小児しょうに)” の例文
旧字:小兒
又必要に迫られて、人家の食物を奪い、婦女小児しょうにを奪うことが有る。人が𤢖の名を口にするに至ったのは多分この以後の事であろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同時に優れた文芸批評家であったウエーンライトの話、小児しょうに臀肉でんにくせんじて義父の癩病を治そうとした野口男三郎の話、さては
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日本もまた小児しょうにに教える歴史は、——あるいはまた小児と大差のない日本男児に教える歴史はこう云う伝説に充ち満ちている。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
敵将のこうべを挙げたるごとく、ずい、と掲げて、風車かざぐるまでも廻す気か、肌につけた小児しょうにの上で、くるりくるりとかざして見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しずがたけのかっせんの始終は三さいの小児しょうにまでも知っていることでござりますから、いまさら何を申しましょうなれども
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夜半観測の間合まあいなどには暖炉に向いながら、旧里ふるさとあずけ置きたる三歳の小児しょうにが事など始めて想い起せし事もありたり。
プールと共に小児しょうに達の水遊び場を作り、水の遊園地とするはずで、やがては雲仙名所の一つとなる日も近いであろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「ばかな!」と叱って——「陸口の将は小児しょうに烽火台のろしだいの備えもあるし、荊州の守りは泰山の安きにある。そちまでが敵の流言に乗せられてどうするか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それであればこそ路傍ろぼう耳朶じだに触れた一言が、自分の一生の分岐点ぶんきてんとなったり、片言かたことでいう小児しょうにの言葉が、胸中の琴線きんせんに触れて、なみだの源泉を突くことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
妙了は年久しく渋江の家に寄寓していて、つね小児しょうにの世話をしていたが、中にも抽斎の三女とうを愛し、今また成善の生れたのを見て、大いにこれを愛していた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いよいよ最後の実験にとりかかろうと決心し、最初にだれにうえるべきか、適当な小児しょうにを物色しました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さわと申される女子おなごも、その母親も、十数年前に死去致し、郡奉行、村役人とも、当時在勤の者がおりませず、ただ、近所の百姓共の申し分には、確かに、御落胤らしき小児しょうに
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ケートは窓から外面そとながめる。小児しょうにたまを投げて遊んでいる。彼等は高く球を空中になげうつ。球は上へ上へとのぼる。しばらくすると落ちて来る。彼等はまた球を高く擲つ。再び三度。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知りません。しかし私自身では、丁度ちょうど限りない真理の大洋が横たわっている前で、浜辺になめらかな小石や美しい貝殻を拾って楽しげに遊んでいる一人の小児しょうにのようにしか思われないのです。
ニュートン (新字新仮名) / 石原純(著)
それからもう一つ、『小児しょうにのための三つの小さき唄』は愛すべきものであった。
そのうち余は日本の力士を大きく仁王におうの如く米国水兵を小さく小児しょうにの如くに描き、日本の力士が軽々かるがると米俵を両手に一ツ一ツ持上げたるさまを見て米国水兵の驚愕きょうがくせるさまを示したるものと
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
世には小児しょうにの食物に注意する人すくなし。しかれども小児の発育は主として食物の良否に関す。食物を精選せずして小児の発育せん事を望むは肥料を与えずして我が麦の大ならん事を祈るがごとし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お前の弟粂之助はまだ頑是がんぜもない小児しょうにほかに頼る者もないに依って何卒どうかお前、丹精をして成人させて呉れとのお頼み、そこで私が寺へ引取って、十一から三ヶ年も貴様の面倒を見てやったが
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
妖精ようせいというものは姿すがた可愛かわいらしく、こころわかく、すこしくこちらで敵意てきいでもしめすと、みなこわがって何所いずこともれず姿すがたしてしまう。人間界にんげんかい妖精ようせい姿すがたものが、たいてい無邪気むじゃき小児しょうにかぎるのもそのせいじゃ。
対手あいてういう覚悟で居ようとは、重太郎は夢にも知らぬ。彼は母に甘える小児しょうにのような態度で、あくまでもお葉に附纏つきまとった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
………国経はそう思った途端に、涙がぽろ/\とこぼれて来た。老いれば小児しょうにかえると云うが、八十翁の大納言は、子供が母を呼ぶように大きな声で泣きわめきたかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人間一人ひとりの生命にかかることですから粗忽そこつにはできません。かような実験は小児しょうにでなくてはできませんが、さて自分には子供がなし、むやみに他人の子をかりてくることもできません。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「あんな黄口こうこう小児しょうにが、大都督護軍将軍に任ぜられるとはいったい何事だ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厚樫あつがししんとおれと深く刻みつけたる葡萄ぶどうと、葡萄のつると葡萄の葉が手足のるる場所だけ光りを射返す。この寝台ねだいはじ二人ふたり小児しょうにが見えて来た。一人は十三四、一人は十歳とおくらいと思われる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゴンクウルはなほ章をあらたにして「子宝合こだからあわせ」の如き錦絵によりて日本の婦女の小児しょうにを背負ひあるひは抱きあるひは乳を呑ませあるひは小便さするさまに至るまで精細にまた物珍し気にこれを記述したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかなお連綿として六百余年の𤢖生活を継続しきたったのは、彼等が折々に里を荒して、婦女を奪い小児しょうにさらって行くが為に、辛くも子孫断絶をまぬかれ得たものと察せられる。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町の小児しょうにらが河に泳いでいると、或る物が中流をながれ下って来たので、かれらは争ってそれを拾い取ると、それは一つの瓦のかめで、厚いきぬをもって幾重いくえにも包んであった。