彼所かしこ)” の例文
すぐにおわかりになったものとえ『フムその懐剣かいけんならたしかに彼所かしこえている。よろしい神界しんかいのおゆるしをねがって、取寄とりよせてつかわす……。』
豊雄、七二ここに安倍あべ大人うしとまうすは、年来としごろ七三まなぶ師にてます。彼所かしこに詣づる便に、傘とりて帰るとて七四推して参りぬ。
女中のふさは手早く燗瓶かんびん銅壺どうこに入れ、食卓の布をつた。そしてさらに卓上の食品くひもの彼所かしこ此処こゝと置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
店の若い者ひろひ取り何處どこへか隱せしを我等彼所かしこにて能く見屆けたり其品は正しく其許そのもとの財布ならんれ共今の如く其許おまへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それで何所も彼所かしこも丸く治まっちまうから、——だから、御父さんが、ことによると、今度こんどは、貴方に一から十まで相談して、何かさらないかも知れませんよ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
懺悔ざんげしたフランシスは諸君の前に立つ。諸君はフランシスの裸形を憐まるるか。しからば諸君が眼を注いで見ねばならぬものが彼所かしこにある。眼あるものは更に眼をあげて見よ
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
熟々つくづくと見て居ると、くれない歓楽かんらくの世にひとり聖者せいじゃさびしげな白い紫雲英が、彼所かしこに一本、此処ここに一かぶ、眼に立って見える。主人はやおら立って、野に置くべきを我庭にうつさんと白きを掘る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
中に入ると人々の混雜が、雨の軒端のきばに陰にしめつたどよみを響かしてゐた。表から差覗さしのぞかれる障子は何所も彼所かしこも開け放されて、人の着物の黒や縞がかたまり合つて椽の外にその端を垂らしてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
今は古綿のごとく此処ここ寸断ちぎ彼所かしこも寸断れて
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
男子をのこご二人、女子むすめ一人をもてり。太郎は質朴すなほにてよく生産なりはひを治む。二郎の女子は大和の人の𡣞つまどひに迎へられて、彼所かしこにゆく。三郎の豊雄とよをなるものあり。
見る者さてこそうはさのある公方樣くばうさまの御落胤の天一坊樣といふ御方なるぞ無禮せばとがめも有んと恐れざるものもなく此段早くも町奉行まちぶぎやう大岡越前守殿のみゝに入り彼所かしこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつかは竜宮界りゅうぐうかいへのみちすがら、ちょっと竜神りゅうじん修行場しゅぎょうばをのぞかしたこともあるが、あれではあまりにあっけなかった。もう一そち彼所かしこれてくとしょう。
大風おほかぜ突然とつぜん不用意ふようい二人ふたりたふしたのである。二人ふたりがつたとき何處どこ彼所かしこすですなだらけであつたのである。彼等かれらすなだらけになつた自分達じぶんたちみとめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
古綿ふるわたのごとく此處こゝ寸斷ちぎ彼所かしこ寸斷ちぎ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「いや何所どこ彼所かしこも御無沙汰で」と平岡は突然眼鏡を外して、脊広せびろの胸からしわだらけの手帛ハンケチを出して、眼をぱちぱちさせながらき始めた。学校時代からの近眼である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武士らかしこまりて、又豊雄を押したてて彼所かしこに行きて見るに、いかめしく造りなせし門の柱もちくさり、軒のかはらも大かたはくだけおちて、一八二草しのぶひさがり、人住むとは見えず。
ながし有難き今の御言葉身のかなしさをお話し申さん彼所かしこふしたるは父にて候ふ所其以前は可成なる旅籠屋はたごやなりしが私し五歳の時母は相果たり夫よりは家の活業なりわいおとろへ下女下男に暇を取せ其中にお早と申すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いや何所どこ彼所かしこも御無沙汰で」と平岡は突然とつぜん眼鏡めがねはづして、脊広の胸から皺だらけの手帛ハンケチを出して、をぱち/\させながらき始めた。学校時代からの近眼である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
絵は無論仕上しあがつてゐないものだらう。けれども何処どこ彼所かしこも万遍なく絵の具がつてあるから、素人しらうとの三四郎が見ると、中々立派である。うまいか無味まづいか無論わからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だからわたし達が一番いと思ふのを、だまつてもらへば、夫で何所どこ彼所かしこも丸くおさまつちまふから、——だから、御父おとうさんが、殊によると、今度こんどは、貴方あなたに一から十迄相談して
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)