小刻こきざみ)” の例文
ややありて二人三人みたり跫音あしおと小刻こきざみに近付きつ、「私だよ。」というはお丹の声、「おやどうしなすった。」お丹は闇中くらがりすかし見て
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝは製罐部のような小刻こきざみな、一定の調子リズムをもった音響でなしに、図太い、グヮン/\した音響が細い鋭い音響と入り交り、汽槌スチーム・ハンマーのドズッ
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
軽い小刻こきざみくつの音がすると、喬生は急いでって往ってを開けた。少女の持った真紅の鮮かな牡丹燈がず眼にいた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに、小刻こきざみによろけるやうに歩いて居るのは、後ろ向きになつて垣から縁のところまで歩いて來た證據ぢやありませんか
とことことことこ小刻こきざみにかける足音がしたと思ふと、せつせと原稿を書いて居る三田の目の前に、母親に似て上唇の厚ぼつたくとんがつたひよわさうな子供が
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
血色は優れず、両の眼玉は、あり得べからざるものの姿でも見た人のように、うつろに見開かれて、食器をとる手は、内心の亢奮を包み切れずか絶えず小刻こきざみに顫えていた。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
とその中を、すらりと抜けて、つまも包ましいが、ちらちらと小刻こきざみに、土手へ出て、巨石おおいし其方そなたの隅に、松の根に立った娘がある。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいあえず、上着の片褄かたづま掻取かいとりあげて小刻こきざみに足はやく、さっと芝生におり立ちぬ。高津は見るより
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白足袋で、黒の爪皮つまかわを深く掛けた小さく高い足駄穿あしだばきで、花崗石みかげいしの上を小刻こきざみの音、からからと二足三足。つむりが軒の下を放れたと思うと、腰をして、打仰いで空を見た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しとしという尋常らしい跫音あしおとが、今はびちゃびちゃと聞えて来た。水ならかかとまでかかろう深さ、そうして小刻こきざみはやくなったが、水田みずた蹈込ふみこんで渡るのをあぜから聞く位の響き。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とほ彼方かなたからひた/\と小刻こきざみけてるのは、二本足ほんあし草鞋わらぢ穿いたけものおもはれた、いやさまざまにむら/\といへのぐるりを取巻とりまいたやうで、二十三十のものゝ鼻息はないき羽音はおと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
カラカラと小刻こきざみに、女の通る下駄の音、屋敷町に響いたが、女中はまだ帰って来ない。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取縋とりすがる法もあるけれども、対手あいて方はそれなり口も利かなかった咄嗟とっさの間、お夏は船納涼ふなすずみ転寝うたたねにもついぞ覚えぬ、冷たさを身に感じて、人心地もなく小刻こきざみにつかつかときびすを返した。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時なんぞは銀行からお帰り匇々そうそうと見えまして、白襟で小紋のお召を二枚もかさねていらっしゃいまして、早口で弁舌のさわやかな、ちょこまかにあれこれあれこれ、始終小刻こきざみに体を動かし通し
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むささびか知らぬがきッきッといって屋のむねへ、やがておよそ小山ほどあろうと気取けどられるのが胸をすほどにちかづいて来て、牛が鳴いた、遠くの彼方かなたからひたひたと小刻こきざみけて来るのは
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はなれたあぜつたつて、むかふからまたひとつ、ひよい/\とて、ばさりとかしらせておなじくまる。と素直まつすぐ畷筋なはてすぢを、べつ一個ひとつよたよた/\/\と、それでも小刻こきざみ一本脚いつぽんあしたけはやめていそいで近寄ちかよる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「恐れるな。小天狗こてんぐめ、」とさも悔しげに口の内につぶやいて、洋杖ステッキをちょいとついて、小刻こきざみに二ツ三ツつちの上をつついたが、ものうげに帽の前を俯向うつむけて、射る日をさえぎり、さみしそうに、一人で歩き出した。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一言も物いわぬ三人の口は、一度にバアと云って驚かそうと、我がために、はたしかく閉されているように思って、友染はかんざしの花とともに、堅くなって膳を据えて、浮上るように立って、小刻こきざみふすまの際。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚊遣香かやりかうは、小刻こきざみつてうねつて、せつせといぶる。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小刻こきざみに灰を落したが、直ぐにまた煙草にする。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お丹は小刻こきざみに座を進め
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)