといふのは、何か其処に訳があるからでせう? 勝野君、まあ君は奈何どう思ひます。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お累さんものぼせて顔が彼様あんなに腫れ出して死んでしまったのだから、かえって三藏の方でお前を怨んでいるだろうが、何もお前の方で三藏をにくみ返すという理合りあいはあんめえぜ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何でも屹度きっと新吉さんと訳が有るだろう、なんにも訳がなくって、お師匠さんが彼様あんな悋気りんきらしい事を云って死ぬ気遣いは無い、屹度訳があるのだろうから云えと云うから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほんとにまアこんなに沢山、御親切な方ですねえ、彼様あんなに仰しゃって、浦賀の者だから手紙を
清「それ見ろ、彼様あんなにいうのに打様うちようを覚えねえからだ、中の釘は真直まっすぐに打っても、上の釘一本をありに打ちせえすりゃアとめの離れる気遣きづけえはいというのだ……杉の堅木かたぎか」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
權「はい、わしもお蔭で喰うにゃア困らず、彼様あんな心懸のい女をかゝあにして、おまけに旦那様のお媒妁なこうどで本当はのお千代もいやだったろうが、仕方なしに私の嚊に成っているだアね」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「はてな、彼様あんなに親切な長二が教えねえ事アねえ筈だが……何か仔細しせいのある事だ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅「何だえ今の真似は、ようお前幾歳いくつにお成りだよ、命を助けたの何のと恩義に掛けて、あの彼様あんなに厭がるものを無理に引寄せてなぐさむ了簡かえ、呆れた人だね、怖い人だね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それもいが三人前の料理代を払うなんどは本当に愛敬のない仕方で、れはどうもひどい、何でも理由わけがあるに違いない、理由わけがなくって彼様あんなになさる気遣きづかいはねえ、何うも理由わけがありそうだ
わしが色事をしやアしめえし、出される訳はねえ、実ア私もうちへ入れめえとは考えたけれども、おさむれえさんが如何いかにも優しげな人で、色が白いたって彼様あんなのはねえ、私アしろかと思えやした
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
幸「馬鹿を云え、そう思うくらいなら彼様あんなに目をかけてやりはしない」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
誠にお前さんの云う事をかないで済みませんが、私も七歳なゝつから育てられ、お母さんの気性も知っていますが、彼様あんな邪慳な人は世にあんまり有りません、此の頃のように寒い時分に夜遅く帰って来れば
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)