吃驚びっくり)” の例文
と、突然後からコートの背中をつっつくものがあるので、吃驚びっくりして振り返って見ると、見知らない一人の青年が笑いながら立っていた。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
すると、泥棒の方でも吃驚びっくりして、いきなり下女の顔へ手文庫の中のかねを叩き付けたそうで、可哀相に若い娘が額をやられております。
あたしたちは吃驚びっくりしているうちに、見物が抱上げて出車だしの上の人たちの手に渡してくれた。無論上にはお金坊もおよっちゃんもいた。
吃驚びっくりさせられる事があるんです。——いつかも修善寺の温泉宿ゆやどで、あすこに廊下の橋がかりに川水を引入れたながれの瀬があるでしょう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
障子が段々だんだんまぶしくなって、時々吃驚びっくりする様な大きなおとをさしてドサリどうと雪が落ちる。机のそばでは真鍮しんちゅう薬鑵やかんがチン/\云って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それはあなたの想像も及ばないところでして、きっとあなたは吃驚びっくりなさいますと同時に、限りなく腹をお立てになるだろうと思います。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかしそれと同時に三十四歳とはどうしても見えない、少なくも四十はだいぶ越しているらしい年配である事を発見して二度吃驚びっくりした。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
アメリア嬢はふとっちょの背の低い婦人で、姉をひどく怖がっていました。彼女はセエラのしうちに吃驚びっくりして、階下したに降りて行きました。
不意に後から声を掛けられたので、滝之助は吃驚びっくりした。次第に依ってはその人をも殺して罪を隠そうと、身構えながら、振向いて見た。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
いせいのいい声でどなりながら、七八人の少年たちが追って来て、こっちが吃驚びっくりしているうちに追いぬき、前へまわって立ちふさがった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを見ると、三次は脅し半分に腕を伸ばして辰の肩口を掴んだのだが、掴まれた辰よりもかえって掴んだ三次のほうが吃驚びっくりした。
やがて、東京へ行って来たむね蝶子が言うと、種吉は「そら大変や、東京は大地震や」吃驚びっくりしてしまったので、それで話の糸口はついた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
徳市は吃驚びっくりしてかしらを上げた。いた腹を撫でまわしてあたりを見まわした。眼の前に立派な家が立っていた。何気なくその表札を見た。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
その日は丁度大金を所持してゐたので花魁おいらん吃驚びっくりして店の金庫へ蔵してくれたこと、娼妓も三十を過ぎると全てに親切である話、等々
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
思出し笑いをしながら歩いているがんりきの横合いから不意に浴びせかけたものですから、そこでがんりきが吃驚びっくりして踏みとどまると
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ナニ構うことはないから、平気でドンドン、飛行機を進めて行くさ、輪形陣の中に、こっちが入って行けば自信を裏切られて吃驚びっくりする。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
玄関へ向って、胸を張って云ったが、家の中からはいらえがなく、その声に吃驚びっくりしたように奥の植込みの蔭で人影が木の葉をうごかした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふととどろいたお政の声に、怖気おじけの附いた文三ゆえ、吃驚びっくりして首をげてみて、安心した※お勢が誤まッて茶をひざこぼしたので有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「わたしも随分鈍馬とんまね。初めてこれを読んだときは、もう吃驚びっくりして、どうしたらいいか解らなかったのよ。何て馬鹿でしょうね」
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「標札を見て吃驚びっくりした。佐藤量順と言ってくれゝば直ぐ分るのに、佐藤氏佐藤氏と言うものだから、まさかあの先生だとは思わなかった」
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……それから、保羅ぽうるさんに、礼奴れいぬさん、そんな吃驚びっくりしたような顔をして、ウロウロしていないで、元気よく歌でもお唄いなさい。
菅子は吃驚びっくり人形のように起きあがると、浴衣の寝巻きのまま扉を開けに立った。叔母が出ていった布団の中はぬくぬくして気持ちがいい。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
人力車の多いのには吃驚びっくりする! 東京に六万台あるそうである! これは信用出来ぬ程の数である。あるいは間違っているのかも知れぬ。
そして、吃驚びっくりしている私達を尻眼に掛けながら、喬介はタンクの梯子を降りて行った。そして其処で騒いでいた助役を捕えると
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「言うたか。今にそう言うであろうと待っていたのじゃ。ならば迷いの夢をましてやるために嗅がしてやるものがある。吃驚びっくりするなよ」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
