夫程それほど)” の例文
この山は遠望した所では頗る怪奇な山容を呈しているが、登って見ると夫程それほどの岩山とも感じないのは、木がよく繁っている為であろう。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
たとひ彼が鉄血宰相の謳歌者であつたにした所で、謳歌されるビスマークの方では、夫程それほど彼の言論に動かされてゐなかつたかも知れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
養子にく約束のある圓次を邪魔にし、圓次さえなければ末永くお作とたのしめるという了簡に違いない、夫程それほど気にいらないおえいを女房に持たして置くのは気の毒だから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
如何いかにも済まぬではないか。おッ母さんは夫程それほどに思わぬだろうが、如何どうしても乃公が済まぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きくためまゐるに何の怖敷事おそろしきことの有らんやと強て申故母も止めかね夫程それほどに思はゞ兄は支度したく次第しだい江戸へ赴くべし弟彦四郎は此地に止まり我が心をなぐさめよと有に是非共兄樣と一所に出立しゆつたつせんと申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さう? でもうちぢや小供こどもがないから、夫程それほどでもなくつてよ」とこたへた御米およねのりふくました刷毛はけつてとん/\とんとさんうへわたした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たけ何卒どうぞ一方かた/\でもいからけてくれ、どうかエさうして薄くも見えるやうにしてれとふから、わたし医者いしやぢやアなし、おまへけやうはないが、夫程それほどに思ふならさだめし口惜くやしかつたらう
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
振たて何と申され候や土屋つちや六郎兵衞のことば夫程それほどおもきか中納言樣の御詞おことばそむくに於ては仰付おほせつけられの心得ありと大音に呼はりければ何れもきもつぶし時を移さず開門に及べば山野邊主税之助先にたつて門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
嫁入よめいり支度したく忙殺ばうさつされるのみならず、屹度きつと貧殺ひんさつされるだらうとかはなしになると、子供こどものない宗助そうすけみゝには夫程それほど同情どうじやうおこなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わしが取った金を遣ったんだとう云って出れば、お筆さんの助からん事は有るまい、私も長らく他人ひとの物を盗み取って旨い物を喰いい着物も着たが、金子かねを沢山取った割合には夫程それほど栄耀えようはせんよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何歳に相成やとたづねらるゝに市郎左衞門平伏へいふくして六十五歳に相成候と申立ければ夫程それほどの老人と云殊に女の身なるに何故なにゆゑにん指置さしおきしやとあるに市郎左衞門其儀は同居仕つるやうに申候へ共私し店の儀は大勢おほぜいとまきやく入込いりこみさわしき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御米およねはかう宗助そうすけからいたはられたときなんだか自分じぶん身體からだわることうつたへるにしのびない心持こゝろもちがした。實際じつさいまた夫程それほどくるしくもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助も椽側迄て、そこに気がいたが、夫程それほどの必要もあるまいと思つて、座敷をひととほり越して、ちゝの居に這入つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幸にして余の原稿が夫程それほどの手数がはぶけたとて早く出来上る性質のものでもなし、又ペンにすれば余の好むセピヤ色で自由に原稿紙をいろどる事が出来るので
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此一枚の仕切をがらりと開けさへすれば、隣室で何をてゐるかは容易たやすく分るけれども、他人に對して夫程それほどの無禮を敢てする程大事な音でないのは無論である。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一本で夫程それほど長く使えるものが日に百本も出ると云えば万年筆を需用する人の範囲は非常な勢をもって広がりつつあると見ても満更まんざら見当違けんとうちがいの観察とも云われない様である。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余の如く機械的の便利には夫程それほど重きを置く必要のない原稿ばかり書いているものですら、又買い損なったか、使い損なったため、万年筆には多少手古擦てこずっているものですら
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも初めのうちは、夫程それほど烈しくもなかつたので、三千代はたゞ交際つきあひやむを得ないんだらうとあきらめてゐたが、仕舞にはそれが段々かうじて、程度ほうづが無くなる許なので三千代も心配をする。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)