かかあ)” の例文
「きょうはかかあが留守だから、見舞はいずれ後から届けるが、小児こどもが病気じゃあ困るだろう。まあ、取りあえずこれだけ持って行け」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一見筋の悪い口入屋のかかあと云つた風の女が妙な苦笑を浮べながら石階を降りて小さな自分の包を取りに隅の方の腰掛の傍に行つた。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
例によって彼自身では何一つ楽しみも与えもしないで、苦労ばかりさせた妻にむかっては「ぼていふりのかかあが相当だ」とののしった。
まるで赤ん坊を寝かしたような恰好で、その方がヨッポド気味が悪いんですが、かかあはその方が安心らしく、よく眠るようになりましたよ。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
帰りはまた聿駄天いだてん走りだ。自分のつらいよりか、朝から三時過ぎまでお粥もすすらずに待っているかかあや子供が案じられてなんねえ。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ええ、行きますべえ、ああ、どっこいしょ、山で日を送ってりゃ安気あんきなもんだ、あさっでは久し振りでかかあの顔でも見ますべえかなあ……」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
めかけも囲い者もあるかな、おれには女はお前一人ひとりよりないんだからな。離縁状は横浜の土を踏むと一緒にかかあに向けてぶっ飛ばしてあるんだ」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
荷馬車はもう準備したくが出来てゐて、権作はかかあに何やら口小言を言ひながら、脚の太い黒馬あをを曳き出して来て馬車に繋いでゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから、彼は急に泣き出して了ひ、「わいのかかあは、間男しやがつて、そいつの子を産みやがつて」と嗚咽をえつしたが、やがて濡れた顔をあげると
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
彼の家に起ったこの二つの事件は、地主のかかあ共に依って次のようなデマを生み、部落内へ流布された。「神様を粗末にするから罰が当ったのだ」と。
母へ (新字新仮名) / 長沢佑(著)
「あの野郎はかかあをもらつて、今年は休ましてもらひますだとの」などいふ会話が幕の間に舞台の上下で交はされる。
閑山 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
かかあでもいるとおぐしやお召物のお世話をして上げるんでございますけれども、まあそのうちに嬶も帰って参りますから
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
併し、要するに、皆な自分の腑甲斐ない処から来たのだ。彼女あれは女だ。そしてまた、自分がかかあや子供の為めに自分を
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
かかあや餓鬼を愛することが出来るに至って人間並の男で、好漢を愛し得るに至ってはじめて是れ好漢、仇敵きゅうてきを愛し得るに至ってホントの出来た男なのだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして『遠眼鏡スパイグラース屋』は借地権も暖簾のれんも道具一式もすっかり売り払って、かかあどんは己と逢うためにそこを出ているよ。
そこへ持って来て、子供二人と老母とかかあとこれだけの人間が、私を、この私を一本の杖にしてすがってるんです。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
……男は悲しい、可哀そうなもんだ。だから、だからおらあかかあをはり倒す、拳骨げんこつでも平手でも、……この阿魔ッふざけるな、蹴ころがしてやることもあるさ
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かかあも因果な奴さ、と卯平の云った言葉がぴんと胸にひびき、彼は、苦労させつづけている自分の女房と子供達のことを思い出し、今更のことではないけれども
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かかあ餓鬼がきを、ぼしにしておいて、どのつらさげて帰って来たかっ、この呑ンだくれの、阿呆おやじがっ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生れ立ての羚羊、亭主おやじの羚羊、それからかかあの羚羊とこう三匹つかめえましたならば、まず餓鬼がきの羚羊をモン・ブランのてっぺんへ持って行ってくくりつけておく。
藤兵衛のかかあめ、俺がいつか小豆一升貸せいうて頼んだのに、貸せんというてはねつけやがったものな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「なアに何家どこかかあも同じことよ。彼女あれはここへ来ても、小舎うちにいても、せっせと仕事をしているだ」
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
見てきた男に聞けば、林でおいおい泣き声が聞こえるから行ってみると、それは小屋の祭文読みのかかあで、自分でめ殺した赤児を抱いて声をげて泣いていたそうな。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おらんちのかかあが目を悪くして病院さ入れたんでがすが、手術をしなくちゃ目が見えなくなってしまうっていうんで、手術をしてもらうべと思ったら、それにゃあ百五
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
この里には別嬶べっぴんもいる、一人ずつかかあにするがいい。ため込んだ金もある筈だ、洗いざらいふんだくってしまえ! まず行って下知げちを伝え、その足ですぐに裏手へ廻れ!
