まれ)” の例文
東は富士河みなぎりて流沙りうさの浪に異ならず。かかる所なればおとなふ人もまれなるに、加樣かやう度々たび/\音信おんしんせさせ給ふ事、不思議の中の不思議也。
酒は余り飲むな? はあ、今日のやうに酔うた事はまれです。かたじけない、折角の御忠告ぢやから今後はよろしい、気を着くるです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
里人のかたるを聞けば、汝一旦ひとたび愛慾あいよく心神こころみだれしより、たちまち鬼畜に一二五堕罪だざいしたるは、あさましともかなしとも、一二六ためしさへまれなる悪因あくいんなり。
捕われた時九歳ほどらしく三年して死んだ、いつ四這よつばいだがまれに直立し言語せず餓える時は口に指した。
山家やまがものには肖合にあはぬ、みやこにもまれ器量きりやうはいふにおよばぬが弱々よわ/\しさうな風采ふうぢや、せなかながうちにもはツ/\と内証ないしよう呼吸いきがはづむから、ことはらう/\とおもひながら、れい恍惚うつとり
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
始終蒼い顔ばかりしている病身な主婦は、暖かそうな日には、明い裏二階の部屋へ来て、まれには針仕事などを取出していることもあったが、大抵は薄暗い自分の部屋に閉籠とじこもっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
孔子こうしいはく、(二〇)伯夷はくい叔齊しゆくせい舊惡きうあくおもはず、うらここもつまれなり。じんもとめてじんたり。またなにをかうらみん』と。(二一)伯夷はくいかなしむ、(二二)軼詩いつしるにあやしむし。
梅は世にまれなる美人であつた。いとけなくして加賀中納言斉泰なりやすの奥に仕へたが程なくしりぞけられた。それがしと私通したからである。梅は暫くお玉が池の柏軒の許に潜んでゐて、此に至つて養玄に嫁した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
錯乱雑駁なる今日の政界において誤謬に陥らざることほとんどまれなり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
高家こうけといわるるも、みな干戈かんかを枕とし甲冑かっちゅうを寝巻にし、寒夜も山野に起臥きがし暑日も道路に奔走し、酒肴しゅこうに飽くこともなく朝夕雑飯に糠汁にてくらし、一生身体を労苦し、はては畳の上の死まれなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
上州、信濃、越後、丁度三国の国境のあたりに客のまれな温泉がある。
山の貴婦人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
伯夷叔斉はくいしゅくせいは旧悪をおもわず、うらみこれを用いてまれなり。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あはれ一度ひとたびはこの紳士と組みて、世にめでたき宝石に咫尺しせきするの栄を得ばや、と彼等の心々こころごころこひねがはざるはまれなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いにしへより此の毒にあたる人、幾許いくばくといふ事をしらず。死してみづちとなり、或は霹靂はたたがみふるうてうらみむくたぐひは、其の肉をししびし(ほ)にするとも飽くべからず。さるためしはまれなり。
山家やまがの者には肖合にあわぬ、都にもまれな器量はいうにおよばぬが弱々しそうな風采ふうじゃ、背中を流すうちにもはッはッと内証ないしょ呼吸いきがはずむから、もう断ろう断ろうと思いながら、例の恍惚うっとり
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アラブ人馬掛けて誓う事まれだが、もし馬掛けて誓えば命を亡うまでも約をたがえず。予ベダイ輩を護身卒にやとうに、ただ牝馬をいて誓わしめたが、いかな場合にも誠を尽し、親切に勤めた。
の古戦場をよぎつて、矢叫やさけびの音を風に聞き、浅茅あさじはらの月影に、いにしえの都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此のおうなが六十年の昔をすいして、世にもまれなる、容色みめよき上﨟じょうろうとしても差支さしつかえはないと思ふ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはまれに深山にある大きな獣で、目鼻手足なく口ばかりありて人を食う。
これ今の欧米にまれに見るところで、わが神社の短処を補うて余りあり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)