家主いえぬし)” の例文
なにしろ其の儘にしては置かれないので、お徳はとりあえずその実否じっぴを確かめに行こうとすると、家主いえぬしもその噂を聴いて出て来た。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家主いえぬしが這入るについて、愛嬌が示談じだんの上、不安に借家を譲り渡したまでである。それにしても小野さんは悪るいところを下女に見られた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度ならず二度までもあまりといえば不思議なので翌朝よくあさ彼はすぐ家主いえぬしの家へ行った、家主やぬし親爺おやじに会って今日まであった事を一部始終はなして
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
宝暦の三年下河原清左衞門という浪人者が築地小田原町に裏家住いを致して居るうちに、家主いえぬし金兵衞が、娘の孝心から誠に気の毒だというので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
毎日通う役所から四時過ぎに帰って、十畳ばかりのにすわっていると、家主いえぬしの飼う蜜蜂が折々軒のあたりを飛んで行く。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
中川君がそれを見て家主いえぬしに聞いたところが今日明くのでまだ後の借人かりてまらない。しかし割安の家だから直ぐに借人が出来るだろうといった。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
手前どもの町内などでも名主なぬし家主いえぬしが今朝はもう五ツ頃から御奉行所へお伺いに出るような始末で御座います。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時刻にすると、ちょうど同じ刻限、釘勘が去ったあとの甲府町方の役宅へ、急を訴えて来た家主いえぬしがあります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家主いえぬし女主人おんなあるじところ見知みしらぬひとさえすればそれもになる。もん呼鈴よびりんたび惴々びくびくしては顫上ふるえあがる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
は次第に明けて来た。やっと明るくなったと思うと、家主いえぬしの女が来て交代してくれようとった。マリイはうれしそうに同意して、病人を一目見て、次のへ出た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
と堀尾君は悌四郎君の好意にすがった。引っ越しの日には家主いえぬしの清水君も差配をつれて出張に及んだ。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
家主いえぬしのお妾が、次のを台所へとおりがかりに笑ってくと、お千さんが俯向うつむいて、莞爾にっこりして
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうえ、家主いえぬしのオイレル老書記は、祖父の友人で、クリストフ一家の者を知っていた。
荒屋あばらやトつのこして米塩こめしお買懸かいがかりの云訳いいわけ家主いえぬし亀屋かめやに迷惑がらせ何処どこともなく去りける。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
家主いえぬしの無残にりし柳かな 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かれは帰る途中でいろいろに思案したが、どちらとも確かに分別がつかないので、家へ帰って町内の家主いえぬしに相談すると、家主は眉をよせた。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真実な人で、女房をおれんと云って三十八に成ります、家主いえぬし内儀かみさんは随分権式けんしきぶったものでございますが至って気さくなお喋りのお内儀さんで
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしが富士川游ふじかわゆうさんに借りた津軽家の医官の宿直日記によるに、允成ただしげは天明六年八月十九日に豊島町どおり横町よこちょう鎌倉かまくら横町家主いえぬし伊右衛門店いえもんたなを借りた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
暗くなり切った時、家主いえぬしの女が蝋燭ろうそくともして来て、病人の寝ているそばの、今一つの寝台ねだいこしらえに掛かった。それを見てマリイはそれには及ばぬと、手真似てまねで知らせた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
大抵かろうと云う事で分れたそうだが、家主いえぬしの方へ責任もあるし、又其所が気に入らなければ外を探す考もあるからと云うので、借りるか借りないか判然はっきりした所を、門野に
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それなら家主いえぬしじゃありませんか。家作かさくは沢山ありますか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もうこうなっては仮面めんをかぶっていられないので、かれは自分の身分を名乗って、家主いえぬし立ち会いで焼け跡をあらためた。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
などゝ呼込みますと、その訴訟の本人相手方、只今では原告被告と申します、双方の家主いえぬし五人組は勿論、関係の者一同がごた/\白洲へ這入ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家主いえぬしの所へ呼ばれて江戸から来た手紙を貰ったら、山本様へのお手紙であったと云って、一封の書状を出した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
マリイは家主いえぬしを連れて出て来て、車の中にすわっている男に、この貸別荘の好い所を話させた。男は別に異議がなかったので、数分時間ののちに、二人はその家を借り受けた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
と此の家主いえぬしが中へ入りまして五十両の金子を渡しまして、娘を確かに友之助に嫁に遣ったと云う証文を取り、懐中へ入れて文治はお村の宅を出まして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
半七は寅松兄妹きょうだいが住んでいたという裏長屋をたずねて、その家主いえぬしに逢った。家主も兄妹のゆくえを知らなかった。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家主いえぬしの婆あさんなんぞは婆あさんでも最少もすこ艶々つやつやしているように思われるのである。瀬戸はこう云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうすれば、自然にお金のゆくえも判り、侍の身許もわかるに相違ないというので、お金のおふくろは片門前の裏借家から家主いえぬし同道で呼び出されました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家主いえぬしさんが御親切に色々仰しゃって下さり、それにあのお内儀さんは綿を紡む内職が名人だそうで近所の娘達も稽古に来るからお前もよこしたら宜かろうと
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どういうわけかと問うと、芸者なんぞは、お白いや頬紅の effetエフェエ を研究するにはいかも知れないが、君の家主いえぬしのお上さんのような生地きじの女はあの仲間にはないと云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
家主いえぬしが人がいから、追出すと意趣返しをすると云うので怖がって置くのだがくない、此処こゝにちゃんと葛籠があるわ、上方者だと思って馬鹿にして図々しい奴だ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蚊帳かやもそのままに吊ってあって、次の間の四畳半には家主いえぬしと下女のお村が息をむように黙って坐っていた。半七は家主の顔を見識っているので、すぐに声をかけた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家主いえぬし植長うえちょうがどこからか買い集めて来てくれた家具の一つの唐机とうづくえに向って、その書いて見るということに著手ちゃくしゅしようとして見たが、頭次第だと云う頭が、どうも空虚で、何を書いていか分らない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
幅広の路次ろじがありまして、その裏にすまって居りまするのは上方かみがたの人でござりますが、此の人は長屋中でも狡猾者こうかつもの大慾張だいよくばりと云うくらいの人、此の上方者が家主いえぬしの処へ参りまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「近所へ挨拶はしねえでも、家主いえぬしには断わって行ったろう。家主はどこだ」
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
正面にむしろの敷いてある処は家主いえぬし、組合、名主其のほか引合ひきあいの者がすわる処でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
直接に猫婆に談判しても容易に埓があくまいと思ったので、月番つきばんの者が家主いえぬしのところへ行って其の事情を訴えて、おまきが素直に猫を追いはらえばよし、さもなければ店立たなだてを食わしてくれと頼んだ。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家主いえぬしも驚きまして引取りに参り、御検視お立会たちあいになると、これは手のすぐれてる者が斬ったのであるゆえ、物取りではあるまい意趣斬りだろうという。なれども貞宗の刀が紛失ふんじつしている。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三浦という老人は家主いえぬしで、その時代のことばでいう大屋おおやさんであった。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
店子たなこが死んだのであるから、家主いえぬしも見ていることは出来ない。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小「これ林藏、立花屋源太郎の縄を解いて家主いえぬしへ引渡せ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家主いえぬしちょう役人も立ち会いの上で型のごとくに訴え出た。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
幸「何をするんだ、放さねえと家主いえぬしへ届けるが宜いか」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)