大風おおかぜ)” の例文
眼のすごい、口がおなかの辺についた、途方もない大きなふかが、矢のように追いかけてきて、そこいらの水を大風おおかぜのように動かします。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
「そらいけ。」と言うが早いか、何千人という大人数だいにんずうが、一どに馬にとびのって、大風おおかぜのように、びゅうびゅうかけだしました。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「だんなさん、からすの大事だいじか、人間にんげん大事だいじか。この大風おおかぜに、あなたはあのたかのぼらせなさるなのですか……。」
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にん武士ぶし縁側えんがわがってっていますと、やがてかみなり稲光いなびかりがしきりにこって、大風おおかぜのうなるようなおとがしはじめました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お杉が去り、お葉が去ったのちの角川家は、所謂いわゆる大風おおかぜの吹いたあとであった。塚田巡査も近所の人々も漸次しだいに帰ってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お萩がすきの酒嫌いで、地震の歌の、六ツ八ツならば大風おおかぜから、七ツかねぞと五水りょうあれ、を心得て口癖にする。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、それはそれとして、聖者ににらみつけられた青年は、大風おおかぜに吹きとばされたようにうしろへよろめいた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つるぎのようなものも、何千何百となくきらめいて、そこからまるで大風おおかぜの海のような、凄じいもの音が、河原の石さえ走らせそうに、どっとき返って参りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白帆が二つみっつそのふもとと思われるところに見えました。じっと見つめていると、そこから大風おおかぜが吹き起り、山のような大浪おおなみが押し寄せて来そうな気がしました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「どんな地震がしようと、大風おおかぜ海嘯つなみが起ろうと、むすめの像だけは、り出してくだされ」
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どんな大風おおかぜいても、それは安全あんぜんなものです。わたしたちには、とてもあなたのようなおぼつかない生活せいかつはできないのです。
二つの運命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし岩が相手の肩から全く彼の肩へ移った時、彼の体は刹那せつなあいだ大風おおかぜの中の旗竿のごとく揺れ動いたように思われた。するとたちまち彼の顔も半面をうずめたひげを除いて、見る見る色を失い出した。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれど、大風おおかぜいたときは、いそがしくさなければならない。これもやはりおじいさんにはきませんでした。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あんなたよりのない花圃はなばたけなんですか、今夜こんや大風おおかぜをどうして、あんなところでふせぐことができますか。」と、せみはあきれたようなかおつきをしていいました。
二つの運命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「みんなおれたちのかおをばわすれてしまったろう。十ねんばかりまえにおきて、大風おおかぜのためにとおくへながされたものだ。」と、そのなかのいちばんたかおとこがいいました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
すずめさん、それは容易よういなことでありません。あの日輪にちりんかがやいているところをごらんなさい。あんなにくもはやはしっているではありませんか。いつも大風おおかぜいているからです。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、いいひとさ。けれど、大風おおかぜいたり、地震じしんがあったりしたら、このいえは、がけがくずれてひっくりかえるかもしれん。そうすれば、ぼくたち安心あんしんして、ほんならうこともできないだろう。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうみがたいへんにれました。なみたかく、かぜさけびました。雨戸あまどをコトコトとらしました。海辺うみべにある太郎たろういえは、大風おおかぜくたびに、ぐらぐらとるぐかとおもわれたのであります。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
大風おおかぜのときは、そういうもんだ。このあらしがぎればあたたかになるぞ。」
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほど、くもはしっています。あなたのおっしゃるように大風おおかぜいているようすです。どうしたら、わたしちいさなからだが、かぜばされずに、たかく、たかんでゆくことができますでしょうか。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)