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ありゃ、山の狐じゃ。淋しいから、わしのかかあにしてしもた。子が生れると、安倍晴明になる」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「俺にだってかかあや子供はいるんだで」白首ごけのことを話した漁夫が急に怒ったように云った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
言いますと、私の見込みもまずその辺のところですな。失礼ですが、あんたは私の逃げたかかあに似てなさって、とても尋常では一人の亭主を護ってる柄でないようにおありなさる
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「じゃあ、さっさと帰ってって、かかあに出鱈目を聞かせるさ! そら、お前の帽子だよ。」
ゲエープツ、ああ酔つたぞ酔つたぞ真実ほんとに好い心持に酔つて。かう酔つた時の心持は実に何ともいへないや。かかあが怒らうが、小児がきが泣かうがサ、ハハハハゲエープツ、ああ好い心持だ。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「真面目もへったくれも有ッたもんかい!……気に入りゃ、かっぱらってかかあにするし、いやになりゃポイポイ売ッとばすんだ。世話がなくって、どれだけ気しょくがいいか知れめえ!」
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
文壇や美術界を見ても、真面目な批評は一つも見られなくて、人の噂ばかりしかしていない。してみると日本の文壇画壇などというものは、まず長屋のかかあ寄合よりあいと同様に看做みなすべきものだ。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眼玉の大きいところから蜻蛉のたつと呼ばれている中年者が住んでいるが、去年の夏、女郎上りのかかあに死なれてからは、昼は家にごろごろして日暮れから夜鳴饂飩よなきうどんを売りに出ているとのこと。
安どまりのかかあだよ。おきぬさん心配おしでない。喧嘩や刃物にゃ慣れっこだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「源公の野郎、木っぱとかかあとばくみっこすりゃがって!」(交換の意)
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
「おとよさんほしいというか、かかあにいいつけてやるど、やあいやあい」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
初めは行き暮れた旅人を泊らしては路銀をぬすむ悪猟師の女房、次にはよめいびりの猫化郷士ねこばけごうしの妻、三転して追剥おいはぎの女房の女按摩となり、最後に折助おりすけかかあとなって亭主と馴れ合いに賊を働く夜鷹よたかとなり
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「何故って、子供をつけて出そうというのはかかあに魂胆があるからさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かかあ、ゆ、許してくれ、おら、申わけがねえ。申わけがねえだ。』
神童の死 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かかあの気の毒がるのをしかりつけようてった調子なんですからね。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「なにが不足で、わりゃかかあを置き放して、逃げるんか」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「だんなさま、かかあがくいころされておりますだァ!」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「独りだ。先月八人目のかかあににげられたんだ。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ああ 奧さん! 長屋の上品なかかあども
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
頬の赤いかかあが長々と昼寝をしてゐる
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
かかあは夜番
炭坑長屋物語 (新字新仮名) / 猪狩満直(著)
あっしも多分そんな事だろうと思っているにはいるんですが……ですから一緒に寝ているかかあがトテモ義足を怖がり始めましてね。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やっぱり手ぶらで帰って来て、『今夜もまたやり損じた。おまけにかかあが大きな声を出しゃあがったから、自棄やけになって土手っ腹をえぐって来た』
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あの野郎はかかあをもらって、今年は休ましてもらいますだとの」などいう会話が幕の間に舞台の上下で交わされる。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
間もなく木賃宿のかかあが外に出て来たから、訊いて見ると、その男は昨日日が暮れてから来て泊つたのだといふ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)