もし犬屋で売ってくれましたら、二人で同じものを手に入れて品評会へ出して、ソレルの夫人を吃驚びっくりさせてやりましょうって……
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「まあ、旦那様でしたか。こんな所に立っていらして、本当に吃驚びっくりしました!」と言いだした「いったいどうなすったのでございます?」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
吃驚びっくりするほど筋肉にくの引き緊った犬というのも見たが、なかなか良い犬であった。それから一行はクリミヤ産の牝犬を見に行った。
「ええ、あの長い顔のひげやした。あれはなに、わたしあの人の下駄を見て吃驚びっくりしたわ。随分薄っぺらなのね。まるで草履ぞうりよ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若し彼女が一寸でも吃驚びっくりしたり恐れたりすると、もう彼は幾百年も元の人間の体には戻れないと云う事を話して聞かせました。
王は確かに夢ではないと思ったが、眼を開けて吃驚びっくりさしてはいけないと思ったので、そのまま眠ったふうをしてじっとしていた。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを発見して私は非常に吃驚びっくりしましたが、そのことを翌日私の所へ見えられた折に話しをしましたら、先生はさすがに顔色を変えられて
泉鏡花先生のこと (新字新仮名) / 小村雪岱(著)
私も五つ六つ採集して紙に包み、小屋に帰ってから主人に見せたら、ヤア旦那、二両がとこ仕事をしましたネと言われて吃驚びっくりしたのでした。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
すると、この時に背後うしろの方に人の足音がしたので、僕は吃驚びっくりして振り向いた。和尚おしょうさんだろう。背の高い恐い顔をした坊さんが立っていた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
引き明けた戸口から、石でも投げ付けるように、小さな声が一斉いっせいに叫び立てた。万夫婦は吃驚びっくりして声も出なかった。子供達の叫び声は続いた。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
人々はどんなにか吃驚びっくりした事であったろう。房子は、物干のところで、まるで死体のようになって地べたへっ倒れていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「文戦はやはりさかんにやっていますか」ときいてみると、「えッ」と吃驚びっくりしたように問い返してから、「いや、ぼくは左翼さよくは嫌いだから——」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
『お望みとあらば、画いてもいい。但し、それには矢張り君自身がモデルになってくれなければいけない。』『それは困る!』画家は吃驚びっくりした。
汚れたジャケツは、吃驚びっくりして、三尺ほど空へとび上った。何事が起ったのか一分間ばかりジャケツが理解できないでいるさまが兵士達に見えた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
(梯子を駈け登りしため、息を切らしいる様子。)本当にあんまり出し抜けだもんですから、吃驚びっくりしましたのと、それにわたしははずかしくって。
殿様はさぞ吃驚びっくりしたでありましょう。これは私が子供のとき付いていた乳母が得意になって私に話して聴かした話で、今に耳に残っております。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ああそれではこの人は、光明優婆塞であるまいか」庄三郎は吃驚びっくりして、尚よく自分の前にいる有髪の僧を見ようとした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「実は、テレーズの人形を焚き捨てて頂きたいのです」とクリヴォフ夫人がキッパリ云い切ると、熊城は吃驚びっくりして叫んだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてついそのまま居眠りをしたり、ことによるとがっくりとねむりころげかかっては吃驚びっくりして眼を覚ましたりなんかした。
芳一はあまりに吃驚びっくりしてしばらくは返事も出なかった、すると、その声は厳しい命令を下すような調子で呼ばわった——
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
其の程度のボンヤリした考えで東京へ出て来たものだから、種々な微妙複雑な問題の氾濫にすっかり吃驚びっくりしたのである。
章魚木の下で (新字新仮名) / 中島敦(著)
堅くなった蓬餠でもあぶりながら、三年会わなかった弟の勇吉が駅で自分を見それて、吃驚びっくりしたように誰かと思ったと云った話もしたいのであった。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
とん、と一つ、軽くせなかを叩かれて、吃驚びっくりして後を振返って見ると、旦那様はもうこらえかねて様子を見にいらしったのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを見て下僕はいよいよ吃驚びっくりして「こりゃ本当にただのお方でない」と大いに恐れて、もはや疑いを起す余地もなくなってしまった様子でした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一方の友人はこの見なれぬ粗末な服装の女にさも慣々しく言葉をかけられたので、一方ならず吃驚びっくりしてあわてながら
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)